2010年7月26日、カンボジア特別法廷(ECCC)は、第1号事件(Case 001)の判決を言い渡ました。トゥールスレン(Tuol Sleng)収容所の元所長で、人道に対する罪などに問われたカン・ケク・イウ(Kaing Guek Eav、通称Duch)被告(当時67歳)に対し、禁固35年(ただし違法拘置による5年の減刑と、未決算入あり)の有罪判決を命じました。
HRNは、同特別法廷では、 平和構築のプロセスにあるカンボジアでの国民和解という観点からも、被害者参加が重要であること、そして補償措置制度を含む被害者参加のあり方について、具体的な提言を重ねてきました。
そして、特別法廷は、実際に、被害者が「民事当事者(Civil Party)」として参加することを認め、集合的・精神的な補償措置(collective and moral reparation)の請求も可能とする制度を採用していました。
これを受けて、2010年7月の第1号事件の第一審判決でも、同特別法廷は、一定の補償措置を命じました。しかしながら、その内容は、(i) 被告人が公判手続中に謝罪し、責任を認めた陳述を集約して判決確定後に法廷のウェブサイトに掲載すること、(ii) 手続に参加した民事当事者について被告人の犯罪により被害を受けたことを確認・宣言すること、の2点に留まり、きわめて限定的なものでした。
こうした判決の「補償措置」に関する問題点について、法的に分析した上、関係者の参考にしてもらうため、HRNは意見書を作成いたしました。
HRN Memo on ECCC Case 001 Reparation 012111.pdf
カンボジア特別法廷第1号事件(ケース1)の補償措置に関する控訴についての法的検討と提言.pdf
HRNは、すでに2010年8月13日の声明で、「ヒューマンライツ・ナウは、同法廷の規則の下で、この補償措置が事件の被害に照らして十分であるか否かについて、上訴審で十分な検討がなされること、今後の事件においてもその事件の特徴に基づいた新たな補償措置が命じられることを希望する。」 「ヒューマンライツ・ナウは、国際社会に対し、本法廷が道を開いた人権侵害の被害者に対する非金銭的・集団的補償措置が、より具体的な形で実現されるよう支援することを強く求める。」と述べていました。
今回の意見書は、第一審判決の法的問題点を具体的に指摘し、改めて補償措置の問題について検討する必要性を明らかにするものです。
なお、特別法廷では、第2事件のために、内部規則が段階的に改正され、外部資金の活用が可能になるなど補償措置の実現のためにより広い方策が認められるようになっていますが、第1事件の上訴審における補償措置の判断は、第1事件の被害者のためにも、また、国際的な重大人権侵害の補償措置の事例としても、注目を集めている重要なものであり、HRNは引き続きその動きを注視していきます。