去る3月15日に、第62回国連女性の地位委員会に合わせてNY入りしたヒューマンライツ・ナウ事務局長の伊藤和子氏とジャーナリストの伊藤詩織氏をスピーカーとして迎え、NY市内の日系アメリカ人の会(Japanese American Association, JAA)で講演会が行われました。矢澤とみ子氏による進行とともに、アメリカ日系人会ビジネスウーマンの会代表の長谷川久美子氏の挨拶で始まりました。
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パート1
伊藤和子氏からは最初に、ヒューマンライツ・ナウ創立に込められた「世界中で人権侵害に苦しむ最も弱い立場の人たちに光を当てたい」という熱い想いと、現在に至るまでの様々な活動分野について話されました。女性であるがために、特定の階層や民族に属するために、世界中では理不尽な理由で人権が踏みにじられている人々がたくさんいるが、世の中の理不尽なことは人々の力で変えられる、というメッセージが、60年代のアメリカの公民権運動や人種差別廃止運動などを実例に挙げながら語られました。
今回のイベントのテーマのひとつである#MeToo運動に関しては、欧米のように運動が広がらない日本の現状について語られました。加害者でなくレイプ被害を受けた女性が責められる風潮のある日本社会の背景には、「女性が泥酔している=性行為への同意」と男性に見なされても仕方ない、などという間違った認識が定着していることにも触れました。また、現在の日本では、暴行や脅迫がないとレイプは成立しないこと、レイプに遭った女性が加害者を訴える司法システムが整っていないこと、といった現状も共有されました。
その他の現代日本の人権問題においては、モデルスカウトを装ったAV出演の強要、芸能事務所がアイドルに課すデート禁止などのルール、職場のパワハラなどを例に挙げ、特に女性が虐げられる社会の在り方に疑問を投げかけました。また、万が一被害に遭った場合は、会社の契約やルールより、憲法や国が批准している国際人権法などの方が上に位置付けられていることを忘れてはならない、という重要な点にも触れました。
パート2
日本の#MeToo運動の先駆者であり、『Black Box』という本も出版されている伊藤詩織氏には、自身のレイプ被害体験を通して見えてきた日本社会の現状、改善すべき点などを語って頂きました。2017年アメリカを皮切りに、性被害に遭った女性たちが被害を公けに語り始め、世界中に広まった#MeToo運動。けれど日本においては、運動が広がることを願って語り始めた女性、女性である前に人間として当然の権利を主張する人が、世間やマスコミからの心ないバッシングで苦しむ姿が浮き彫りになっています。それでも伊藤氏が、フラッシュバックや嫌がらせで苦しみながらも実名で体験談を語り続ける理由は、自分と同じ体験を誰にもしてほしくない、そのためには現状を変えなければいけない、という信念にほかならないことが会場全体に伝わりました。伊藤氏はまた、日本で女性が性犯罪にあった場合、まず警察に被害届を出す割合が欧米諸国と比べて驚くほど低いといいます。例え被害届を出しても、被害者救援のための法的・社会的サポートが欠如しているのみならず、被害者が過酷なプロセスを強いられる場面が多々あることは、これからの重要な改善ポイントであることを指摘しました。そして、露出度の多い挑発的な服装をするから性犯罪に遭うのだ、被害者が悪い、といった社会意識を根本的に変えていく重要性も語って頂きました。
パート3
在NYジャーナリストの津山恵子氏と、同じくNY在住でアメリカ企業勤務経験の豊富な渡辺裕子氏を交えてのディスカッション・パネルでは、職場のみならず社会全体における女性への人権侵害に共通する根本的な問題に迫りました。
渡辺氏は、伊藤詩織氏の著書『Black Box』は「いろいろ考えさせられた一冊。全ての女性、娘さんのいる男性に読んでほしい。」と前置きしてから、アメリカ企業勤務の経験を語って頂きました。「自分のことは自分で守る、自分の権利を主張する」が当たり前であり、職場でのセクハラ問題は会社のリスクと見なされているアメリカでは、人事部の仕組みに人権トレーニングが必ず盛り込まれており、人権侵害問題が起こった場合は24時間以内に被害者が何も訴えなければ、会社側の対応がなくても仕方ない、と見なされるのが通常です。その代わり、被害者が訴えたにも関わらずマネージャーや会社が対応しなかった場合は、会社の責任となります。その点ではアメリカは枠組みが整ってはいるものの、口をつぐむというケースもまだまだ多いのが現実であるとのこと。
一方、日本でも、少しずつ人事部や従業員への人権トレーニングが普及しつつあるが、方針が出来ても実施されているわけではない、と伊藤和子氏は言います。密室で行われるセクハラは証拠のない場合が多く、人事部も完全に信用できない状況では、セクハラ被害者は声を上げたら職場を追われる現実があり、例えセクハラで訴えても賠償金は150万円などと非常に低い、ということです。
また、日本の#MeToo運動が広まらない多くの理由のひとつに、ハリウッドなどと違って、芸能人自身が規則に縛られて運動に先頭に立つことができない、という点も挙げられました。声を上げた女性へのバッシングという社会風潮の背景について津山氏は、ソーシャルメディア上で匿名になると言いたいことをアグレッシブに言う日本人の性質も原因では、と指摘しました。それは言いかえれば日本が、匿名でないと言いたいことも言えない社会とも取れます。そんな社会で声を上げた人たちを守っていきたい、次世代の若者が委縮しないように応援してほしい、という伊藤和子氏のメッセージがありました。また、伊藤詩織氏も、「バッシングはいつかは終わると信じたい。ポジティブな応援の一言が励ましになる。」と将来への希望を語ってくれました。
終わりに
今回のイベントは、100名を超す参加者で会場は満員となり、活発なディスカッションで盛況的なイベントとなりました。パネリストの皆さま、JAA/JWB の皆さま、協力・参加して頂いた皆さま、取材をして頂いた報道関係の皆さまに厚くお礼申し上げます。
ニューヨーク日系人会
ニューヨーク日系人会ビジネスウーマンの会
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週刊ニューヨーク生活 (3/24/2018版)
https://www.nyseikatsu.com/ editions/671/html5/index.html
Women Nikkei Online
http://wol.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/011900049/032600106/
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kazushi Udagawa