【活動報告】2016年度ミャンマー国内人権教育プロジェクト第1回目のセミナーを実施しました。

「人権」について教えられなかった世代にむけて

民主化が進み、「人権」という言葉があらゆるところで聞かれるようになったミャンマーですが、実は多くの人は「人権」とは何か知らず、ミャンマー国軍による権力の一部掌握が続く中、今でも人権状況は深刻です。また、民主化後の著しい発展を受けて、多くの環境問題が発生している状況にあります。

ミャンマー(ビルマ)では、25年にわたる軍事独裁政権の下、政府に反対する言動を語ることは逮捕・処罰の危険性があり、人権や環境問題に関する言論自体も抑圧されてきました。多くの若い世代は人権とは何かも知らずに育ち、人権侵害や環境問題のような公的問題を解決する方法も知りません。

こうしたなか、ヒューマンライツ・ナウは2009年から2013年まで、タイ・ミャンマー国境のタイ側に、ミャンマーの未来の法律家・コミュニティ・リーダーを育成する法律学校「ピースローアカデミー」を運営、日本から弁護士・国連職員等の講師を派遣して国際人権法をはじめとする人権・法の支配などについて教育を行ってきました。ピースローアカデミーは既に70人以上の卒業生を輩出、卒業生の多くが昨今の民主化の流れを受けて、ミャンマーに帰国して民主化を担う役割を果たしています。

(過去のプロジェクト・ピースローアカデミーに関してはこちら→http://hrn.or.jp/activity/1725/

そして、近年の民主化の進展を受けて、ヒューマンライツ・ナウでは2014年2月からミャンマー国内での人権教育活動を開始することになり、今回のセミナーもその一環として行われました。このような講義を通し、ヒューマンライツ・ナウは現地で人権擁護活動を担っていくことになる弁護士の活躍に貢献することを願っています。

 

2016年度第1回目のセミナーYBA受講者質問(ウェブ)

ヒューマンライツ・ナウは、2016年8月13日から17日にかけて、講師に渡邉彰悟先生と中島宏治先生を招き、同事業の2016年度第1回目となるセミナーを実施しました。2016年度ミャンマー教育事業は、1988年開始の学生運動の中心となり、現在でもミャンマーで最も有名なNGOの一つである「88 Generation Peace and Open Society」と、3000人以上の弁護士が加盟する「ヤンゴン弁護士会」と提携しています。「88 Generation Peace and Open Society」では、8月13日と14日の2日間、「ヤンゴン弁護士会」では、8月15日から17日の3日間、セミナーが行われました。
「88 Generation Peace and Open Society」では、参加者が法学部生、若手弁護士と年齢層が若かったことから、大変活発な雰囲気で、双方向的に講義が行われました。「ヤンゴン弁護士会」では、弁護士の中でも経験を積んでいらっしゃる方が多く、ミャンマーの将来についても熱心に意見交換がなされました。
88渡邉先生受講者質問2渡邉先生からは、法の支配の概念と弁護士自治の役割の講義が実施され、公的問題に対する弁護士活動の重要性が再確認されました。また、日本におけるHIV訴訟や、ミャンマー人の退去強制の事案を用い、国際的規範や憲法上の人権の概念を用いながら、どのように公的問題に取り組んでいくのかについて、詳しく説明がなされました。弁護士自治のテーマでは、最初は、ビルマでは政府が弁護士について資格の剥奪権原を持っていることや、資金的基盤の弱いことが発表され、弁護士自治について後ろ向きの意見が多かったのですが、渡邉先生の弁護士自治の役割についての熱意溢れる丁寧な説明を通し、参加者も弁護士自治の重要性を認識し、将来少しずつでも現状を変えていきたいという姿勢を見せ始めたことが印象的でした。
YBA中島先生7(ウェブ)

中島先生からは水俣病を題材にした環境訴訟の日本の弁護士の取り組みについて説明がなされ、ミャンマーではどのように活動を進めていくかという実践的な方法の議論も取り込みながら、講義が実施されました。日本の環境訴訟についての歴史についての基本的な講義が行われた後、ミャンマーの現行の法律の不足点につき議論がなされ、また、日本や先進国では公害訴訟の経験を通し、高い環境基準が取られているのに、日本や先進国がミャンマーで経済活動をするときには、ミャンマーの低い基準で活動が行われることに対し疑問が呈されました。中島先生は、日本、中国での経験等を踏まえ、これからできることにつき、セミナー参加者の皆さんと活発な意見交換がなされました。

 

 

今後も活動を継続します

ヒューマンライツ・ナウでは、今後も継続して、人権教育のトレーニング・セミナーを実施していく予定です。今後は、ヤンゴンだけでなく、地方都市での実施も進め、弁護士に限らず、女性団体や若者、少数民族に対する人権教育活動のニーズにもこたえていく予定です。今後ともご支援をよろしくお願いします。(ミャンマー教育事業インターン、田代夕貴)

YBA集合写真(小サイズウェブ)88集合写真(小サイズウェブ)