【イベント報告】第67回国連女性の地位委員会 パラレルイベント「同意のない性的動画・画像の拡散をなくそう~海外の法律・取り組み・課題~」

2023年3月5日から17日にかけて開催された第67回国連女性の地位委員会(CSW67)と平行して開催されたNGOCSW67フォーラムにて、ヒューマンライツ・ナウ(HRN)はオンライン上でパラレルイベントを開催しました。CSW開催中に行った本イベントには、世界各地から大勢の女性の権利団体関係者やアクティビストやオンライン性暴力の専門家らが参加し、議論や質疑応答セッションも活発に行われました。

今日、世界中で多くの人々が同意のない性的動画や画像の配信や拡散の被害者に遭っています。オンラインで公開された動画や画像は、被害者の同意なしに半永久的に拡散し続けます。多大な苦しみを生むこの被害状況をどうしたらなくせるのでしょうか。

本ウェビナーでは、5名の専門家がパネリストとして登壇し、同意のない性的動画・画像の撮影や配布に関するアメリカやイギリスなど海外の状況、法律、取り組みなどを共有しました。また、各国の法的措置やベストプラクティスが紹介されました。

各パネリストのプレゼンテーションの概要は以下をご覧ください。

【パネリスト】

Lorna Woods (ローナ・ウッズ)

サセックス大学インターネット法教授。ロンドンでテクノロジー、メディア、電気通信分野の弁護士としてキャリアを開始後、 データ保護、ソーシャルメディア、インターネットなど、メディアポリシーと通信規制の分野で豊富な経験を積み、これらの分野で広く出版もしている。

Michelle Gonzalez (ミシェル・ゴンザレス)

Cyber Civil Rights Initiative (CCRI) のエグゼクティブディレクター。20年以上の経験を持つ専門家。CCRIにてImage Abuse Helpline(画像による虐待のヘルプライン)のトレーニングや監督も行い、複雑なIBSAケースの1対1ケースマネジメントの提供、トレーニングの実施、サービス組織や大学への技術支援の提供をしている。

Sophie Mortimer (ソフィー・モーティマー)

テクノロジーの安全性の確保に取り組む団体South West Grid for Learning (SWGfL) が運営するリベンジポルノ・ヘルプラインのマネージャ ー。Metaと共同で開発し、同意のない性的画像の削除率90%を誇る画期的なプラットフォームStopNCII.orgのマネージャーでもある。イギリス政府、法務委員会、女性・少女に対する暴力の分野のステークホルダーとの会議に多く参加している他、メディアや研究を通しても、性的画像の悪用に関する啓発活動をイギリス内外で活発に行っている。イギリスの治安判事を15年務めた経験もあり、刑事司法制度の最前線で豊富な経験も積んできた。

伊藤和子

弁護士、ヒューマンライツ・ナウ副理事長。日弁連両性の平等に関する委員会委員長、東京弁護士会両性の平等に関する委員会委員長を歴任。ジェンダー法学会副理事長、国際人権法学会理事。女性、子どもの権利、えん罪事件、環境訴訟など、国内外の人権問題に関わって活動している。

Cindy Gallop (シンディ・ギャロップ)

2009年のTEDでローンチされたMakeLoveNotPornの創設者兼CEO。2013年にコミュニケーションや健全な性的価値観などを促進するためのプラットフォームを設立。以降、性暴力やレイプ文化の根絶のためにグローバルな活動をしている。

【モデレーター】

後藤弘子

千葉大学大学院専門法務研究科教授。専門は刑事法。ジェンダー法学会副理事長、日本被害者学会理事。内閣府男女共同参画局女性に対する暴力に関する専門調査会委員などを務める。共著として、『治療的司法の実践』、『ストーキングの現状と対策』、『性暴力と刑事法』などがある。

要約

開会の挨拶

HRN副理事長の後藤より挨拶がありました。

ローナ・ウッズ氏のプレゼンテーション

ウッズ氏は、エセックス大学ロースクールのインターネット法の教授であり、データ保護、ソーシャルメディア、インターネットなど、メディア政策と通信規制の分野で豊富な経験を有しています。 プレゼンテーションは、インターネット規制と同意のない性的画像の共有との関連性に焦点を当てたものでした。

ウッズ氏は、悪意を持つ者が、ターゲットとなる人物の情報を探すための空間としてSNSを利用する可能性を指摘しました。例えば、若い女性をポルノ業界に引き込むために、「モデルの仕事」といった虚偽の広告を掲載するような形です。また、ソーシャルメディアを使用すると、プライベートな情報を簡単に共有できます。 例えば、彼氏等の親密な関係にある人物は、同意なしに性的画像を共有したり、別れた後にリベンジポルノを投稿したりできます。ウッズ氏は、インターネット規制と性的画像の同意のない共有問題には深い関係性があると考えています。

「行動規範」の開発

ウッズ氏は、英国で提案されている法制度(「オンライン・セーフティ法案」)に実践規範を導入することを目的としたプロジェクトに携わっています。ウッズ氏とプロジェクトチームが取ってきたアプローチは、「規制に対するシステムベースのアプローチ」と呼ばれます。悪意のある画像を規制する場合、本人の同意のないコンテンツを削除することだけが問題ではないことを説明しました。ソーシャルメディアは、こうした画像が共有される環境自体を生み出すことが多いため、同意のない性的画像(NCIIs)の問題が発生・発見する場所となります。この規範は、ソーシャルメディアに関わるすべてのレベルに取り組む4段階のモデルで構成されています。

まず、このモデルはコンテンツの作成に着目しています。アカウントを作成するために何が必要か、コンテンツのアップロードにどのようなフィルターやコントロールがかけられているかを問うものです。次に、発見とナビゲーションに取り組みます。ソーシャルメディア・プラットフォームのアルゴリズムは、ユーザーエンゲージメントを確保し、視聴者の興味を引くために、しばしば過激なコンテンツを推奨する傾向にあります。ウッズ氏が指摘したように、同意のないポルノ画像はこれに完全に該当します。さらに、ソーシャルメディアの広告主導型モデルは、より強いユーザーの反応を引き出すために、過激なコンテンツを優先的に表示することを推奨しています。したがって、ソーシャルメディアは、同意のないポルノや性的画像が共有され、それに関心を持つ人々が見つけることができる環境であるということです。第三に、ウッズ氏らはユーザーの反応に注目しました。例えば、 ユーザーがコンテンツに対してどの程度まで文句を言えるのか、問題があるコンテンツとしてフラグを立てるのはどの程度容易なのか、等です。最後に、このモデルはコンテンツモデレーションを評価します。例えば、ユーザーフレンドリーな苦情処理システムはあるか、ドロップダウンメニューの有用性はどうか、フォームに氏名や住所などを記入する必要があるか、等です。特に最後の問いは、個人情報を開示することが被害者にとってリスクが高すぎる可能性があるため、性的画像の削除において極めて重要です。

設計による安全性

ウッズ氏は、ソーシャルメディアプラットフォームに対して「セーフティ・バイ・デザイン」(設計による安全性)のアプローチを呼びかけました。プラットフォームがサービスを設計する際、適切なリスク評価とコンテンツの媒介を実施する責任があると指摘しました。例えば、ポルノ画像を共有しようとするユーザーは、少なくともプラットフォームによって識別できるようにし、画像が問題となった場合に、加害者を追跡できるようなシステムを構築することができます。さらに、ポルノ業界の欺瞞的な広告といった特定の利用目的は、ソーシャルメディア・プラットフォームで禁止するような規約やサービスも考えられます。また、ウッズ氏は、プラットフォームがユーザーの意見により良く対応し、利用規約を平等に執行する必要があると説明しました。この点に関して、ソーシャルメディア企業が資格を持つ専門家を社内に置くことで、問題を発見し、迅速に被害者に対応できる体制を整えることを推奨しました。

ソフィー・モーティマー氏のプレゼンテーション

モーティマー氏は、リベンジポルノ・ヘルプライン(Revenge Porn Helpline)ならびにStopNCII.org のマネージャーであり、性的画像の悪用に関する専門家です。 プレゼンテーションは、性的画像を同意なしに共有することに対処するための法的戦略に焦点を当てたものでした。

英国に拠点を置くSouth West Grid for Learning (SWGfL)は、英国で同意なしに性的画像を共有することが違法となった2015年にリベンジポルノ・ヘルプライン設立しました。同団体は、性的画像を同意なく共有すること、そのような画像を共有するよう脅迫すること、盗撮、セクストーション(性的な画像や動画などを用いた脅し・ゆすり行為)の4つの主要分野で被害者支援をしています。ヘルプラインでの活動を通じて、同意のない性的画像の共有(NCII)の被害者は主に女性であり、加害者は主に男性であることを指摘しました。また、同意なしの性的画像の共有は孤立して起こるのではなく、家庭内暴力、ストーカー、ドキシング (個人情報を悪意を持ってネット上で公開する、いわゆる「晒し」)、トローリング (ネット上で「荒らす」「あおる」「釣る」等の行為)、コレクター文化など、他のジェンダーに基づく暴力の多くの事例と結びついていることを指摘しました。同意のない性的画像やリベンジポルノの共有は、女性と少女に対するより広範な体系的暴力の一部です。

英国における法的状況

続いてモーティマー氏は、リベンジポルノや同意のない性的画像の共有に関する英国法の欠陥を取り上げました。現行法では、刑事責任を問うには被害者に「苦痛を与える意図」が必要ですが、これは当局に証明するのが難しく、被害者が名乗り出る際の障壁となっています。また、現行法には加害者が告訴を回避するために利用できる防御策が書き込まれていることについても言及しました。例えば、加害者が「被害者が画像を共有しても構わないと思った」「お金のためにやった」というのは、現行法では有効な抗弁になります。さらに、同意のない性的画像関連の事件の報告には匿名性がないため、多くの被害者が名乗り出ることを躊躇してしまいます。

また、英国の法律における「私的な性的画像」の定義が非常に狭いと指摘しました。現在、この定義には下着や加工された画像は含まれていません。特に後者は、ディープフェイク技術やヌーディフィケーション(nudification)アプリの利用がここ数年で急増しているため厄介な存在です。この狭い定義の結果、現在、数え切れないほどの被害者が同意のない性的画像の共有事件の報告を禁じられています。

さらにモーティマー氏は、2015年にこの法律が導入されて以来、警察に報告された同意のない性的画像の共有事件のうち、告発に至ったのはわずか12%で、告発のうち起訴に至ったのはわずか6.5%だと説明しました。着眼すべき点は、報告された事件のうち起訴に至ったのはわずか0.8%ということです。モーティマー氏はこのような統計は被害者を深く落胆させ、自らの事件の報告を躊躇させる可能性があることを強調しました。

この問題の複雑さを認識した英国の法律家たちは、現行法の見直しのために英国法律委員会を任命しました。同委員会は、法律の全面的な見直しを勧告する詳細な報告書を作成し、政府は次期オンライン安全法案の一部として実施することを計画しています。4つの主要な変更点は、ソフィー氏が説明した問題と一致しています。

  • 「苦痛を与える意図」条項
  • 匿名性
  • ディープフェイクや加工画像の包含
  • 性的画像の定義

StopNCII.org の立ち上げ

現在、モーティマー氏の団体は、30万枚以上の同意のない性的画像の削除をしています。同意のないコンテンツを削除することは被害者にとって重要な第一歩であるため、Metaのようなソーシャルメディア・プラットフォームと密接に連携し、削除メカニズムを提供してきました。2021年に、Metaとリベンジポルノ・ヘルプラインは、同意のない性的画像の拡散を阻止するために、StopNCII.orgを立ち上げました。これは世界中のソーシャルメディア・ユーザーや同意のない性的画像の被害者(成人)に向けた使いやすい無料のオンラインツールです。同意のない性的コンテンツのハッシュ(デジタル指紋)を被害者のスマホやパソコン等の機器で直接作り出します。その後、ウェブサイトはこのハッシュをソーシャルメディア企業と共有し、企業が画像を検出して削除できるようにします。また、18歳未満のユーザーを対象とした「Take It Down」というバージョンのウェブサイトもあります。

ミシェル・ゴンザレス氏のプレゼンテーション

ゴンザレス氏は、Cyber Civil Rights Initiative (CCRI) のディレクターであり、性的暴力の被害者や脆弱な人々を支援した豊富な経験を持っています。画像に基づく性的虐待(Image-Based Sexual Abuse, IBSA)を抑止し、画像に基づく性的虐待を経験した人に直接サービスを提供する際の課題やベストプラクティスを中心にプレゼンテーションを行いました。

法規制の状況

ゴンザレス氏はまず、デジタル性的虐待に関する米国の立法状況について話しました。米国には現在、同意のないわいせつ画像(Non Consensual Explicit Image, NCEI)配布やセクストーションに対する連邦刑法がなく、代わりに提供される州法のパッチワークが、サバイバーと法執行機関の両方を混乱させていることを指摘しました。さらに、通信品位法230条は、画像に基づく性的虐待をホストするウェブサイト運営者に対する告発に高いハードルを設けています。

さらに、画像に基づく性的虐待の経験者を含むCCRIの最近の調査から、米国に連邦法がないことが、画像に基づく性的虐待経験者に危害をもたらすと述べました。

ゴンザレス氏は、2013年にCCRI代表兼立法および技術政策責任者のメアリー・アン・フランクス博士が「Guide for Legislators and model state and federal legislation」(立法者・モデル州・連邦法制定のためのガイド) を起草した後、複数の州がこのガイドの法案をテンプレートとして導入し、画像に基づく性的虐待の乱用を禁止する米国の州数は3から48に増加したと説明しています。また、連邦法案のプロセスもすでに始まっています。

コミュニティサポート/ダイレクトサービス

ゴンザレス氏は、弁護士、地元の法執行機関、現場支援のサービス機関が近年対処しきれない事態を経験しており、CCRIも同様に案件数が急増していると明かしました。2022年には5,600人の通報者に対応しており、これは2019年と比較して87.1%増加しました。プロのセックスワーカーは、社会的スティグマ、法執行機関への恐怖、仕事用品の盗難などにより、サポートにアクセスする際に極端な障壁に直面することがあります。

CCRIは、たとえ待機中や複数の通報をしている人たちでも、リソースや情報に迅速にアクセスできるように、即時かつ包括的な情報を提供できるツールの制作を試みています。例えば、CCRI Safety Center(セーフティ・センター)では、画像に基づく性的虐待を経験した18歳以上の個人に対して段階的な手引きを提供し、団体の広報では、セクストーション(性的な画像や動画などを用いた脅し・ゆすり行為)詐欺について通知しています。

事業者に対する勧告

アダルト エンターテイメント サイトに対して:

  • 個人が18歳以上であるかどうかを目視検査で判断することが困難であるため、年齢が不確定な場合は、未成年者向けのプロトコルに従うこと。
  • スクリーンショットとダウンロードを無効にすること。
  • 個々のアップロード者、すべての登場人物、および視聴者の年齢と同意の確認を要求すること。
  • プロのプロダクションの場合は(性的コンテンツ)コーディネーターを保持すること。
  • 国際基準に到達すること/を実施すること。

全てのテック・プラットフォームに対して:

  • テキストの多い通報フォームに頼るのではなく、目立ちやすく使いやすい通報フォームをアプリ内に設計すること。
  • プラットフォーム (Facebook や Instagram など) 内部で取った対応などの報告も含め、通報に応答すること。
  • 匿名の信頼できる報告者による報告を許可すること。
  • エンドツーエンドで暗号化された製品の保護を検討すること。
  • 過去に「同意なしのポルノ」(Non Consensual Porn, NCP)に特定されたものの再アップロードをブロックすること。
  • 「なりすまし」を繰り返すアカウントを検索/無効にすること。
  • ユーザーが「リベンジポルノ」を検索する場合など、子供の安全ツールと同様に、検索を抑止するための目立つ警告を含めること。
  • コンテンツモデレーターの人道的な労働条件を確立し、人員を大幅に拡大すること。
  • 外部監査を実施し、年次透明性報告書を発行すること。

個人ための健康と幸福

ゴンザレス氏は、画像に基づく性的虐待を経験した人は、娯楽、薬物乱用、社会的引きこもりによって苦痛な感情を回避すると説明しました。また、支援を求める人は、家族や友人に経験を開示したり、バーチャルコミュニティに参加したり、専門家の助けを求めると話しました。個人の健康を促進するために、医療機関への問診で暴行を記録したかどうかを尋ねること、大学の心理学科が画像に基づく性的虐待に対応するカリキュラムや新しい治療モデルを開発すること、セラピストが個人にCCRIのウェブサイトを紹介することを推奨しました。

伊藤和子副理事長のプレゼンテーション

伊藤は、日本初の国際人権団体であるヒューマンライツ・ナウ(HRN)の創設者兼副理事長であり、人権弁護士です。 プレゼンテーションでは、日本人女性に対するデジタル性暴力の現状、前進、課題に焦点を当てました。

日本における女性に対する暴力

伊藤は、日本における女性に対するオンライン暴力とオフライン暴力は深く結びついており、互いに強め合っていること、そして日本にはレイプ文化が蔓延していることを指摘しました。

日本のAV業界における女性の強制出演

伊藤は、日本のアダルトビデオ(AV)業界における女性の出演強要問題への取り組みは、HRNの重要な課題であると表明しました。HRNが2016年に発表した実態調査報告書を引用し、多くの若い被害者はAVの出演者ではなくモデルになるための契約にサインしていると手口巧みに騙される被害実態を明らかにしました。被害者が契約書にサインすると、ポルノ業者はAVに出演するよう要求しますが、これは女性に対する重大な暴力であり、人権侵害です。被害者が拒否すると、AV業者は高額な違約金を請求したり、友人や家族に行為や画像を晒すと脅したりします。伊藤は、日本のAV業界における出演強要の被害者は、最終的に、いかなる演技も拒否する決定権を持っていないことに懸念を示しました。

犠牲者の封じ込める構造

事務所との契約を解除した被害者でも、出演を強要されたAVの配信を止めることができず、精神的苦痛の結果、自殺に至る場合もあります。伊藤は、同意や撮影が強制的なものであるにもかかわらず、契約書には被害者がAVに「出演」することに「同意」したことが示されているため、エージェンシーが起訴されることはほとんどないと強調しました。

HRNの2016年の調査報告書の発表後、多くの被害者が勇気を持って声を上げたことで、2017年には省庁間委員会が設置され、被害防止や若者の啓発に力を入れるなど、社会や政策の変化につながっています。

2022年の新法

伊藤は、日本の国会では2022年にようやく、AV出演強要の被害防止・被害者救済のための包括的な法律が採択されたと説明しました。この法律の非常に重要な点は、同意のないポルノ出演を防止するための手続き上の保護措置です。例えば、第3条では、映画製作者は出演者に性的行為を強要してはならないと定め、第4条から第6条では、映画製作者は出演者に追加の説明付き出演契約書を提供するよう求めています。さらに第7条では、契約締結からポルノビデオの撮影まで1ヶ月の期間を設けなければならないと定め、第8~9条では、出演者が完成品を確認する機会を設け、ビデオの公開まで4ヶ月以上待つことを撮影者に義務付けています。

また、新法がデジタル暴力を防止し、終わらせる可能性を持っていることを説明しました。特に、第13条で、出演者は公開前と公開後2年までは理由を問わず一方的に契約を解除でき、映画製作者はこの解除に対して違約金を課すことができないと定めていることを強調しました。第14条から第15条では、契約を解除した結果、または出演者の要求により、出版の中止を要求し、第16条では、サービス提供者が被害者の要求により送信防止措置を講じた場合、責任を免除されると定めています。同法の一定の規定に違反した場合は、第20条から22条で刑事罰が規定されています。

伊藤は、新法は大きな前進であると述べた上で、まだいくつかの課題が存在すると指摘しました。例えば、ポルノ業界の法令遵守は問題であり、出演者の意思に反してポルノビデオを公開した者に対する処罰はありません。特に、被害者が出演を強要された日本製ポルノビデオを海外のプラットフォームが公開するという、国境を越えた出演強要のケースは解決が困難です。最後に、日本国内の被害者がネット上で自分の画像や動画を消したい場合、各行政機関に相談する必要がありますが、各行政機関は法的権限を持たず、事業者に公開停止を求めるよう助言することしかできないため、対応が充分にされないのが課題として残ります。

HRN の推奨事項:

  • 新法施行のための監督官庁や、韓国で採用されているような画像・映像排除のためのワンストップ被害者支援センターを設置し、政府の義務を強化すること。
  • プラットフォーム、サービスプロバイダー、ビッグテック企業などの事業者に対して、拘束力のない「ビジネスと人権に関する国連指導原則」を超える拘束力のある義務を課すこと。
  • 国境を越えたアダルトビデオへの出演強要ケースに取り組むこと。
  • 忘れられる権利の認識、制裁の拡大、特定の活動を規制または禁止すべきかどうかの判断など、法律をさらに発展すること。
  • ネット上の被害者を守るため、デジタル性的虐待・性暴力の問題に引き続き取り組むこと。

シンディ・ギャロップ氏のプレゼンテーション

ギャロップ氏は MakeLoveNotPorn の創設者兼 CEO であり、ポジティブな性的価値観とポジティブな性行動を促進するために世界各地で講演しています。 プレゼンテーションでは、MakeLoveNotPornの概要、始めた理由、そして当団体がデジタル性的虐待の問題に異なる視点をもたらすためために行っている3つのポイントを説明しました。

MakeLoveNotPorn の始まり

14年前にMakeLoveNotPornを始めた理由について、若い男性と交際する中で、現実世界ではセックスについて議論されず、ポルノがデフォルトの性教育になってしまっていることを自ら実感したからだと語りました。当初のMakeLoveNotPornは、ポルノの世界と現実の世界という構図に基づくものでした。2009年にTEDトークで紹介した後、ギャロップ氏は自分が世界的に大きな社会問題を発見したことに気づきました。そしてMakeLoveNotPornを、社会問題の解決と収益化の両立を実現させるためのビジネスモデルへと発展させたのです。

MakeLoveNotPornとは

ギャロップ氏は、MakeLoveNotPornがセックス賛成、ポルノ賛成、セックスとポルノの違いを認識している組織であることに加え、ユーザー第一、百パーセント人の手で作られた初のソーシャルセックスビデオ共有プラットフォームだと説明しました。目的は、セックスを社会化・正常化し、同意、コミュニケーション、良い性的価値観と行動を促進し、性教育の一形態として機能させることです。MakeLoveNotPornは、収益分配型のビジネスモデルに基づいて設計されており、会員はソーシャルセックスビデオの購読、レンタル、配信にお金を払い、収入の半分は、NotLoveNotPornスターと呼ばれる貢献者に支払われます。

MakeLoveNotPornが異なる視点をもたらすために行うこと

  1. ギャロップ氏は、ポルノ業界の巨大プラットフォームの男性創業者は、オンライン・オフラインのハラスメント、虐待、性的暴行、暴力、レイプ、リベンジポルノの主な標的ではないため、自分たちのプラットフォームでこれを防ぐための積極的な設計はしてきていないと述べました。しかし、MakeLoveNotPornでは、女性、黒人、有色人種、LGBTQ+、障害者など、デジタル性的虐待のリスクが最も高い社会で主流でない人たちにとっても安全な空間や安全な体験が得られるようにプラットフォームがt設計されています。MakeLoveNotPornは、インターネット上で最も安全な場所として、女性のレンズを通してデザインされており、自己公開はないと説明しました。すべての動画とコメントを確認し、その動画が同意の上で合法なものであるか、参加者全員と撮影者の識別情報を含むかどうかを確認し、少しの違和感だけでも動画を公開しない十分な理由となります。さらに、MakeLoveNotPornのスターが自分のビデオを削除したい場合、申請書や長いプロセスを経ることなく、即座に削除することができます。
  2. ギャロップ氏は、性的価値観を含む自身の信念と哲学に基づいて MakeLoveNotPorn を設計したことを話しました。共感、感受性、寛大さ、優しさ、誠実さ、尊敬といった価値観は、性生活においても他のすべての領域と同様に重要であるにもかかわらず、親はその良い価値観を性生活に反映させることを忘れていると主張しました。MakeLoveNotPornは、こうしたポジティブな性的価値観を広め、現実世界における同意とコミュニケーションのあるセックスがいかに素晴らしいかを示すことで、レイプ文化を終わらせるために活動しています。シンディ氏は、他の誰よりも多くの男性が感謝の意を表していることを明らかにしました。これは MakeLoveNotPornがインターネット上の安全な空間であり、他の男性がセックスについてオープンで、感情的で、脆弱であることを見ることができ、有害な「男らしさ」に対して解決策を提供しているためだと語りました。
  3. ギャロップ氏は、私たちがセックスに対して抱く羞恥心、罪悪感によって引き起こされる不幸や惨めさを目の当たりにしてきたと語りました。MakeLoveNotPornによって、裸の写真やセックスビデオがインターネットに掲載されることを恥ずかしいと感じる人がいなくなることを望んでいます。また、MakeLoveNotPornのスターたちが、インターネット上の完全に安全な空間で自分自身を共有することが、性的トラウマや虐待を対処し癒すのに役立ったという意見を紹介しました。

本イベントにご参加頂いた皆さま、ありがとうございました。