ヒューマンライツ・ナウは、1月18日、通常国会開会にあたり、人権関連法案成立および人権条約選択議定書の批准の今国会での実現を求めて、要請書を提出しました。
内閣総理大臣 鳩山由紀夫 殿
法務大臣 千葉景子 殿
外務大臣 岡田克也 殿
男女共同参画担当大臣 福島瑞穂 殿
通常国会開会にあたっての要請書
特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウ
特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウは、1月18日、通常国会開会にあたり、人権関連法案成立および人権条約選択議定書の批准の今国会での実現を求めて、以下のとおり要請します。
要請の趣旨
1 自由権規約の第一選択議定書をはじめ、国際人権諸条約の個人通報を実現するための選択議定書の批准を今通常国会に求めること
2 取調べの全面可視化・証拠開示に関する法律を今国会に上程すること
3 女性差別・婚外子差別を是正するための民法改正を今国会に上程すること
4 国内人権機関の設置について、市民社会の声を反映させた、パリ原則に基づく法案の検討を進めること
要請の理由
「取調べの可視化により冤罪を防止する」、「人権条約選択議定書を批准する」、「内閣府の外局として人権侵害救済機関を創設する」などの公約を掲げた民主党を中心とする政権が発足してから、3か月以上が経過しました。千葉法務大臣は、就任会見において、「マニフェストで約束したことを早急に取り組んでいくのがまず最優先課題」として、「人権侵害救済機関の設置」、「個人通報制度を含めた選択議定書の批准」、「取り調べの可視化」に取り組む意向を示しています。私たち市民社会は、この公約と大臣の所信表明が言葉通り速やかに実現されるかを注意深く見守っています。これらはいずれも社会で最も脆弱な立場にある人々の救済や人権侵害の防止のために必要な、長らく待たれていた重要な改革ばかりであり、今国会で是非実現をされるよう求めます。
1 個人通報制度実現のための自由権規約第一選択議定書等の批准の今国会での承認を
個人通報制度の受託により、日本の人権状況の個々の事案について国際人権条約の観点からレビューされる道を開くことは、国際水準と日本の人権状況のギャップを解消し、日本の人権状況を抜本的に改善するために極めて重要です。長年、省庁は個人通報制度について「研究」を国民から閉ざされた場で行い、一向に前進しておらず、連立政権にはこうした現状を変える政治的意思とイニシアティブが期待されます。
今国会において、少なくとも、自由権規約の第一選択議定書の批准承認を提案し、自由権に関する包括的な条約である同規約への個人通報の道を開くよう要請します。
2 取調べの全面可視化と証拠開示に関する法律の今国会における成立を
足利事件、布川事件、そして志布志、氷見事件など、相次いでえん罪が発覚し、そのなかで、密室での取調による人権侵害と自白強要、捜査機関による証拠隠しが問題となっています。
こうした刑事司法の問題が改革されなければ、今後も深刻な冤罪が再発する危険があり、改革は喫緊の課題です。これらはいずれも自由権規約委員会の日本に対する審査でも勧告を受けている改革課題です。
連立政権の中心である民主党はすでに、取調べの全面可視化と検察官手持ち証拠のリスト開示を義務付ける法案を提出し、2009年の通常国会では参議院を通過しており、政権与党になった今、この改革を実現する障害は何らないはずです。捜査手法の改革とセットで取調べの可視化等の改革を進めるとの議論がありますが、人権侵害と冤罪の防止に関わる議論を、未だ何ら具体化されていない捜査手法改革の具体化まで先延ばしにすることは許されません。 取調べの全面可視化と、検察官手持ち証拠のリストの証拠開示を義務付ける法案を今通常国会に提出することを求めます。
3 女性・婚外子差別を解消する民法改正の今国会での実現を
1996年2月26日、法務大臣の諮問機関である法制審議会は、選択的夫婦別氏、再婚禁止期間の短縮、婚外子の相続差別撤廃などを盛り込んだ「民法の一部を改正する法律案要綱」を答申しましたが、13年経過した現在に至るまで何らの改正も実現していません。
女性のみの再婚禁止期間、婚姻年齢の差は明らかな女性差別であり、また、夫婦別氏を認めない現行法制は女性差別撤廃条約16条に違反しており、相続差別における婚外子差別とともに人権理事会、自由権規約委員会、女性差別撤廃委員会から繰り返し改善を勧告されています。日本政府は、国連人権理事会第8会期に開催された国連人権理事会UPRフォローアップ審査において、「女性に対する法律上のすべての差別をなくす」との勧告を受諾しており国際公約を守る責務があります。また、2009年夏、女性差別撤廃委員会から上記の差別撤廃を再び勧告され、2年以内のフォローアップを求められています。そこで、選択的夫婦別氏、再婚禁止期間の短縮、婚姻年齢の18歳への引き上げ、婚外子の相続差別撤廃を含む民法改正を今国会に上程するよう求めます。
4 パリ原則に基づく国内人権機関の設置について
1993年12月20日に採択された国連総会決議は、政府から独立した人権擁護機関の設置のための原則を示し(パリ原則)、これに沿った人権機関の設置を各国に求めています。千葉大臣は内閣府の外局として、人権侵害救済機関を設置する、としていますが、政策提言機能、法律に関する勧告機能なども含め、パリ原則に合致した国内人権機関とするために、十分な検討が必要です。国内人権機関の設置に関し、市民社会に対して開かれた議論を実施するとともに、パリ原則に基づく国内人権機関の権限について十分に検討したうえで、法案作成の具体的スケジュールを確定し、すみやかな準備を行うよう求めます。
5 まとめ
私たちは連立政権がこれまで表明した政策を誠実に実現し、人権保障に関する大きな政策転換と改善を実現することを期待します。そのために、今こそ、各大臣、各省の政治的意思とイニシアティブの発揮が必要です。とりわけ、要請の趣旨の1-3に記載した改革については、すでに十分な議論が尽くされ、今すぐに実現できる課題であり、通常国会で必ず成果を出されるよう、要請するものです。