特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウは5団体と共同で、収容・送還に関する専門部会提言に対する声明を発表いたしました。
声明の全文(PDF)はこちらからご覧いただけます:http://www.jlnr.jp/jlnr/wp-content/uploads/2020/06/0622_収容・送還専門部会提言に対する共同声明_j.pdf
収容・送還に関する専門部会提言に対する共同声明
2020年6月19日、法務大臣の私的諮問機関である第7次出入国管理政策懇談会「収容・送還に関する専門部会」(以下「専門部会」といいます。)は、報告書「送還忌避・長期収容の解決に向けた提言」(以下「提言」といいます。)を公表しました。私たちは、提言の中の、特に以下の点について、非常に強い危惧を覚えますので、ここに意見を表明します。
1 退去強制拒否罪(仮称)の創設(提言29頁)について
提言では、強制送還に必要な手続を取らない外国人に対して、かかる手続を取ることを義務付ける命令を発し、これに応じない場合には刑事罰も加えることを検討することとされています(以下この罪を「退去強制拒否罪(仮称)」といいます。)。
しかし、専門部会では、長期収容に至ってまで強制送還を拒絶している外国人がなぜそこまで拒み続けるのか、その原因の解明が十分になされていません。原因の解明なくして有効かつ適切な対策が立てられないのは自明の理です。
そして、退去強制拒否罪(仮称)を設け、これにより処罰をされたとしても、それでも帰国できない者は、刑事手続で拘置所、刑務所に行き、その後また入管収容施設に送られ、そこでまた送還を拒否すれば刑事手続…というように、無限のループに入ることになります。専門部会では、その間に費やされるコストについての検討もされていません。刑罰化されることで、共犯となり得る支援者への萎縮効果も強く懸念されます。そもそも、国は退去に応じない外国人をその意思に反してでも強制送還できる権限を有しているのに、刑事罰による抑止力に頼らなくてはならないというのは国家権能の機能不全を宣明するようなものです。諸外国に倣い、自発的な帰国に促すための諸方策(たとえば、帰国後に使える生活費を交付するなど。提言26頁で一部取り上げられています。)を、コスト面も含めて優先的に検討するべきです。言うことを聞かないならば罰を与えればよいという提言は新たな問題を生じさせるだけで何らの改善をもたらさないものです。
退去強制拒否罪(仮称)の創設には絶対反対します。
2 難民申請者の送還停止効の例外創設(提言34頁)について
提言は、現行法で認められている難民認定申請者の送還停止効(入管法61条の2の6第3項)について、「一定の例外を設けること。例えば、従前の難民不認定処分の基礎とされた判断に影響を及ぼすような事情のない再度の難民認定申請者について、速やかな送還を可能とするような方策を検討すること」を提言しています。
しかし、日本の難民認定率が1パーセントに及ばず、「難民鎖国」などと批判されていることは、数多の文献において指摘されているところです。2019年には、国連難民高等弁務官も、日本について、「他の先進国に比べ、難民認定の基準がかなり厳しい」と指摘しました。例えば、シリア難民であったり、ミャンマーのロヒンギャのような、諸外国であれば、その属性のみが立証できれば難民として認定されているような難民申請者についても、ほとんど難民として認定されていません。日本の難民認定制度は、明らかな機能不全を起こしており、保護すべき難民を保護できていないのです。
難民申請者が同じ理由で複数回申請を繰り返さなくてはならないのは、帰国した場合には迫害の危険があるからです。日本政府は難民条約の解釈に独自の見解を持ち込み、諸外国であれば保護されるべき申請者の多くを保護していません。難民認定の判断に誤りがあった場合には、本国に送還された後、投獄されたり、死刑になったりと、取り返しの付かない結果が生じる危険があります。「10人の真犯人を逃すとも、1人の無辜を罰するなかれ」というのは、刑事裁判における有名な格言ですが、難民認定実務では、真の難民は一人として誤って不認定にし送還してはならないのです。
提言34頁では、平成26年12月第6次出入国管理政策懇談会・難民認定制度に関する専門部会における「難民認定制度の見直しの方向性に関する検討結果(報告)」の提言を踏まえた施策を併せて実施することが提言されていますが、同提言がされてから5年以上もの間、かかる施策の実施がされてきていなかったことからすると、送還停止効の例外創設と併せて同提言の施策が実施することはおよそ期待できません。
送還停止効の見直しについて検討するのであれば、まずは、難民の保護を他の先進国並とすることが先決です。
3 収容制度の見直し(提言42頁以下)について
提言では、「我が国で一律の収容期間の上限を定めることについては、被退去強制者の速やかな送還を旨とする我が国の退去強制制度の下では問題が大きい」(提言44頁)として、収容期間の上限を定めるべきとの意見を採用しませんでした。
しかし、収容期間に上限を設けることは長期収容解消のための最も直接的かつ効果的な方策であり、国連からの度重なる是正勧告にも沿うものです。「速やかな送還を旨とする」のは、諸外国でも同様であり、上限を設けないことの理由にはなりません。
また、「収容の開始又は継続時における司法審査については、行政訴訟制度による司法審査の機会が保障されている」とあります(42頁②)。これは、収容の執行停止を念頭に置いていると考えられますが、裁判所の決定で収容からの解放が認められた事例は、2010年以来一件もありません。制度は確かにありますが、迅速かつ効果的な救済とはほど遠いのです。仮放免逃亡罪(仮称)の創設も検討するものとされていますが(54頁)、刑法の謙抑性からいっても、むやみに処罰による抑止に走るべきではありません。逃亡が増えているのであれば、その原因を究明し、原因を解決するための対策として何が相応しいかを議論すべきです。
4 結び
私たちは、2019年12月18日付で「長期収容・『送還忌避者』問題解決のための共同提言」、収容期間の上限を定めるなどの収容法制の改正、難民認定の適正化、一斉正規化の実施などの方策を述べました。
提言は、排除・締め付けの方向のみが強調されているようです。ですが、今後の国会などでの法改正・制度改正の議論においては、上記共同提言で述べたような、受容による解決も有効かつ有力な選択肢として検討すべきです。
2020年6月22日