【見解】「難民の第三国定住実施にあたっての見解」

 

ヒューマンライツ・ナウは、このたび、昨年12月に閣議了解された難民の第三国定住に関するパイロット・プロジェクト実施」について、見解を発表しました。以下にご紹介いたします。

          難民の第三国定住実施にあたっての見解
                             2009年2月3日

                             特定非営利活動法人 ヒューマンライツ・ナウ

1 第三国定住をひろく導入、定着を
日本政府は、2008年12月16日、第三国定住による難民受入れに関するパイロット・ケースの実施を閣議了解した。その内容は、タイ国メーラ難民キャ
ンプ内におけるビルマ難民を、2010年度より、年に1回のペースで、1回につき約30人(家族単位)を3年連続して受け入れ、3年間で合計約90人を
パイロット・ケースとして受け入れる、というものである。閣議了解は、「第三国定住による難民の受入れは、難民の自発的帰還及び第一次庇護国への定住と
並ぶ難民問題の恒久的解決策の一つとして位置付けられており、難民問題に関する負担を国際社会において適正に分担するという観点からも重視されている。
このような国際的動向を踏まえつつ、我が国においても、アジア地域で発生している難民に関する諸問題に対処するため」としている。
国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(以下、HRNとする)は日本政府に難民の第三国定住を実現するよう求めてきた立場から、この閣議了解を日本にお
ける第三国定住のための最初の第一歩として歓迎する。
紛争、人道危機が後を絶たない現在、難民の受け入れは、人権を尊重すべき国として最初に行うべき国際貢献である。アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリ
ア、ノルウェー、スゥエーデン、二ュ―ジーランド、フィンランド、デンマーク、オランダ、スイスなどの伝統的受け入れ国と並んで、近年では、アルゼンチ
ン、ブラジル、チリ、アイスランド、アイルランド、スペイン、イギリスなどが第三国定住の受け入れ国となっている。
今回、パイロット・ケースとはいえ、受け入れ人数は極めて少ないものであり、現在世界が直面する課題に応える数字とは到底いえない。このパイロット・
ケースを成功させ、3年後にはこれを抜本的に拡大し、ビルマに限らず、世界中で迫害を受けた人々を広く受け入れるべきである。

2  難民の選定について-最も危機に瀕した人々の保護を
日本政府の閣議了解は、受け入れる難民について、
①     国連難民高等弁務官事務所(以下、「UNHCR」という。)が国際的な保護の必要な者と認め、我が国に対してその保護を推薦する者、
②日本社会への適応能力がある者であって、生活を営むに足りる職に就くことが見込まれるもの及びその配偶者又は子であるとし、具体的な選考は、
UNHCRから候補者リストの提供を受け、書類選考・面接調査により、約30人を決定するとしている。
  難民条約が、もっとも人権侵害の危機に瀕している人々を保護するという目的に立脚していることに照らして、HRNは、日本政府に対し、難民の選別基
準をもっとも弱く、もっとも危機に瀕した人々を助けるという理念に基づいて行うことを求める。
すなわち、政府はまずUNHCRが緊急を要すると判断した人々を優先させるべきである。そして次に、政府はUNHCRが第三国定住の切迫した必要を認め
ると判断した人々、特に法的または身体的保護を要する人、危機に晒されている女性、親から引き離された子ども、そして暴力や拷問の被害者などを優先させ
るべきである(UNHCR Resettlement Handbook Department of International
Protection (Revised), November 2004, p. IV-3 (63); UNHCR The
Heightened Risk Identification Tool User Guide, June 2008, p. 3)。
最も危機的な状況にある人々を優先するような運営をするために、HRNは日本が難民申請者の面接においてUNCHRのHeightened Risk
Identification Tool

(http://www.unhcr.org/cgi-bin/texis/vtx/refworld/rwmain?page=search&docid=46f7c0cd2を参照)を用いることを提言する
  すなわち、日本政府は、UNHCRの要請を原則として尊重すべきであり、日本への適用能力の審査にいたずらに拘泥し、最も保護されるべき人々の受け
入れを拒否するようなことがあってはならない。
そして、差別なく人権を保護するという1951年条約の目的に合致すべく、日本は病歴による差別なく難民を受け入れるべきである。
 また、将来的には、難民条約の範囲を超え、国内避難民(IDP)に対する保護に門戸を開くよう要請する。

3  除外事由について
閣議決定は、 「上陸拒否事由該当者のほか、テロリスト等我が国の治安維持上好ましくない者」を除外者とする。
この点、HRNは、実施において除外の理由として認められるのは、難民の地位に関する難民条約第1条F項(a)から(c)の該当事由に限るべきであると
考える。即ち、
(a)平和に対する犯罪、戦争犯罪及び人道に対する犯罪に関して規定する国際文書の定めるこれらの犯罪を行ったこと。
(b)難民として避難国に入国することが許可される前に避難国の外で重大な犯罪(政治犯罪を除く)を行ったこと。
(c)国際連合の目的及び原則に反する行為を行ったこと。
という、難民条約が定める除外事由に限定し、これ以外の場合排除を行うべきでない。
 この点、日本政府が指摘する除外対象である「テロリスト」が問題となる。「テロリスト」概念は近年の「テロとの戦い」のなかで各国政府によって濫用的
に拡大解釈され、多くの人権・人道上の問題を引き起こしてきたことに鑑みれば、国際人権法上と法の支配の観点から厳密な解釈によるべきである。国連人権
理事会・テロと人権に関する特別報告者マーティン・シャイニン氏が2006年に定立した三つの要件
(1) 故意による殺人、傷害、人質にとる行為を行い、
(2) 国家を挑発し、人々を威嚇し、または政府ないし国際機関に行為を強要したり、やめさせることを目的とし、
(3) テロに関する国際条約と議定書に定められた犯罪を犯した、
の全てを満たす者に限られるべきである(E/CN.4/2006/98, December 28, 2005)。
そして、単なる資金提供や、違法拘束命令下の行為者や庇護者、テロリスト行為に巻き込まれた者は「テロリスト」から厳密に区別されなければならない。
また、犯罪歴について、政治犯罪を犯罪歴から除外すべきは当然であるが、さらに抑圧国家の権限濫用による冤罪の危険性に配慮することが相当である。

4 再定住政策について
日本政府は、受け入れた難民が日本社会において、差別なく、尊厳を持って自立的に生活できるよう、受け入れ態勢を整備すべきである。
  政府は、インドシナ難民、中国残留日本人孤児として受け入れた人々が未だ差別のなかで困難な生活を強いられていることの反省にたち、その教訓を踏ま
え、適切な言語、職業訓練・職業紹介、住居、教育、ヘルスケア等の充実した受け入れ体制を確立すべきである。綿密な政策設計と実行、ならびに平等と非差
別の理念に対する社会的コンセンサスの醸成も不可欠である。
  定住地の選択にあたっては、受け入れた難民の自由意思を尊重し、希望する職業を考慮して決定すべきである。

5 条約難民に対する受け入れ政策の転換を
第三国定住の受け入れ、保護と並んで、条約難民の地位を抜本的に見直すことも迫られている。条約難民に対しては、長期の審査手続中在留資格もなく、就業
や医療へのアクセスに多大な困難を余儀なくされ、認定された後も職業紹介などの何らのケアも存在しない。条約難民と再定住者の間に格差をつくるべきでな
く、条約難民にも再定住者と同等の受け入れサービスを提供すべきである。そして、これを機に条約難民の認定基準を抜本的に改めるべきである。

6 開かれた難民受け入れに関する政策審議の場の確立を
今後の具体的な難民受け入れ政策の策定にあたっては、受け入れ団体となる民間団体、自治体等との連携が欠かせない。
また、今後の第三国定住政策の本格的実施にあたり、広く国民的な開かれた議論により政策を決定していくことが期待される。政府は、難民対策連絡調整会議
(平成14年8月7日付け閣議了解)という極めて閉ざされた範囲で難民受け入れ政策の協議・策定を行っているが、難民の受け入れが広く21世紀の我が国
のあり方に関わる重要問題であることに鑑みれば、広く透明性のある国民的議論がなされるべきである。
HRNは、政府に対し、広く市民社会、国際機関、サービス提供者となる自治体、NGOも参加した、難民受け入れ政策に関する政策審議の場を早急に確立す
ることを求める。
                                           以  上

※     2に引用した文献
The Heightened Risk Identification Tool (and User Guide)
Un High Commissioner for Refugees, June 2008
は、以下を参照。
http://www.unhcr.org/cgi-bin/texis/vtx/refworld/rwmain?page=search&docid=46f7c0cd2