【声明】「テロ等準備罪」法案に反対する声明

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは2017年3月17日、「『テロ等準備罪』法案に反対する声明」を公開しました。

声明全文「テロ等準備罪」法案に反対する声明 [PDF]


「テロ等準備罪」法案に反対する声明

 
1 報道[1][2]によれば、日本政府は、犯罪を計画した段階で処罰する「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を今通常国会に提出する準備をしているとのことである。国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、同法案について市民の内心の自由、プライバシー権、政治的意見の自由、表現の自由、結社の自由を脅かすものとして深刻な懸念を表明する。

2 同法案について、政府は、処罰対象を、重大な犯罪のうち「組織的犯罪集団の関与が現実的に想定される罪」のみに限定したとするが、その数は合計277種類にも及ぶとされる。法案は、共同の目的が犯罪の実行にある「組織的犯罪集団」の活動として、その実行組織によって行われる犯罪を2人以上で計画した者の誰かが資金や物品の手配、関係場所の下見、「その他」の実行準備行為をしたときに処罰すると規定する。法定刑は最大で懲役5年であるという。

3 政府は今回の法案の目的を、国際組織犯罪防止条約の実施、ひいてはテロの防止にあるとし、新設される犯罪を、過去3度世論の強い反対により廃案となった「共謀罪」とは異なるとして「テロ等準備罪」と呼称する(もっとも、法案にその名称は使用されていない)。
しかし、そもそも国際組織犯罪防止条約はテロ防止を目的とするものではない。同条約は、「金銭的利益その他の物質的利益を直接又は間接に得るため」(5条)の国際的犯罪集団による犯罪を防止することを目的としており、国連の立法ガイドでも、目標が純粋に非物質的利益にあるテロ組織は原則として対象とならないことが明記されている(26項)。
また、法案自体には、「組織的犯罪集団」の例示として「テロリズム集団」という用語は使用されているようであるが、テロリズムの定義規定は無い。また、犯罪の構成要件となる「組織的犯罪集団」の定義も曖昧で、テロ組織に限定されているわけではなく、政府統一見解によれば、NGOや労働組合などの非テロ組織であっても当局が団体の性質が変化したと判断すれば、捜査・処罰の対象となりうるとのことである。[3]

4 同法案は、未遂罪はおろか予備罪すら未だ成立しえない「犯罪の合意(話し合い)」という行為について、「組織的犯罪集団」などの曖昧な構成要件によって既遂犯の成立を認めている点において、国家の刑罰権を大幅に強化するものであり、その恣意的な行使により市民の内心の自由及び表現の自由等に対する侵害のおそれを飛躍的に高めることが懸念される。

5 特に市民社会にとって深刻な点は、同法案は国家の刑罰権の強化と同時に、刑罰権行使の前提となる国家の犯罪捜査権限をも大幅に強化するという点である。この法案が成立すれば、「テロ防止」といった名目で、当局が必要に応じて、捜査対象を恣意的に拡大することが可能になる。
政府は、NPO法人は対象外とするが、組織的犯罪集団の定義があいまいであるため、市民の活動に対する介入の口実となりかねず、結社の自由を侵害する結果となる危険性があり、同時に、深刻な萎縮効果をもたらしかねない。
今日、人類は戦争や貧困、差別等の深刻な人権課題に直面しているところ、NGO等の市民社会はこれらのグローバルイシューに取り組むために、国境を越えて協力し合い活動している。
現実としてNGOは、草の根の活動に従事するという性質上、現地政府とは異なる立場で活動を行う傾向にあり、そのため、現地政府から敵視され、あるいは非合法化されることも少なくなく、国家の抑圧による市民社会のスペースの縮小化が国際的にも重大な懸念事項となっている。
同法案は、国際的な規模で広がるNGO同士の連携に対して、現地政府の敵対組織あるいは非合法組織との協力関係であると問題視し、国外の「テロ行為」に関与した疑いがあるとして監視の対象とする傾向に拍車を掛けることになりかねない。「犯罪の合意」という行為を捜査するためには、当該団体の内部の協議の詳細を調査する必要があり、通信傍受により団体関係者の通話やメールの内容が全て監視対象とされるおそれが高い。そのような環境では、当事者の立場から政府と異なる形で公益を追求するNGOがその役割を果たすことは不可能であり、市民活動は萎縮し、市民の政治的意見の自由、表現の自由、結社の自由を侵害することになることは明白である。

6 このように共謀罪は、日本国憲法が13条、19条、21条、さらに日本が批准している国際人権条約である自由権規約の17、18、19、21、22条に保障される、内心の自由、プライバシー権、集会・結社・表現の自由に抵触するものである。
ヒューマンライツ・ナウは、日本政府に対して、恣意的な捜査及び処罰により市民の表現の自由等を侵害するおそれの高い「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案を閣議決定しないことを強く求める。
テロリズムに対しては、日本が既に批准する13のテロ防止関連諸条約[4](「航空機内の犯罪防止条約」、「航空機不法奪取防止条約」、「民間航空不法行為防止条約」、「国家代表等犯罪防止処罰条約」、「人質行為防止条約」、「核物質及び原子力施設の防護に関する条約」、「空港不法行為防止議定書」、「海洋航行不法行為防止条約」、「大陸棚プラットフォーム不法行為防止議定書」、「プラスチック爆薬探知条約」、「爆弾テロ防止条約」、「テロリズム資金提供防止条約」、「核テロリズム防止条約」)及びその関連で既に整備が完了した国内法を適切に適用・実施することで、市民の安全確保を行うべきである。

 

[1]http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017022890070031.html
[2]http://www.japantimes.co.jp/opinion/2017/02/27/editorials/long-reach-conspiracy-crime-bill/#.WLaIoH-WFCE
[3]http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201702/CK2017021702000129.html
[4]http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/terro/kyoryoku_04.html