【声明】ヒューマンライツ・ナウは香港政府による緊急法の発動に対して、香港権利章典と国際人権法の厳格な厳守を求める

ヒューマンライツ・ナウは香港政府による緊急法の発動に対して香港権利章典と国際人権法の厳格な厳守を求める声明を発表いたしました。

緊急規制条例は、「行政会議行政長官が緊急又は公の危険がある状況と考えるいかなる場合においても、行政長官は、公共の利益の為に望ましいと考えるいかなる規制も行うことができる」と規定し[強調引用者]、 行政長官に、検閲、逮捕、拘留、人・物の移動の制限、財産の没収・処分等、包括的な権限を与えている[1]。

という内容であり、香港権利章典と国際人権法に基づき対話や措置を取るように求めます。

[1] Cap. 241 Emergency Regulations Ordinance, https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap241.

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ヒューマンライツ・ナウは香港政府による緊急法の発動に対して、香港権利章典と国際人権法の厳格な厳守を求める

 

2019年10月4日、香港特別行政区行政長官のキャリー・ラム氏は、緊急規制条例を援用して、デモにおけるマスクの使用の禁止を発表し、同日深夜から施行するとした。現状を公式に「緊急事態」とみなすことは避けながらも、ラム氏は、今後反政府デモが過激化した場合にはさらなる規制を行う旨をほのめかした。緊急規制条例は、「行政会議行政長官が緊急又は公の危険がある状況と考えるいかなる場合においても、行政長官は、公共の利益の為に望ましいと考えるいかなる規制も行うことができる」と規定し[強調引用者]、 行政長官に、検閲、逮捕、拘留、人・物の移動の制限、財産の没収・処分等、包括的な権限を与えている[1]。さらに、違反者には、略式判決によって、5,000ドルの罰金と2年の拘禁刑が科され、場合によってはさらに厳しい刑罰も科されうる[2]

 

しかし、植民地時代の1922年に英国当局によって制定され、過去半世紀以上適用されておらず、1997年の中国への返還以降は一度も適用されていないこの条例を援用して、上記のような緩やかな条件で包括的な規制措置を導入することが、香港権利章典及び国際人権法に合致したものであるかどうかには、深刻な疑問がある。

中国は市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)の締約国ではないが、自由権規約を含め、英国統治時代に受け入れられた人権義務は、今日でも引き続き香港に適用されている。自由権規約が適用されることは、1997年7月1日に発効した香港の基本法(憲法)の39条に次のように明記されている。

香港に適用される市民的及び政治的権利に関する国際規約の規定は、引き続き効力を有し、香港特別行政区の法によって実施される。

香港の人々が享受する権利及び自由は、法律で規定されない限り制約を受けない。そのような制約は、本条の前段の規定に反するものであってはならない[3]

 

1991年には、権利章典が、自由権規約を実施する包括的な立法として制定された[4]。その第5章は、自由権規約第4条に沿って、公の緊急事態に関する規定を含んでいる。

 

このような、香港において基本的人権を保護する法的枠組みからすれば、幅広い規制措置を取る古い緊急規制条例を用いることは、権利章典に具現された国際人権基準を満たすものではない[5]

香港市民による大規模なデモを巻き起こした逃亡犯引渡法案行政長官によって撤回されたが、デモ参加者は、1)デモを「暴動」という言葉で呼ぶことの撤回、2)逮捕されたデモ参加者の無条件釈放及び、犯罪の嫌疑の取り下げ、3)警察の挙動についての独立した調査、4)真の普通選挙の実施を求め続けている。

 

法の適正な手続きと独立した司法が欠如した中国本土に引渡され、刑事上の罪に問われうることは、香港市民にとって真の恐怖であり、そのような道を開く引渡法案に抗議するために表現の自由や集会の自由を行使したことにかかわる上記の諸要求はいずれも正当なものである。四つ目の要求である、平等な普通選挙の導入も、香港における民主主義と人権にとって非常に重要である。自由権規約委員会も、2013年、香港に対する総括所見において、この点を、「主な懸念事項及び勧告」の中でも優先的事項として取り上げていたことに留意すべきである[6]

 

東京を本部とする国際人権NGOであるヒューマンライツ・ナウは、香港政府に対し、国内の人権法及び国際人権法に基づきつつ、対話を通じて市民の要求に対処するために必要なすべての措置を取るよう求める。また、私たちは、デモ参加者に対する警察の過度な力の行使がこの数週間でエスカレートしている[7]ことに対しても、深刻な懸念をもっていることを繰り返す。特に、18歳の学生が警察によって胸を撃たれたというニュースには衝撃を受けており、このような行動が「合理的かつ合法」であったという警察の説明には納得していない[8]。私たちは、当局に対し、官憲は犯罪の重大性に均衡しかつ傷害を最小化するようなかたちで行動すべきであるとした「法執行官による武力及び火器の使用に関する国連基本原則」を含む国際的基準を遵守するよう強く要求する[9]

 

[1] Cap. 241 Emergency Regulations Ordinance, https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap241.

[2] “Penalties (1) … regulations made hereunder may provide for the punishment of any offence… with such penalties and sanctions (including a maximum penalty of mandatory life imprisonment but excluding the penalty of death), and may contain such provisions in relation to forfeiture, disposal and retention of any article connected in any way with such offence and as to revocation or cancellation of any licence, permit,

pass or authority issued under the regulations … (2) Any person who contravenes any regulation made under this Ordinance shall, where no other penalty or punishment is provided by such regulations, be liable on summary conviction to a fine of $5,000 and to imprisonment for 2 years” (ibid.).

[3] The Basic Law of the Hong Kong Special Administrative Region of the People‟s Republic of China, Art. 39, https://www.basiclaw.gov.hk/en/basiclawtext/images/basiclaw_full_text_en.pdf.

[4] “An Introduction to Hong Kong Bill of Rights Ordinance”,

https://www.cmab.gov.hk/doc/en/documents/policy_responsibilities/the_rights_of_the_individuals/human/BORO-InductoryChapterandBooklet-Eng.pdf.

[5] Erik Shum, “If Carrie Law declares an emergency in Hong Kong, she will be defying the rule of law”, https://www.scmp.com/comment/opinion/article/3025261/if-carrie-lam-declares-emergency-hong-kong-she-will-be-defying-rule.

[6] Human Rights Committee, Concluding observations on the third periodic report of Hong Kong, China, adopted by the Committee at its 107th session, UN Doc. CCPR/C/CHN-HNG/CO/3, 29 April 2013, para. 6.

[7] “HRN Releases Statement Protesting the Police Use of Excessive Force in Hong Kong”, 14 June 2019, http://hrn.or.jp/eng/news/2019/06/14/hong-kong-excessive-force-statement/.

[8] “Hong Kong Police say shooting an 18-year-old student protester in the chest was „reasonable and lawful‟as he recovers in hospital”, https://www.businessinsider.com/hong-kong-police-shooting-student-reasonable-lawful-2019-10.

[9] Basic Principles on the Use of Force and Firearms by Law Enforcement Officials,

http://www.ohchr.org/Documents/ProfessionalInterest/firearms.pdf.