ヒューマンライツ・ナウは「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする
住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」
の成立に当たっての声明を発表いたしました。
下記よりご確認いただけます。
原発事故被害者支援法の成立にあたっての声明.pdf
「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」の成立に当たって
2012年6月25日
特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウ
1 本年6月21日、「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」が衆議院で可決・成立した。
これまで政府は年間実効放射線量20ミリシーベルトを基準として避難指示等の措置を出すのみであり、住民の健康を守り生活を支援するための施策や住民の避難に対する補償・支援は極めて不十分にしか行ってこなかった。ヒューマンライツ・ナウは政府に対し、自然放射線を除く年間実効放射線量が1ミリシーベルト以上のすべての地域について、人々のかけがえのない健康、生命に対する権利を守るために必要なすべての措置を講じるよう求めてきた。
今回の法律は、被災者一人一人が居住、他の地域への移動及び移動前の地域への帰還についての選択を自らの意思によって行うことを前提に、「被災者がそのいずれを選択した場合であっても適切に支援するものでなければならない」として、被災者の立場の如何に関わらず等しく支援・救済を図ろうとするものであり、原発事故被災者の適切な救済に当たっての第一歩として評価できる。法律制定に関わったすべての方々の献身的努力に敬意を表したい。
ヒューマンライツ・ナウは、4月24日付で、本法案に対する意見書を公表しているが、目的条項において「国は、これまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っている」ことを明記した点、福島第一原発事故による被害から子どもを保護するための具体的施策が法律に取り入れられた点など、ヒューマンライツ・ナウの見解が一定取り入れられた法律となっている。
2 ヒューマンライツ・ナウは、第8条の「支援対象地域」がどの範囲の地域かについて法律に明確にするよう求めてきたが、この点は法律には明記されなかった。
一般公衆の被ばく線量限界を年間1ミリシーベルトとするICRP基準を日本が取り入れてきたこと、チェルノブイリ事故後には、自然放射線を除く年間被ばく量が1ミリシーベルトを超える地域の住民に「避難の権利」が認められたことなどに照らし、政府の責務として、少なくとも自然放射線を除く年間1ミリシーベルト以上の地域はすべて支援対象地域とされるべきである。[1]
現行の「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」(被爆者援護法)および原爆症認定基準は、放射線起因性の判断基準のひとつとして、被曝地点が爆心地より3.5キロメートルという基準を採用しており、[2] 厚労省によれば、その基準は、一般公衆の線量限界が年間1ミリシーベルトであることに基づいているという。[3] こうした現行法に鑑みれば、今回の法律について別異の取り扱いをする正当な理由はなく、被爆者援護法と同じ基準が「一定基準」として採用されなければならない。
よって、本法律の実施に当たり、第8条の「支援対象地域」として、少なくとも、自然放射線を除く年間被ばく量が1ミリシーベルトを超える地域を対象とするよう政府に改めて要請する。
3 この法律は、被害者支援の基本法的な位置付けのものであり、支援の内容は具体的に記載されていない。その具体化が今後問われている。
原発事故周辺地域では、未だに健康被害を過小評価し、避難に対する支援も医療・健康診断も十分とは到底言えない深刻な事態が継続しており、法律の実施は急務である。
ヒューマンライツ・ナウは政府に対し、被害住民の声を適切に反映させて、法律を速やかに具体化していくことを強く要請する。
特に、以下の施策が支援対象地域における施策として実施されるよう要請する。
1 全住民に対し、内部被ばく検査、甲状腺検査、血液検査を含む生涯にわたる定期的な被ばくの影響に関する検査・健康診断を無料で実施すること
2 妊婦に対する妊娠中の健康診断・被ばくの影響に関する検査を無料で実施すること
3 全住民に対し、放射線被ばくとの関連が疑われる疾患すべてに関する医療費を無料とする立法措置をとること
4 1ないし3に関する診断・症状・治療経過について記録を適切に保管・分析するとともに、本人・保護者に速やかに開示すること
5 国の財政支出により、全ての小中学校の給食センター、給食調理室に食品放射線測定器を設置し、毎日の給食について検査を行うよう確保すること
6 全住民に対し、長期間にわたる汚染されていない地域への保養の機会を公費により生涯にわたり毎年提供すること
同時に、支援対象地域から避難・移住を望む人々が現実に住居、就業支援等、必要かつ十分な支援を実効的に保障されるように、支援策と支援体制を速やかに確立するとともに、支援に対するアクセスを確保するために、本法律によって確立された住民に対する避難支援措置を積極的に告知する措置を講ずるよう求める。
以 上
[1] ヒューマンライツ・ナウは、2011年8月17日付意見書において、国と東京電力に対し、国際基準およびチェルノブイリ事故の先例に照らし、「少なくとも自然放射線を除く年間被ばく量が1ミリシーベルトを超える」地域の住民・避難者すべての保護を提言してきた。http://hrn.or.jp/activity2/20110817houshasenn.pdf
[2]
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/genbaku09/08.html
[3]
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/genbaku09/15e.html