【イベント報告】8月26日(日)中高生夏休み人権セミナー『わたしたちの身近にもある「貧困」問題』

 

日本はみんなが豊かに暮らせる国で、貧困問題とは無縁だと思っている方も多いと思います。しかし、日本でも実に3000万人近くが貧困状態にあるということをご存知でしょうか?家計が苦しいために夢を諦めざるを得ない、結婚して子供を産むことにも不安を感じてしまう、人間らしい当たり前の暮らしが難しい、そのような状態で苦しんでいる方々が日本にも多くいます。そして、日本の将来を担う子供たちも貧困で苦しんでいます。

貧困の現状を知り、それを変える力になって欲しいという願いから、ヒューマンライツ・ナウは貧困問題に尽力されている、ソーシャルワーカーでNPO法人ほっとプラス代表理事の藤田孝典氏をゲストに迎え、中高生向けセミナーを8月26日に開催致しました。後半には中高生も交えた討論が行われ、中高生らしい率直で鋭い意見が投げかけられました。

 

 

【基調講演:藤田孝典氏】

 

― 貧困は個人の責任ではない! ―

貧困問題に取り組んできた藤田氏は、「貧困は社会の構造的な問題だ!」と繰り返し強調します。

「日本で貧困に苦しんでいる人たちは3000万人近くもいます。この状況を個人の問題であるとしては説明できません。高度成長期の時代は、日本の貧困も珍しかったが、ここまできてしまったら、貧困を社会の構造の問題として捉える必要があります」

日本の貧困率は15%、子供の貧困率も14%、単身世帯では男性の25%、女性の32%が貧困であり、母子家庭に至っては50%が貧困である。藤田氏は日本の貧困に関するデータを次々と示し、日本の貧困が先進国の中でいかに深刻であるかを語りました。

 

― 日本の社会福祉政策の課題 ―

日本の貧困問題の背景には社会福祉政策が大きく関係する、と藤田氏は主張します。教育や医療が無償である場合が多いヨーロッパ諸国と比較し、日本ではそれらの家庭からの支出が強いられます。

中でも、藤田氏は日本の住宅政策に苦言を呈しました。年収200万円以下の人は、収入の50%は家賃に消えてしまうといいます。ヨーロッパでは住宅手当が充実しているのに対して、日本には住宅支援政策が何もないのです。

 

― 貧困が生み出す負の連鎖 ―

社会の構造が生み出している貧困、そして今度はこれが社会全体にも悪影響を与えます。少子化や未婚率の増加の背景には、生活が苦しいために結婚や出産をするのにも不安を感じる人が多いのだといいます。少子化は高齢者の年金の減少にもつながり、高齢者の貧困にも拍車をかけます。

一方で、「困っている人を支援することは結果的に社会全体の存続につながります!」、と藤田氏は言います。少子化が改善している国は住宅支援が充実しているという例を挙げ、貧困問題の解決の重要性を強調されました。

 

 

【パネルディスカッション:藤田孝典氏×伊藤和子(ヒューマンライツ・ナウ事務局長)

 

パネルディスカッションでは、伊藤が相対的貧困(所得が全国の中央値の半分に満たないこと)に対する日本の理解のなさを取り上げます。確かに貧困のラインにいる人たちも、毎日食べるものがあり、学校に行き、友達と遊んだりもします。一方で、一見すると普通であることが、かえって貧困問題を見えにくくしてしまうと藤田氏は言います。

 

また、伊藤は、貧困に陥ると交流の範囲が狭くなってしまい、新しい情報や考えも得にくくなってしまうという関係性の貧困の問題を指摘します。これについて藤田氏は、当事者たちを集めたサロンを開き、生活保護の勉強会をしたり、ワーキングプアについて議論したりといった活動を挙げ、交流の場を持つ重要性を指摘しました。

 

日本とヨーロッパの社会保障政策の比較について聞かれると、藤田氏は、ヨーロッパは税金を平等に社会福祉に使うのに対し、日本は特に深刻な層にしか使われないと指摘します。日本では福祉がごく一部にしか行き渡らず、こぼれ落ちてしまう人が多いこと、納税をしても自分たちに返ってこないので、増税への反対が根強いことを問題として挙げました。

 

【パネルディスカッション:中高生×藤田氏×伊藤】

 

今度は中高生も加わって討論が行われました。中高生もセミナーで学んだことや自身の経験をもとに様々な質問を投げかけました。その一部をご紹介させていただきます。

 

中高生: 自分の祖父も年金の安さに困っています。若い人にできることはありませんか?

藤田氏: 今は高齢者と若者の間で反発や分断があると思います。しかし、高齢者の年金が減れば、結局は家族が負担することになります。世代間で協力していくことが必要だと思います。

 

中高生: 大学のオープンキャンパスに行って、学費の高さに疑問を持ちました。

藤田氏: ヨーロッパでは学費が無償である国が多く、これほど高いのは日本ぐらいです。また、昔の世代の学費は非常に安く、現状を知らない人もいるかもしれません。

中高生: 日本はなぜヨーロッパのような社会福祉政策をしないのですか?

藤田氏: 日本人は選挙が終わると議員に全て任せてしまうことが多いです。予算がどう使われるかを、ヨーロッパのようにしっかりと監視する必要があると思います。

 

中高生: 女性の貧困についても知りたいです。

藤田氏: 日本では男女差別が深刻です。また、母子家庭でも男性が養育費を払わないケースが8割で、これは子供の貧困にもつながります。

伊藤:  女性は結婚、出産を経ると仕事をやめざるを得ない、あるいは非正規社員として低賃金で働かなければならないケースも多いです。

 

 

 

【中高生からの発表】

 

最後に、参加者はグループに分かれて討論を行い、貧困をなくして実現したいこと、それに関するアイディア、自分たちに何ができるか、について発表を行いました。

「まずは学ぶ、知ることが大事だ」、「関心を持ち続けてチェックしていきたい」、「声を上げやすい社会を実現するために、自分でもしっかりと考えを持っていきたい」といった積極的な意見が中高生たちから多く挙がりました。

一人一人の問題意識が、声を上げやすい社会を作り、身近にあるのに見えにくい貧困問題を解決していく第一歩になると思います。議論や発表を通じて、自分の言葉で貧困問題を考えて頂けたら幸いです。