【声明】入管施設における恣意的収容の廃止及び法的改善を求める

ヒューマンライツ・ナウは入管施設における恣意的収容の廃止及び法的改善を求める声明を発表いたしました。

難民申請者も含めた、在留資格のない外国人を収容する施設で、過去4か月間で延べ198人が、長期の無期限収容に抗議するハンガーストライキに参加している状態にある 中で、2019年6月24日に、長崎の大村入国管理センターに収容されていたナイジェリア人男性が死亡するに至りました。

長期・無期限収容の凄惨な現状に鑑み、ヒューマンライツ・ナウは、第7次出入国管理政策懇談会及びその下の「収容・送還に関する専門部会」に対し、法改正の議論を行うことを強く求め、声明を発表しました。

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入管施設における恣意的収容の廃止及び法的改善を求める声明

難民申請者も含めた、在留資格のない外国人を収容する施設で、過去4か月間で延べ198人が、長期の無期限収容に抗議するハンガーストライキに参加している状態にある 。
このようにハンスト運動が激化する中で、本年6月24日に、長崎の大村入国管理センターに収容されていたナイジェリア人男性(日本人女性との間に生まれた日本人の子どもがいた)が死亡するに至り、本年10月1日、法務省は、この男性の死が収容に対するハンガーストライキの末の「餓死」であることを公表した 。
さらに、法務大臣は、本年10月から、その諮問機関である「第7次出入国管理政策懇談会」の下に「収容・送還に関する専門部会」を設置の上、法改正の議論を開始するとした。

本年6月末時点で上記収容場・入国者収容所等に収容されている者(以下「被収容者」という。)は1253名であり、そのうち6ヶ月以上の収容(以下「長期収容」という。) は679名と半数以上に及ぶ 。さらに、1年以上の収容に限っても531名にも上る事態である 。今年6月末現在の東日本入国管理センターの被収容者316名のうち、6か月以上の被収容者が301名に上り(95%)、うち1年以上の者が279名に上る(88%)。同様に大村入国管理センターの被収容者128名のうち、6か月以上の被収容者が110名に上り(86%)、うち1年以上の者が92名に上る(71%)。
入管法とその現行の運用では、在留資格のない外国人を原則としてすべて収容し(全件収容)、しかも、退去強制令書が発付されると、入管法上、収容期限に上限がない。このような全件・無期限の長期収容に対して、本年4月には仮放免許可を求める集団訴訟が提起され、さらに本年5月より被収容者らによるハンストが全国の収容施設で始まり、ついには前述の6月24日のハンストによる餓死という信じがたい事態が生じてしまったのである。
既に近年だけでも、日本政府に対して、拷問禁止委員会(第2回政府報告に対する総括所見(パラ9。2013年6月28日)、自由権規約委員会(第6回政府報告に対する総括所見(パラ19。2014年8月20日)、人種差別撤廃委員会(第10回・第11回政府報告に対する総括所見(パラ36。2018年8月30日)が、収容期間の上限設定、収容を最後の手段として必要最小限の最短のものとすること等を求める勧告を行っているところである。

長期・無期限収容の凄惨な現状に鑑み、当団体は、第7次出入国管理政策懇談会及びその下の「収容・送還に関する専門部会」に対し、以下の点を十分に考慮した法改正の議論を行うことを強く求める。
また、法改正が実現し施行されるまでの間には時間を要することから、法務省及び出入国在留管理庁に対しては、運用改善により、国際人権条約に適合しないにもかかわらず収容されている全ての者に対し、身体解放の措置を取ることを求める。

第1  入管収容の目的を逃亡防止のためのものと限定すること
国際人権法上、「恣意的な抑留(「収容」と同義)」は禁じられている(自由権規約第9条第1項)。収容は、正当な目的をもったものでなければならず、身元の確認、逃亡の防止などの正当な目的がある場合に、目的達成のための必要性がある限度において行われるものでなければならない 。また、自由権規約第9条第4項では、抑留(収容)された者はその合法性について司法審査を受ける権利が認められているが、入管という行政機関の判断だけで人を長期収容し、そこに司法判断が入らない日本の制度はこれに反する。
日本は、在留資格がない外国人を含め、日本の「管轄下」にあるすべての人に、規約上の権利を確保する義務を負っている。日本政府が主張する、当該外国人に在留資格がないとの理由のみに基づく収容 は、自由権規約第9条第1項に違反し認められない 。
近時、日本政府は、収容を治安維持ないし再犯予防を目的とするものでも可能であると主張し始めているところであるが 、極限的なものを除き、国際人権法上、認めることはできない 。

上記の通り、出入国管理のための収容の目的は逃亡防止などの正当な目的がある場合に限定されるのであって、在留資格がないことのみに基づく収容はもちろんのこと、治安維持など予防拘禁としての収容は認められないのである。

第2  入管収容の要件を、逃亡する恐れがあると疑うに足りる相当の理由があるときに限定すべきこと
入管法は、退去強制令書が発付されたことのみを要件とし(入管法第52条第2項)、運用上も「被退去強制令書発付者に対する仮放免措置に係る適切な運用と動静監視強化の更なる徹底」(法務省管警第43号・2018年2月28日)により、在留資格のないことの一事をもって収容するいわゆる「全件収容主義」が徹底されている。収容の必要性、すなわち逃亡の危険などの有無を問わず、一律に収容しているのである。また、その背景として、自由権規約批准(1979年)前に出されたマクリーン事件最高裁判決(1978年)が、外国人の人権(同判決においては、憲法上の人権)は入国管理制度の枠内でのみ保障されるにすぎないとした考え方が、自由権規約を批准して久しい現在もなお通用している。
しかしながら、この「全件収容主義」は自由権規約第9条第1項をはじめ国際人権条約に明確に違反するものである。
すなわち、収容は、上記の目的を達成する上で、必要かつ相当なものでなければならない 。収容の必要性、すなわち逃亡する恐れがあると疑うに足りる相当の理由があるときを要件とし、これを明確に限定する法改正が直ちに必要である 。

第3  入管収容の期間をにつき、6ヶ月など送還の準備のため必要と認められる合理的期間の範囲内において上限を設定すること
現行の日本法は、当該外国人を「直ちに本邦外に送還することができないときは、送還可能のときまで」収容することができるとする(入管法第52条第5項)。入管は、「送還することができないとき」とは(入管自身が)「送還しないとき」、「送還可能のときまで」とは(入管自身が)「送還するときまで」と解釈運用しており、「無期限収容」(永久収容)が可能となっている。
その上、上記通達により仮放免許可も極めて厳格に運用されているため、現在のような過酷な状態に人間を極限まで追い込む長期収容が横行してしまっている。
しかしながら、このような長期・無期限収容は、自由権規約第9条第1項に違反することは明らかである。すなわち、「自由の剥奪は、最後の解決手段として最も短い適当な期間のみ適用されなければならず」 、 「無国籍又はその他の障壁のために締約国が個人を追放できないことは、無期限の抑留を正当化するものではない」 のである。
したがって、送還準備のための期間として合理的な期間(上限)を法律によって設定すべきである。これは前記の通り、拷問禁止委員会等も勧告しているところである。
また、外国人が難民条約第1条にいう「難民」にあたる場合には、国は、必要以上の移動の制限を課してはならないのであり(難民条約第31条第2項)、収容という最高度の移動制限を課す方法は、この義務にも反する。
入管法改正により、収容は、送還準備のため、逃亡の具体的な危険を有することを前提として、最長でも6ヶ月と設定すべきである 。

第4  入管収容に定期的な司法審査を必要とすること

現行の日本法は、収容を入管という行政機関の判断のみで行っている(入管法第52条第5項)。しかも収容に期限を設定しないため、収容期間の更新もなく、それに伴い独立した機関による定期審査という概念もなく、裁判所が収容の許可を与える制度にはなっていない。また、仮放免許可の判断も、入管のみによって行われる制度となっている(入管法54条2項)。
自由権規約第9条第1項は、上記の通り恣意的な抑留(収容)を禁じている。また、第9条4項は、収容の合法性について裁判所による審査を受ける権利、及び収容が合法的でない場合には釈放を命ずることができるよう、裁判所で手続をとる権利を保障している。
収容が人間の人身の自由を奪うものである以上、収容する際に裁判所の司法令状を必要とする制度が望ましく 、もし仮にこれを採用しないとしても、自由権規約第9条第4項から、最低限でも、一定期間ごとに定期的な司法審査がなされる制度が要求される 。
この点においても日本の制度は自由権規約等に違反することから、収容は、一定期間ごとの更新を前提に、司法審査を要する制度へと改正すべきである。

第5  難民及び、家族生活を保護されるべき者が長期収容されていないか調査すべきこと
最後に、長期収容の解決は、送還によってのみ適切に解決することはできない。
そもそも、退去強制令書が発付された者のうち、一定のもの(第59条に基づく送還、国際受刑者移送条約に基づく移送)を除き、98%は任意出国にあたる自費出国をしているのが現実である 。他方で、(狭義の送還である)チャーター便などでの国費送還も行われている。
そのような状況の中、長期収容されても帰国しない人は、日本に家族がいるなど、帰国しようにも帰国できない人である可能性がある。
自由権規約は、家族が社会の自然かつ基礎的な単位として「社会及び国による保護を受ける権利」を保障している(第23条第1項)。また、第17条では、家族に対して恣意的もしくは不法に干渉されない権利を保障している。これらの自由権規約の権利は、管轄下のすべての個人に保障されるものである。また、子どもの権利条約は、子どもに関するすべての措置を取るにあたっては、「子どもの最善の利益」を主に考慮することを国に義務づけている(子どもの権利条約第3条第1項)。法務大臣は、在留資格がない外国人であっても、一定の事情がある者については在留特別許可により在留を認めることができるが、日本に家族がいる場合、また子どもがいる場合には、これらの国際人権法上の権利にも十分に配慮して、在留特別許可を検討すべきである。
しかるに、在留特別許可率 は平成18年に85%であったところ、平成28年には60%にまで急落している 。これにより、件数だけでなく、家族生活などを保護されるべき者 が適切に保護されていないことが強く懸念される。
他方、日本の難民認定数は絶対的に少なく,その判断の質に問題があることは明らかである 。そのために、何度も難民庇護を求めざるを得ない人が存在する 。
このように、日本に家族がいる人を、在留資格がないというだけで退去強制の対象とし、長期収容することは、家族に対する恣意的又は不法な干渉を禁じた自由権規約第17条、及び、家族が保護を受ける権利を保障した同第23条1項に反する。また、その人が難民条約にいう難民にあたる場合には、必要以上の移動制限を禁じた規定(第31条2項)に反するとともに、迫害を受けるおそれのある本国に送還することはノン・ルフ―ルマン原則に反する。
当団体は、法務大臣及び出入国在留管理庁、並びに出入国管理政策懇談会及び「収容・送還に関する専門部会」に対し、上記の問題の徹底調査及びその改善を求める次第である。