シリアに関する声明
アサド政権と反政府勢力との戦闘が開始して以降、シリアでは1万人以上の死者が出たとされる。[1]また、本年5月25日にはシリア中部の町ホウラで虐殺事件が発生し、国連の推計によれば、49人の子どもと34人の女性を含めた108人が殺害されたとされている[2]。その後、6月に入ってからも北西部の町ハッファ [3]や中部の村クベイル[4]でも虐殺事件が発生したとされるなど、一般市民の犠牲が増え続けている。シリアでの暴力の連鎖にはもはや歯止めが利かない状態であり、国連の高官は、シリア国内はもはや内戦に陥っているとまで評価している。[5]
このような状況に対し、ヒューマンライツ・ナウは、深い憂慮を示し、シリア政府及び国際社会に対し、以下の通り要求する。
第1 即時停戦を実行すること
本年3月25日、アナン特使は、シリア政府と反政府勢力との戦闘の停止等を求めた6項目の調停案を提示し、当該提案をシリア政府は公式に受諾している。当該調停案は、本年4月14日に採択された安全保障理事会決議2042においてもその履行が求められており、その履行はシリア政府の国際法上の義務となっている。しかしながら、その後も停戦は実現していない。
ヒューマンライツ・ナウは、シリア政府に対し、即時停戦の実行を求める。
第2 一般市民に対する攻撃をやめること
上記の通り、シリア国内は現在、内戦状態にあると評価される。しかしながら、戦時においても、一般市民への無差別攻撃は許されず、戦闘員と非戦闘員は厳格に区別されなくてはならない。このことは、国際人道法上の基本的義務であり、シリアも締約国であるジュネーブ条約においても明確に示されている。また、国際人権法は、たとえ戦時であっても、その遵守が求められる。国民の生命・身体の安全を保障することは、国際人権法上の基本的義務である。
しかしながら、上記のように、ホウラでの虐殺を始めとして、シリアでの戦闘においては、女性や子どもを含む、多くの非戦闘員が殺害されている。国連人権理事会は、本年6月1日の決議において、シリア政府による人権侵害行為に対し深い憂慮を示している。
ヒューマンライツ・ナウは、シリア政府に対し、国際法人道法・人権法上の義務を遵守し、一般市民に対する攻撃をやめるようを強く求める。また、シリア国内において戦闘行為に参加するすべての当事者にも国際人権・人道法の遵守を求める。
第3 国際社会は、シリア政府に対する武器の供与を禁止すること
言うまでもなく、戦闘は武器の供与があることによって悪化する。一般市民への攻撃による犠牲が拡大している現在、武器供与は即ち深刻な人権侵害を助長するものである。ヒューマンライツ・ナウは、すべての国連加盟国とビジネス・セクターに対して、シリア政府へのすべての武器、弾薬、軍事・治安・警察についての装備・訓練・人員の供給を直ちに中止するよう求める。
第4 人道に対する罪についてのアカウンタビリティを確保するため、国際刑事裁判所に付託すること。
シリアにおいては、戦争犯罪、人道に対する罪を構成する重大な人権侵害が進行している強い疑いがある。例えば、ホウラにおいては、女性や子どもを含む多くの市民が虐殺されており、国際刑事裁判所規程上の人道に対する罪に該当する疑いが強く、国連のピレー人権高等弁務官も、ホウラにおける虐殺が人道に対する罪に該当しうると指摘している。
シリアにおける一連の事態につき、不処罰を断ち切り、アカウンタビリティを確保することが求められている。ヒューマンライツ・ナウは、安全保障理事会に対し、シリアにおける事態について、国際刑事裁判所への付託を決議するよう求める。
以上
[1] http://www.emeye.jp/disp/OAA/2012/0613/stockname_0613_005/0/
[2]http://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=12210&LangID=E
[3] http://mainichi.jp/select/news/20120615k0000e030155000c.html
[4] http://mainichi.jp/select/news/20120607k0000e030164000c.html
[5] http://mainichi.jp/select/news/20120613k0000e030204000c.html