マレーシア・サラワク州の違法伐採企業との取引停止を求める声明
2015年7月17日
東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、マレーシア・サラワク州での森林の違法伐採が先住民族に対する深刻な人権侵害を引き起こしていることに深い憂慮を表明するとともに、それにも関わらず日本企業がサラワク州の木材のかなりの割合[1]を輸入し続けていることを強く非難する。マレーシア政府及びサラワク州政府も違法伐採の問題に本格的に取り組み始めており、日本企業は今こそ違法伐採企業との取引を停止し、違法伐採木材の輸入を根絶すべきである。また日本政府も違法木材の輸入の取締りを強化するため関係法令を速やかに改正すべきである。
1.マレーシアでの違法伐採による先住民族の人権侵害及びマレーシア政府の対応
マレーシアでは長年にわたり違法伐採や開発により先住民族が先祖伝来の土地や森林を奪われてきた。先住民族は伝統的な生活様式を維持するため、土地及び森林に生活の全てを依存しており、森林の違法伐採は、土地の権利など、国内法及び国際人権基準で保障されている先住民族の権利を著しく侵害するものである
このような事態に対処するため、SUHAKAM(マレーシア人権委員会)は人権の観点から実態調査を行い、2013年に先住民族の土地の権利に関する報告書[2]を公表した。同報告書では、先住民族の土地に関する慣習的な権利が法令上正しく認識されておらず、その結果、先住民の権利を侵害する形で伐採や開発の許可が与えられていることが、詳細に論じられている[3]。
これを受けてマレーシア政府は同報告書を分析するためのタスクフォースを立ち上げ、本年6月17日、マレーシア政府がタスクフォースの勧告をほぼすべて受け入れることを決定したとの報道がなされた[4]。タスクフォースの勧告には、先住民族の土地の権利を正確に認識し、開発に際し影響を受ける先住民族に事前通知をし、同意を得ることなどが含まれており、マレーシア政府はこれらの勧告を1年以内乃至3年以内に実施するとされている[5]。
2.サラワク州の違法伐採の状況及び最近の州政府の方針転換
とりわけサラワク州については従来から多くのNGOが州政府と大手伐採企業との癒着による違法伐採を指摘してきた[6]。サラワク州の土地法が先住民族の土地の権利を正しく認識していないことも相まって[7]、伐採ライセンスの供与が先住民の土地の権利を無視した形で行われ、数多くの紛争や訴訟が発生している[8]。また、伐採ライセンスの許可地域外での違法伐採も行われている。
これについては、以下のとおりサラワク州の首相までもが批判するに至っているほどである[9]。昨年、サラワク州では首相が交代し、違法伐採の問題に本格的に取り組む方針が表明された。新首相のアデナン・サテム氏は伐採ライセンスが許可地域外での違法伐採に使用されているとして、サラワク州の伐採企業大手6社(WTK
Holdings Sdn Bhd, KTS Holdings Sdn Bhd, Rimbunan Hijau Forest Corporation Sdn
Bhd, Tan Ann Group, Samling及びShin Yang Groups)の首脳に対し下請業者等を含め違法伐採を行わないよう直接警告した[10]。また、違法伐採の問題が処理されるまでの間、伐採ライセンスの新規発行は停止されている[11]。
前述のマレーシア政府の対応及び上記のサラワク州政府の方針転換により、サラワク州の違法伐採問題は今後更に注目を浴びることが予想され、サラワク州の木材の主要取引先である日本の対応も問われることとなろう。
3.日本の緩い規制による違法伐採の助長
日本はサラワク州の木材及び木材製品の最大の輸入国である[12]が、違法木材に関する規制が緩く、それによりサラワク州の違法伐採を助長していると批判されている[13]。
日本の違法木材に関する法令としては、グリーン購入法[14]及び同法に基づく「環境物品等の調達の推進に関する基本方針」[15]があり、公的部門に合法木材のみを調達することを義務付けている。また林野庁は合法性判断のためのガイドライン[16]を作成している。しかしながら、民間部門に対し違法に伐採された木材の輸入を禁止し、違反した輸入者に刑事罰を科す法令は存在しない。
また林野庁のガイドラインに基づき構築された合法木材制度は、民間の自主的な取り組みであるが、合法性の証明方法として、森林認証[17]の取得以外にも、業界団体の認定を受けた伐採業者による証明を許容している[18]。しかしながら、この証明方法は州政府と伐採業者との癒着が指摘されるサラワク州側の認証文書に依拠しており、それ以上の調査は求められないため、サラワク州の違法伐採木材を排除する役割を果たしていない[19]。
このような違法伐採木材に対する日本の緩い規制及びそれに安住する日本の輸入企業が、サラワク州の違法伐採問題を助長しているといえる。
4.結論
従って、ヒューマンライツ・ナウは、日本企業に対し、サラワク州で違法伐採を行っている伐採企業からの木材及び木材製品の輸入を即時に停止することを要求する。また、これらの伐採企業がThe Forest Stewardship Council (FSC)などの国際的に評価された森林認証[20]を取得するまでは、取引を再開しないよう求める。また日本政府に対しては、違法木材の輸入を全面的に禁止し、違反者に刑事罰を科すよう法令を改正することを求める。
以上
[1] 2012年の統計ではサラワク州の木材取引の38%(金額ベース)が日本向けであった。 Sarawak
Timber Industry Development Corporation, ‘Export Statistics of Timber and
Timber Products Sarawak 2012,’ URL: http://www.sarawaktimber.org.my/timber_statistic/Export_Statistics_Timber_Products_Sarawak_2012.pdf, 3頁参照。
[2] ‘Report of the
National Inquiry into the Land Rights of Indigenous Peoples,’ 2013, SUHAKAM,
[3] 同上, 164頁。
[4] Loh Foon Fong,
‘Cabinet forms committee on indigenous land rights,’ The Star Online, June 17,
2015, URL: http://www.thestar.com.my/News/Nation/2015/06/17/cabinet-approves-indigenous-lands-rights/
[5] 同上。
[6] 例えば、Lim Teck
Wyn, ‘Malaysia: Illegalities in Forest Clearance for Large-scale Commercial
Plantations,’ Forest Trends, December 2013, URL: http://www.forest-trends.org/documents/files/doc_4195.pdf, ‘An
Industry Unchecked: Japan’s extensive business with companies involved in
illegal and destructive logging in the last rainforests of Malaysia,’ Global
Witness, September 2013, URL: https://www.globalwitness.org/documents/10687/japan-sarawak-report-final-lo-res_2.pdf and
‘Development of Global Timber Tycoons in Sarawak, East Malaysia,’ Bruno Manser
Fonds, February 2011, URL: http://stop-timber-corruption.org/resources/bmf_report_sarawak_timber_tycoons.pdfなど参照。
[7] SUHAKAM (注2), 164頁。
[8] Lim (注6), 25頁。
[9] 例えば、Global
Witness (注6), 6頁及び11頁、並びにDesmond
Davidson, ‘Sarawak warns timber companies over illegal logging, as MACC probes
industry,’ The Malaysian Insider, November 17, 2014, URL: http://www.themalaysianinsider.com/malaysia/article/sarawak-warns-timber-companies-over-illegal-logging-as-macc-probes-industry参照。
[10] Davidson (注9)
[11] Jack
Wong, ‘More gains for Sarawak timber firms,’ The Star Online, October 20, 2014,
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[12] Sarawak Timber
Industry Development Corporation (注1)
[13] Alison Hoare,
‘Illegal Logging and Related Trade The Response in Malaysia,’ Chatham House,
January 25, 2015, URL: http://www.chathamhouse.org/sites/files/chathamhouse/field/field_document/20150121IllegalLoggingMalaysiaHoare.pdf, 12.
[14]正式名称:国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律(平成12年5月31日法律第100号)、URL: http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H12/H12HO100.html
[15]平成27年2月3日変更閣議決定、URL: http://www.env.go.jp/policy/hozen/green/g-law/archive/bp/h27bp.pdf
[16] 「木材・木材製品の合法性、持続可能性の証明のためのガイドライン(平成18年2月、林野庁)」、URL: http://www.rinya.maff.go.jp/j/boutai/ihoubatu/pdf/gaido1.pdf.
[17]森林認証とは、違法伐採に対する民間の自主的な取り組みとして、伐採会社が、独立した第三者機関から適切な森林経営が行われていることの認証を受けるもの。
[18] 合法木材ナビ「合法性の証明方法について」、2015年7月16日閲覧, URL: https://www.goho-wood.jp/certification/
[19] Global Witness (注6), 17頁。
[20] WWF, ‘WWF Forest Certification Assessment Tool (CAT),’ 2015年7月16日閲覧, URL: http://wwf.panda.org/what_we_do/how_we_work/businesses/transforming_markets/news/?246871/WWF-Forest-Certification-Assessment-Tool-CAT