【報告書】Silenced Voices:船上労働者の声はなぜ聞こえてこないのか?―台湾の漁船から日本市場までの不透明なマグロサプライチェーンに潜む人権リスク

東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、台湾を拠点とするNGOである台湾人権促進会(TAHR)と共同で、台湾の遠洋漁船から日本市場に供給されるマグロのサプライチェーンに内在する強制労働リスクに関する事実調査を実施しました。

日本は世界有数のマグロ消費国であり、台湾はその最大の供給国となっています。世界第2位の規模を有する台湾の遠洋漁船は、キハダ、メバチ、クロマグロ等を主に『刺身マグロ』として市場に供給しており、2024年に台湾から輸出された刺身用マグロの約85%は日本向けでした。しかし、同漁船によって漁獲されたマグロが日本市場に届くまでのサプライチェーンは複雑かつ不透明であり、重大な人権リスクが潜在しています。

日本の水産関連企業のサプライチェーンにおいて、台湾大手水産企業を経由し、強制労働の疑いがある漁船You Fu号との取引関係が存在する可能性が確認されました。さらに、同様に強制労働の疑いがあるYu Shun 668号については、日本企業の超低温延縄漁船団に含まれていることが判明しました。

You Fu号(銪富號)およびYu Shun 668号 (裕順668號)のインドネシア人の元乗組員に対するインタビュー調査では、長時間労働、賃金未払い、身分証の没収、通信手段の剥奪、劣悪な居住環境など、移住労働者の基本的権利を著しく侵害する実態が明らかとなりました。こうした深刻な労働搾取の背景には、台湾と日本双方における制度的課題に加え、乗組員の主要送り出し国であるインドネシアの制度不備も関与しています。

加えて、日本の水産関連企業19社を対象とした人権デュー・デリジェンスの実施状況に関するアンケート調査では、一部の企業がマグロを人権リスクの高い商品として認識している一方、リスク評価や是正措置に関する情報公開は限定的であることが判明しました。特に、漁船上の移住労働者が実際にアクセス可能な救済メカニズムは事実上欠如しており、NGOや労働組合とのエンゲージメントも極めて不十分です。

台湾産マグロの大半が日本市場に輸入され、日常的に消費されている現状を踏まえると、日本企業およびそのサプライチェーンがこうした人権リスクに深く関与している可能性は一般的に高いといえます。日本と台湾両政府、ならびに関連企業には、移住労働者の権利保障を確保するための具体的かつ迅速な対応を強く求めます。

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アンケート回答結果
伊藤忠商事株式会社
株式会社ゼンショーホールディングス
株式会社豊群インターナショナル
株式会社 FOOD & LIFE COMPANIES
東洋冷蔵株式会社
トライ産業株式会社
マルハニチロ株式会社
丸紅シーフーズ株式会社