【要請書】被災者の住居の権利と十分な生活支援のために

ヒューマンライツ・ナウでは、東日本大震災に関して、要請書【被災者の住居の権利と十分な生活支援のために】を発表いたしました。

要請書  HRN 居住権.pdf

 

要請書【被災者の住居の権利と十分な生活支援のために】

2011年5月10日
ヒューマンライツ・ナウ震災プロジェクト
~避難者への法律相談を通じての声・ニーズ調査の結果に基づく提言です~

1 仮設住宅の促進
東日本大震災から約二か月がたつ今日、長期にわたる避難生活により人々の疲労は深刻化しています。プライバシーのない集団生活によるストレスで健康を害し、精神的な苦痛を抱える人々は増えているのが現状です。すみやかに、被災者の方々に対し、仮設住宅などの住居で居住する権利を確保する必要があります。
ところが、5月9日の国土交通省住宅局の発表によれば、震災から一か月以上が経過した現在、建設が完了した仮設住宅は6,982戸、着工中のものを含めても29,244戸に過ぎないとされています(http://www.mlit.go.jp/common/000140307.pdf)。
これでは、数十万人に及ぶ避難中の被災者の希望に到底応えることはできません。
災害救助法上も、国際人権法上も、被災者に対する居住権の確保の責任は第一に国にあります。私たちは、国に対し、
●希望する全ての被災者がすみやかに仮設住宅に移行できるよう、すべての必要な措置を取ること、
●仮設住宅建設の遅れの原因を明らかにし、その障害を取り除くことを求めます。
また、国・県に対し、
●自治体自体が被災の影響を強く受け、災害救助・仮設住宅建設のために求められるニーズに十分に応えられないという現実を踏まえ、被災の影響を受けて仮設住宅建設が進まない自治体に人員を応援派遣して体制を抜本的に拡充するなど、居住権確保のための実効的な対策を講じるよう求めます。

2 民間住宅の利用の促進
上記のような実情のもと、国は、県・市町村が、民間賃貸住宅を借り上げて提供した場合や被災以降に被災者名義で契約した場合も、災害救助法の適用となって同法の国庫負担が行われる、と被災三県に通知を出しています(4月30日付「厚労省通知110430:応急仮設住宅としての民間賃貸住宅の借上げの取扱いについて」など)。
こうした国の通知を受けて、被災三県では一定の範囲で、被災者が自力でみつけた民間住宅について、仮設住宅同等と認定すれば、2年間仮設住宅と同様家賃補助ができる仕組みがつくられたと報道されています。 こうした措置を多くの被災者が利用することが期待されますが、現実には、市町村における被災者への広報が行き届いていません。多くの被災者が、確定的な情報や申請方法がわからず、利用できずにいます。
私たちは、被災各県に対し、災害救助法に基づき、
●すべての被災者に対して、民間住宅入居の際の家賃・敷金・礼金補助を認めること
●民間住宅入居の家賃補助についての広報をすべての被災者に届くよう徹底すること
●この支援を受けるため、被災者にわかりやすく明確な手続きを整備すること
●民間住宅借り上げを積極的に活用し、住居を必要とするすべての被災者の要望に速やかに応えること
を求め、また、国に対し、徹底されていない上記通達の周知徹底をはかることを求めます。

3 遠隔地避難者への支援
被災者の中には、居住地から遠く離れた宿泊施設に滞在している被災者も少なくありません。しかし、こうした宿泊施設に滞在する被災者は、コミュニティから孤立させられたうえ、食料以外の支援物資、医療等のサービスを受けられず、さらに支援制度などに関する情報提供もなされない状況に置かれています。特に高齢者、障がい者の方々が住み慣れたコミュニティから切り離され、孤立して支援を得られない事態に置かれることは極めて深刻です。こうした被災者に対し、医療サービスその他、災害救助法上の支援が十分に届くこと、情報提供が十分になされることは極めて重要です。
私たちは、国、県、市町村に対し、以下の対応を求めます。
●居住地から離れた宿泊施設に居住する被災者への物資・医療等の災害救助法上の必要な支援および被災者支援情報などのあらゆる適切な情報提供を行うこと

4 仮設住宅移転後の災害救助
今後、仮設住宅に移行する人々に対しても、住み慣れたコミュニティから切り離され、孤立して十分な支援も情報提供も受けられないという事態は避けなければなりません。
避難所では「仮設住宅に移りたいけれど、食べるものにも困るので、避難所にいるしかない」という声や仮設住宅申し込みへの不安が聞かれます。
私たちは、仮設住宅建設と移行にあたって、国と自治体に対し、以下のことを求めます。
●できる限り被災者の元のコミュニティを尊重したかたちでの入居を促進すること
●仮設住宅に入居した被災者に対しても災害救助法上の衣食、医療支援等の支援を継続するよう、通達を出すこと
●行政サービス、支援制度へのアクセスと情報提供、医療ケアをはじめとするサービスが行き届く環境を十分に提供できる体制を確立すること

5  避難所の立ち退きは最後の手段とすること
避難生活が長期化する中、避難所の閉鎖を宣告され、退去を求められている被災者は少なくありません。被災者が避難所を転々とすることは、心身の安定を阻害するものであり、最後の手段とされるべきです。避難所の閉鎖が真にやむを得ない場合であること、被災者に対し、事前に十分な時間と協議の機会を保障するとともに、次に移動できる安定的な居住場所を確保することが必要不可欠です。そうした保障のない、一方的な退去は、国際人権条約(社会権規約)に保障された「居住権」を侵害するものです。
私たちは各自治体に対して、避難者の立ち退きは極力避けること、そのために施設の本来の利用目的については代替手段を取るなどの調整を図ること、子どもの教育を受ける権利については別の施設を活用するなどして補償することを求めます。

6 災害救助法の徹底・義捐金の早期給付
避難生活が二か月に及ぶなか、避難所の住環境や食糧・物資の供給について避難所、避難所・自治体の対応によって著しい格差が生まれています。例えば私たちが1都3県11か所の避難所をモニタリングした結果、以下のことが判明しています。

・ 食糧供給に関する自治体の対応に格差が著しく、十分な栄養が保障されていない避難所・自治体があり、今後炊き出しが減少すれば深刻な事態となりかねないこと。

・ 宿泊施設仕様の個室に居住する避難所がある一方、教室や文化施設にふとんのスペースしかない避難所、さらには室内でなく廊下などにパーテーションもないまま寝起きする避難所もあり、格差が著しい状況があること。

被災者に等しく、憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」そして社会権規約上の食糧、健康、居住に関する権利を保障することは国の責務です。避難生活が長期化する中、被災者間のこうした著しい格差と権利が保障されない状況は一刻も早く解消されることが求められます。
私たちは、国・県に対して以下の対応を求めます。

●避難所の実情を調査して避難所ごとの災害救助法適用状況をモニタリングし、
●必要に応じて基礎自治体に対する応援・支援を行って格差を解消して必要な措置を講じ
被災者の食糧、健康、居住に関する権利を適切に保障すること
●単に通達を出すだけでなく、通達の実施状況を確認し、実施を確保する措置をとること
また、相続手続が難航するなど現金引き出しが困難かつ、仕事の見通しが立たない中、現金給付がいつまでもないことは被災者の生活と自立を著しく困難にしています。

私たちは国、県等、関係するすべての機関に、以下の対応を求めます。

●災害救助法上の現金給付を積極的に行うこと
●義捐金支給の著しい遅延について抜本的な見直しを行い、一日も早く被災者の手に届くように必

要なすべての対策を講じること 

 

特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウ  東京都台東区東上野1-20-6 丸幸ビル3F  

ヒューマンライツ・ナウの提言は、http://hrn.or.jp/activity2/shinsai_02.pdfもご参照ください。