【ユースイベント報告】刑法は変わったけど、裁判のリアルは?~裁判での「性的同意」を読み解く~

2025年9月28日(日)、認定NPO法人 ヒューマンライツ・ナウ 女性の権利プロジェクト・ユースチーム は、性暴力被害者支援情報プラットフォーム THYME(タイム)と共催で、オンラインイベント「刑法は変わったけど、裁判のリアルは?~裁判での「性的同意」を読み解く~」を開催しました。

2023年7月の刑法性犯罪規定改正から2年を迎えるにあたり、改正で新設された「不同意性交等罪」などの法的意義を振り返るとともに、実際の裁判で「同意」がどのように扱われているのかをユース世代が自ら考える機会となりました。

 

【プログラム概要】

〈オープニング・問題提起〉
THYMEおよびHRNユースチームから、刑法改正の背景と「性的同意」をめぐる社会的課題について共有がありました。法的な定義や制度を超えて、「なぜ同意が伝わらないのか」「どうすれば尊重される関係が築けるのか」を出発点として、ディスカッションが始まりました。

〈判例読み込みワーク〉
ユース参加者は3つの実際の裁判例をもとに、「事件概要」「判決理由」「問題点」を整理しながら、“ここがおかしい!”と感じた点を議論しました。
扱った判例は以下の3件です。
1. 那覇地裁判決(R6.11.22)準強制性交等致傷事件
2. 那覇地裁判決(R6.6.14)強制性交等致傷事件
3. 大阪高裁判決(R6.12.18)滋賀医科大学集団暴行事件

〈全体共有〉
グループでの意見交換の後、ユースたちは全体に向けて議論の内容を共有。「同意の取り方」「司法の姿勢」「社会の価値観」など、さまざまな角度から考えを深めました。

 

【ユースディスカッションの内容】

① 那覇地裁判決(R6.11.22)準強制性交等致傷事件
泥酔状態の被害者に性的行為を行った被告に対し、裁判所は「被告が同意があると誤解した可能性」を理由に無罪とした事件。
・「お酒を飲んでいる状況では、同意は成立しない」
・「愛想笑いは同意ではなく、無理をしているサインかもしれない」
・「加害者の“誤解”が理由で無罪になるのはおかしい」
・「故意があるかどうかよりも、被害者が苦痛を感じている事実に向き合うべき。」

② 那覇地裁判決(R6.6.14)強制性交等致傷事件
被害者が「痛い」「やめてください」と繰り返したにもかかわらず、裁判所は「明確な不同意とは認めがたい」と判断。
・「明確なNOがあるのに、なぜ不同意とされないのか」
・「上下関係や雇用関係の中では声を上げにくい」
・「社会的偏見やポルノ的価値観が“同意”の判断を歪めている」
・「恋愛対象ではないことを無視して“同意”とみなすのはおかしい。裁判官の価値観が問われている。」

③ 滋賀医科大学集団暴行事件(大阪高裁 R6.12.18)
一審で有罪、二審で無罪となった大学生らによる事件。動画には「苦しい」という被害者の言葉も残っていました。
・「“苦しい”という言葉が性的な意味に変換されるのは恐ろしい」
・「動画拡散を防ぐための行動を“同意”と誤解するのは被害者の立場を無視している」
・「拒絶の言葉が通じない社会構造自体が問題」
・「ポルノ的な価値観が、性的暴力を“快楽”として正当化する危険性を感じる。」

 

【全体を通しての気づき】

3つの判例を通じて、ユースたちは共通して「加害者が同意があると思った可能性」が重視されすぎていると感じました。
・「疑わしい時点で“不同意”ではないか」
・「加害者の勝手な思い込みで物事が判断されることに違和感」
・「知人や職場関係では“NO”が言いにくい現実を理解すべき」
・「“同意”は法的概念ではなく、人と人との関係を築く姿勢。社会全体が変わらなければならない。」

 

【共催団体】

性暴力被害者支援情報プラットフォーム「THYME(タイム)」

性暴力被害からの回復に必要な支援情報を当事者の視点で発信するWEBサイトを運営。「知識はやさしさ」をコンセプトに、トラウマ理解やセルフケアプログラムを通して、被害の「その後を生きていく」人々を支えています。

認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ 女性の権利プロジェクト・ユースチーム
女性や子どもの人権課題に取り組み、ユースが主体的に発信・行動することで、ジェンダー平等の実現を目指しています。

 

今回のイベントは、ユース世代が自ら判例を読み解き、「性的同意」を社会の文脈の中で考え直す貴重な機会となりました。参加者からは、
「同意の確認を“言葉”だけでなく“関係のあり方”として考える視点が得られた」
「司法や社会のあり方を変えるために、声を上げ続けたい」
といった感想が寄せられました。

ヒューマンライツ・ナウは、今後もユース世代とともに、性的同意文化を社会に根づかせる活動を続けていきます。