【イベント報告】「テレビ局を取り巻く人権・ジェンダーの課題~何が改善され、何が変わるべきなのか?」

2026年6月6日、認定NPOヒューマンライツ・ナウは、昭和女子大学客員教授でジャーナリストの白河桃子氏と、チキラボ特任研究員の中村知世氏をお迎えし、「テレビ局を取り巻く人権・ジェンダーの課題~何が改善され、何が変わるべきなのか?」と題したウェビナーを開催しました。

本ウェビナーでは、旧ジャニーズ性加害問題、いわゆるフジテレビ問題などで社会の注目を集めた「テレビ局をめぐる人権侵害」について取り上げました。その後のメディア企業の取り組みはどうなっているのか、そして、テレビが抱える人権問題は抜本的に改善されたのか、について考えることを目的として実施されました。

 

<白河桃子氏>

なぜ民放連がジェンダー平等に取り組むのか?

放送業界には、男性中心の不健全な企業文化と、それを支える構造があり、変化を拒んでいるのが現状だと指摘されました。また、放送業界のジェンダーギャップは、単なる女性の登用問題ではなく、「構造的な人権侵害」と「経済的損失」を生み出す要因となるため、「ジェンダー平等」は人権課題と経営課題の両面から捉える必要があるとの視点が共有されました。

民放連がジェンダー平等に取り組むべき理由としては、以下の点が挙げられました。

経済的影響(自社価値の毀損)

ジェンダーギャップは、多様性の欠如により画一的なコンテンツを生み出し、長期的な競争力と市場への適応力を低下させます。また、ハラスメントや不祥事といった重大な人権侵害の放置は企業の信頼を毀損し、株主や社会からの評価を低下させます。単なる人材活用の問題ではなく、企業価値の根本的な毀損に直結します。

社会的影響(社会規範の再生産:公器としての責任)

「公の電波」を預かり、国民の社会規範や価値観に絶大な影響力を持つ「公器」である放送業界は、男尊女卑的な社会規範やジェンダーギャップを再生産・固定化し、日本社会全体の人権意識と経済活動に長期的な悪影響を及ぼします。

現場から、民放連として取り組むべきことの提案

調査と公開、数値目標の設定、マイルストーンの設定、そして方針の宣言や啓発活動を通じて、差別が現実に存在し、それが表現にも現れているという事実を直視・共有することが重要であるとされました。また、ジェンダーについては、人権問題と経済的側面の両方から理解を促すことが挙げられました。さらに、テレビならではの取り組みとして、目に見える変化を促す「50:50プロジェクト」(専門家や情報源を含む、ニュースや番組コンテンツにおける女性出演者の割合を50%にすることを目指す、現場主導の取り組み)に各社が取り組むよう、民放連には旗振り役となってほしいとの提案がありました。

時代の変化とダイバーシティへの要請

AIの時代であるからこそ、経営課題を克服する人材が重要であり、企業はこの人材戦略を公開しなければ株主の信用を得られないと示されました。また、企業は単に経営課題を克服する人材を育てるだけではなく、人材が活躍できる風土を耕す必要があります。そこにジェンダー平等やダイバーシティ経営の真の価値があると強調されました。加えて、不祥事を起こす組織の特徴として、同質性が高いことが挙げられました。同質性が高いことによって起きる「グループシンク(集団浅慮)」など、同質性がもたらすリスクについてもお話がありました。

今日からできる多様性への取り組み
  • 見える景色を変えていく
  • 組織における女性の数を増やす
    (割合が15%以下だと、少数派は「象徴」として扱われ、個人の能力よりも属性で評価されがちになります)
  • 働き方改革
    (柔軟な働き方を阻害しない、長時間労働を是正する)
メディアのダイバーシティは何のためか?

「法律や制度は国が作る。しかし、風土はメディアが作る」

日本のジェンダーギャップが変わらない背景には、政府とメディアのあり方が関係しているのではないかとの問題提起がありました。メディアがどの課題を扱うかは、政府の優先順位にも影響するため、女性や子どもに関する政策が後回しになりがちなのは、メディアの影響もあるとの指摘がありました。

 

<中村知世氏>

放送業界の労働環境について

放送業界の労働環境調査では以下の結果が示され、女性回答者の約1割が深刻な性暴力を経験していることが明らかにされたことが共有されました。

  • 「性的な関係の誘いを受ける」:約4割が被害経験
  • 「性的な関係を強要される」:約1割が被害経験

また、ちょっとしたからかいや些細な違和感がエスカレートし、重大な被害につながるという「被害のエスカレーション構造」が存在しているとの言及がありました。

ハラスメントの被害が深刻化しやすい関係性
  • 取引関係などの利害が発生する関係
  • パワーの勾配がある関係

現状としては、ハラスメント対策は進んでいるものの、実効性に課題があるとのことです。フジテレビ第三者委員会報告書にも記載されているように、「女性がいた方がいい」という理由で開かれる飲み会を98名が経験しており、さらに、ハラスメント加害者が昇進するという理不尽な状況を119名が認識していることが分かりました。

チキラボからの提言

チキラボからの提言としては、以下が挙げられました。

  1. 「性的な冗談」といった「小さな」加害・被害を見逃さない
  2. 業務範囲・空間を明確化する
  3. 取引関係にある利害関係者との会合で個人の孤立化を防ぐ
  4. 現在のハラスメント対策を徹底し、定期的な環境調査を実施する
  5. 関係団体による業界横断調査を実施する

今後、業界横断調査をサポートしていくためにも、改めてこれらを含めた呼びかけをしていきたいという旨が述べられました。

 

<ヒューマンライツ・ナウからの共有>

ヒューマンライツ・ナウからは、2025年2月から3月にテレビ局を対象に実施したアンケート調査と、その後のフォローアップについて共有されました。

企業は、自社のみならず取引先も含めたバリューチェーン全体について、国際的な水準で人権尊重の責任を負う必要があります。そのために、企業は人権方針を策定し、人権デューディリジェンスを実施することで、人権リスクを特定し、防止・軽減する必要があるとの説明がありました。また、被害救済のためのシステムを持つ必要があると述べられました。

アンケート調査によると、主な取り組みとして下記が挙げられますが、そのうち、②と③に未だに取り組んでいない局があることが懸念されています。

  1. 人権方針
  2. 人権DD
  3. 苦情申立てシステム

また、自社を超えた人権への取り組みが極めて不十分であり、「旧ジャニーズ問題の教訓から学んでいない」との指摘がありました。人権が日々の経営判断において一貫して軽視されていれば、相談窓口を誰も信頼せず、放送コンテンツも人権から遠ざかってしまいます。その意味でも、経営・ガバナンスにおける重要課題として人権課題を位置づけることが重要であるとの説明があり、今後も勧告を継続していきたいとの意向が示されました。