【イベント報告】3月23日(金) ビジネスと人権セミナー「サプライチェーンと人身取引・技能実習生問題を考える~企業に求められるリスク管理と対応~」

近年、外国人技能実習生の日本における劣悪な労働条件、労働環境が問題となっています。東京五輪を前に、日本関連の産業における奴隷的労働等の問題が国際的に関心を集めてきている中、2018年3月23日、アンダーソン・毛利・友常法律事務所にて、外国人技能実習生問題弁護士連絡会と国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは共同で、ビジネスと人権に関するセミナーを行いました。

セミナーにおいては、過酷な環境に置かれ、声を上げることができない技能実習生の実情やその背後にある構造的な問題が指摘され、さらに、問題となっている企業だけではなく、サプライチェーンの中で取引のある企業も含めた問題解決の仕組みづくりが必要であるということが話題となりました。また、企業の評価の向上という観点からも、労働問題への企業の取り組みへの関心が強い欧米諸国の潮流が紹介され、日本においても問題意識の向上が不可欠であると痛感させられるものとなりました。

 

 

法規制を大きく下回る労働条件

 

外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表の指宿昭一氏は、まず、実習生の日本における現状を指摘します。ある事例においては、技能実習生は最低賃金を大きく下回る、月額65000円の賃金、残業代がわずか時給300円や400円という非常に低い水準である、ということでした。さらに、指宿氏は、「私に相談してくる実習生の中で、ちゃんと最低賃金をもらっていたら逆に驚く」と述べ、技能実習生の賃金水準がいかに低いかを指摘しました。

また、技能実習生へのインタビューが放映され、彼らに対する暴行、脅迫等が行われていること、労災補償が十分になされていないこと、強制帰国させられる脅威に常にさらされていること、事前の説明とは異なる条件の下で働かされたことなど、実習生制度の負の側面が次々に明らかになりました。

 

 

声を上げられない構造的原因

 

一方で指宿氏は、数々の違法行為が存在するにもかかわらず、労働基準監督署への申告が、全国で1年にわずか88件しかなかったことに言及し、声を上げられない実習生が生まれる構造的要因に対して問題提起を行います。

実習生はまず、多額の渡航前費用を支払う必要があり、そのために借金をしているというケースが多いといいます。なので、返済のために無理をしてでも日本で継続して働かなければならないという悪循環が生まれてしまいます。それに加え、日本企業が違法に違約金契約や保証金契約といった形で不当に実習生を拘束し、労基署や労働組合、弁護士等に訴えることを阻止しているという現状もあるといいます。

指宿氏は最後に、「現在の技能実習生制度は途上国の技術移転による国際貢献という虚偽の名目の下で行われている。むしろ外国人労働者の受け入れを正面から認めたうえで、きちんと法規制をして労働者の権利を保護すべきだ」と主張し、技能実習生制度の不備を強く批判しました。

 

不正を隠そうとする企業

 

 

問題の解決が難航する背景には、企業が巧妙に不正を隠そうとしていることもあります。岐阜一般労働組合代表の甄凱氏は、行政の調査をごまかすために偽の帳簿を作成する、声を上げようとする実習生に対しては、本人を隔離して追い詰め、任意の帰国を装って実質的には強制帰国をさせる、といった企業の手口に言及します。

さらに、労災補償についても、ビザが切れるのを待って帰国させ、対応を難しくさせていると指摘し、立場の弱い外国人労働者を利用する企業の姿を批判しました。

 

サプライチェーン上の責任

外国人技能実習生の現状が明らかになる一方で、この問題に対してより広く国際的に取り組んでいくためには、違法行為を行っている企業だけでなく、サプライチェーンの中でその企業と取引関係にある企業の法的、社会的責任についても明確化していく必要があります。

ヒューマンライツ・ナウの伊藤和子事務局長は、国連人権理事会のビジネスと人権に関する指導原則において、企業が、自身の活動だけでなく、サプライチェーン上においても人権を尊重する責任があるということが規定されていることに言及し、さらに、サプライチェーンの透明性への意識が欧米各国を中心に高まっていると指摘しました。

そのうえで、近年ではサプライチェーンに関する事項が企業のガイドラインにも規定されてくるなど、問題意識が日本においても徐々に改善してきてはいるものの、他国に比べてやはり低いことに言及し、「東京五輪に向けてこのような流れが、企業のイニシアチブで行われていってほしい」と期待を込めて述べました。

 

ESG投資の可能性

企業行動に影響を与える存在として、大口の投資を行う機関投資家の存在も重要となります。その中で、企業の財務情報だけでなく、環境(environment)、社会(social)、ガバナンス(governance)等への取り組みを考慮して投資を行うESG投資が注目されています。

日弁連でCSRと企業の内部統制に関わる高橋大祐氏は、サプライチェーン全体を通じた奴隷労働の排除の取り組み状況の開示を義務付けた英国現代奴隷法や、強制労働、児童労働製品について、税関で禁輸を可能にする米国貿易円滑化貿易執行法など、欧米諸国におけるサプライチェーン上も含めた労働問題への意識の高まりに言及し、企業の労働問題への取り組みは、企業の評価、価値にも影響すると指摘したうえで、問題意識の遅れている日本は逆に欧米の潮流から取り残されていく危険があると述べました。

さらに高橋氏は、世界での潮流を受けて日本においても、投資判断での企業価値を考慮する際に、労働問題等への取り組みが意識されるようになったと指摘し、ESG投資による企業行動の改善にも期待を示しました。

 

 

従来、企業の利益増加のために、労働者の権利はないがしろにされる傾向にありました。しかし、現在、法規制や企業の行動規範等によって、労働者の権利保護が逆に企業価値の向上につながることが意識され、また、サプライチェーンへの関心の高まりにより、大企業が末端部分における生産活動にも責任を負うという認識が高まっています。今回のセミナーでは、このような変化への言及もあり、根強く残る外国人労働者の人権問題の構造的要因を解決する、新たな国際的な潮流を感じられるものとなりました。