【声明】森喜朗公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長のオリンピック憲章に違反する性差別発言に対する抗議声明

 

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、【声明】「森喜朗公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長のオリンピック憲章に違反する性差別発言に対する抗議声明 」を発表いたしましたので、ご報告します。

 

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【声明】「森喜朗公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長のオリンピック憲章に違反する性差別発言に対する抗議声明


森喜朗公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会会長の

オリンピック憲章に違反する性差別発言に対する抗議声明

 

東京を拠点とする国際人権 NGO ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、森喜朗公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下組織委員会)会長が、2021年2月3日に日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会において行った女性差別発言について、強く抗議する。

 

臨時評議会において森会長は、JOCの女性理事の登用を4割以上にするという目標に関して「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかる」、女性の理事を増やす場合は「発言の時間をある程度規制をしておかないとなかなか終わらないから困ると誰かが言っていた」などと発言した[1]

 

一連の発言は、明確な性差別であり、女性に対する偏見を助長するだけでなく、女性の意見がスポーツ分野に反映されるのを阻害することが懸念され、翌日(2月4日)に謝罪記者会見をしたからと言って決して許されない。

 

森会長も謝罪記者会見で明確に述べているように、オリンピックは、オリンピック憲章という規範に則って開催されることが求められる(オリンピック憲章への導入C)[2] 。同憲章では、「オリンピズムの根本原則」として、「3 スポーツをすることは人権の 1 つである。すべての個人はいかなる種類の差別も受け」ないこと、「6 このオリンピック憲章の定める権利および自由は人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治的またはその他の意見、 国あるいは社会的な出身、 財産、 出自やその他の身分などの理由による、 いかなる種類の差別も受けることなく、 確実に享受されなければならない。」 とし、性別(sex)だけではなく、いかなる差別も禁止している[3]

 

また、オリンピック関係者(オリンピック競技大会の組織委員会など)が遵守することが求められているIOC倫理規程は

「人権保護の国際条約がオリンピック競技大会での活動に適用される限り、 それを尊重す

ること。 特に以下のことを保証すること -                人間の尊厳を尊重すること

-          人種、 肌の色、 性別、 性的指向、 言語、 宗教、 政治的またはその他の意見、 国あるいは社会のルーツ、 財産、 出自、 その他の身分などの理由による、 いかなる種類の差別も拒否すること」と定めている。[4]さらに、IOCが定めた「アジェンダ2020」は提言11で「男女平等を推進する」とし、「 1. IOCは国際競技連盟と協力し、オリンピック競技大会への女性の参加率50%を実現し、オリンピック競技大会への参加機会を拡大することにより、スポーツへ の女性の参加と関与を奨励する。」としている[5]

 

組織委員会は、オリンピック憲章規則35付属細則によって、「その設立から解散に至るまで、 オリンピック憲章および IOC と NOC、 開催地との 間で取り交わす合意書、 さらにその他の規則または IOC 理事会の指示に従い、 すべての 活動を進めるものとする。」と規定されている[6] 。今回の森会長の発言は、同憲章に規定する性差別の禁止に明確に反している。

 

加えて、森会長は、公益財団法人日本スポーツ協会最高顧問でもあり、組織委員会会長でもあることから、日本のスポーツ界を代表する立場にいる。そのため、内閣総理大臣として自ら閣議決定した「男女共同参画基本計画」の後継である「第5次男女共同参画基本計画」(2020年12月閣議決定)において示された「スポーツ団体における女性理事の割合」を2020年代の早い時期に「40%」にするという目標 を達成するために、率先して女性理事の割合を増やす責任を持つ。

 

このように、森会長は、オリンピック憲章やアジェンダ2020が要求し、また、日本国が実現しようとしているスポーツにおける男女平等を軽視し、現在24人中5人(20.8%)しかいないラクビーフットボール協会理事[7] に関して、「女性がたくさん入っている理事会(略)は時間がかかる」という科学的根拠のない「事実」を述べ、さらに、現在25人中5人(20%)しかいないJOC [8]が女性理事を40%にしようとする努力を揶揄し水を差す発言をしたことは、スポーツ界における選手たちの男女同数のみならず、役員における男女平等の実現へと努力しているスポーツ団体の努力を踏みにじるものである。

 

また森会長は、発言時間に関する性差別発言に関連して、組織委員会理事会の女性は「みんなわきまえておられる」と指摘した。この発言は、会議において女性たちが発言することを萎縮させかねないものである。すでに国内外から多くの批判が上がっているが、世界的に注目される組織委員会会長の発言であるために、日本が受けたダメージは計り知れない。組織委員会として真摯な対応をしなければ、東京オリンピック・パラリンピックは性差別発言を容認する組織委員会が準備開催したという不名誉なレガシーが残ることになりかねない。

 

これまで男性のみによって運営されていたスポーツ団体に役員として女性が入ることは、より民主的なプロセスが実現することを意味する。民主的なプロセスは、独裁やホモソーシャルな空間とは異なり、多様な視点が提供されることから、当然に時間がかかる。その時間は「民主主義のコスト」であって、民主主義国家である日本の首相経験者がそれさえも理解していないことは驚くべきことである。

 

HRNがフォーダム大学法科大学院Walter Leitner International Human Rights Clinicと共同で2021年1月26日に公表した報告書「日本の教育機関における男女平等の推進」[9]において、「スポーツ連盟等において男性コーチや役員が圧倒的に多いことが障壁となって、女性の意見をスポーツ団体に反映させることが非常に難しくなってい」ることを指摘した。本報告書では、アメリカ合衆国のタイトル・ナインのような法律を導入することで、教育現場や学校スポーツにおける男女平等を促進することを提案しているが、今回の性差別発言は、スポーツ界における男女平等の必要性をスポーツ界のトップが認識していないことを図らずも露呈したものとなった。

 

以上のことから、HRNは次のことを求める

1 組織委員会理事会は、オリンピック憲章等に明確に違反する性差別発言により、「大会の成功」(定款3条)を危うくした森会長に辞任を求めるか、定款31条3号の規定により、解職すること。

2 組織委員会及びJOCは、第5次男女共同参画基本計画に則って、すべてのスポーツ団体の女性役員を速やかに40%に引き上げること。

3 学校スポーツにおける性別差別をなくするためにアメリカ合衆国のタイトル・ナインのような法律の制定を組織委員会及びJOCが中心となって実現すること。

                                      以上

 

[1] http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4190703.html

[2] 国際オリンピック委員会「オリンピック憲章」(2020年7月7日)8頁。

https://www.joc.or.jp/olympism/charter/pdf/olympiccharter2020.pdf

[3] 注2、10、11頁。

[4] 国際オリンピック委員会「IOC倫理規程2020」12頁。

https://www.joc.or.jp/olympism/ethics/pdf/ethics2020_j.pdf

[5] https://www.joc.or.jp/olympism/agenda2020/pdf/agenda2020_j_20160201.pdf

[6] 注2、64頁。

[7] https://www.rugby-japan.jp/news/2019/06/29/49999

[8] https://www.joc.or.jp/about/executive/

[9]https://hrn.or.jp/wpHN/wpcontent/uploads/2021/01/851cbec4cf66465b47f29ae860e2cd9c.pdf