『THE TRUE COST ~ファストファッション 真の代償~』は、ファッションの大量生産・大量消費が引き起こしている環境問題や労働問題をリアルに掘り起こしたドキュメンタリー映画です。
HRN は11 月3日、一般公開を前に試写会を開催、映画の上映後、伊藤和子HRN 事務局長がユニクロの中国下請け工場での労働環境調査の結果を交えながら、ファストファッション業界で起きている人権侵害について報告し、参加者の方々とファストファッションの裏側にある「真の代償(トゥルー・コスト)」について議論しました。
過酷な労働現場
ファストファッションの裏側で世界中の人々が過酷な労働環境、公害や労働災害による深刻な健康被害等に苦しんでいる実情を克明に描いた映画の上映後、伊藤事務局長は、日本を代表するファストファッションブランド・ユニクロの人権問題に関わるHRN の活動を報告。HRNが2015 年1 月に出したユニクロ中国下請け工場の労働環境に関する調査報告書などをもとに、労働者が非常に高温な工場の中で上半身裸で働かなければいけない状況であったことや、長時間の残業を強いられている状況であったことなどを報告。ユニクロを傘下に持つファーストリテイリング社(FR 社)は、その後、問題を認識し改善策を公表。HRN は改善措置のモニタリングを続け、化学物質の開示、生活賃金の確保、サプライヤーリストの開示など、対応が不十分と見られる点について改善を求めていると状況を説明しました。
労働環境の改善するために
映画では、バングラデシュ・ダッカ郊外にある縫製工場ビル「ラナプラザ」が崩壊し多くの労働者が命を落とした「ラナプラザ事故」が取り上げられています。大手アパレル企業は事故後、無関係を装っていましたが、犠牲者が働いていた工場で、名だたる欧米ブランドの商品が作られていたことが明らかになりました。伊藤事務局長は、末端で働く人々の労働環境を劣悪にする産業構造を指摘。国際的なブランド企業は、低い発注価格を飲まなければ違う工業に発注すると迫るため、工場はその価格を受け入れ、しわ寄せを受けるのは労働者という現状があります。劣悪な労働環境を改善させるためには「商品の発注価格を見直さなければいけない」と強調しました。
消費者からムーブメントを
また、伊藤事務局長は映画で提起された、ファストファッションが人々を苦しめている現実を解決するため、消費者である私たちが行動を起こしていくことの意義を訴えました。消費大国である日本ですが、消費者の人権問題に関する意識はまだ低く、行動を起こす一歩が踏み出せていないのが現状ではないでしょうか。ヨーロッパでは、「ラナプラザを考えよう」といった市民によるイベントが数多く開催されています。他にも、Clean Clothes Campaign(CCC) など、SNS で参加を呼びかけられた人たちを中心にアパレル店舗の前で抗議行動が行われています。伊藤事務局長は、「日本でも、このような運動をしてくれるような人が出てきてほしい」と呼びかけました。また、「私たちの関心が薄れると会社はやる気がなくなっていく」と関心を持ち続ける大切さを訴えました。
最後には、エシカルファッションに興味を持つ高校生たちから「日本でCCC のような団体を立ち上げて活動していきたい」との発言もあり、会場が活気づきました。
筆者自身もファストファッションにはお世話になり、流行のファッションが安く買えてありがたいと思ってきました。安いのには理由があるとは思っていたものの、最低賃金にも満たない賃金、どんな副作用が出るか分からない化学薬品の使用などの劣悪な労働環境の中で作られているとは考えてもみませんでした。このイベントは商品の背後にある様々な「代償」に目を向ける良いきっかけとなりました。( 高木あずさ)