【イベント報告】2/8(木)院内集会「独裁化するカンボジアと日本外交」

現在、カンボジアでは、野党やNGO、メディア等への弾圧が深刻化し、民主主義や基本的人権に対する重大な危機にさらされています。それに伴い、これまで積極的な援助を進めて来た日本の外交も転換を迫られています。

これを受け、カンボジアの現状報告と日本政府への提言のため、2月8日、カンボジアの自由公正な選挙を求める有志の会、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ、認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウが共催する集会が衆議院第一会館にて行われました。

集会には、希望の党の源馬氏、日本共産党の井上氏をはじめ、NGO関係者、専門家などが多数参加しました。さらに、まさに廃刊に追い込まれ、弾圧を受けているカンボジア・デイリーのデボラ・クリッシャー・スティール氏も深刻な現状を訴えるなど、カンボジアにおける人権侵害の実体が浮かび上がりました。

 

 

 

〈カンボジアの現状 “Descent into Outright Dictatorship”〉

 

カンボジア市民フォーラムの熊岡路矢氏は、会場に一枚の写真を映し出しました。廃刊に追い込まれたカンボジア・デイリーの最後の記事です。

「この写真がカンボジアの現在を象徴する1枚です。カンボジア・デイリーの最後の新聞記事で、野党救国党党首のケム・ソカの逮捕を報道しているものです。最大野党の党首の逮捕、そして新聞メディアの閉鎖というカンボジアの独裁化、そして政府批判する者をどんどん潰していくことを象徴した写真です。」

 

カンボジア・デイリーのデボラ・クリッシャー・スティール氏は、同紙の生い立ちを語ったうえで、独立、中立のメディアが次々と弾圧されていく現状を訴えかけました。

「2017年の6月の地方選挙での与党の敗北以降、全てが崩壊へと向かいました。まず、税務署から身に覚えのない滞納税の督促が来ました。もちろん、我々は徴税を拒否し、税務代理事務所とも協力しましたが、彼らも政府を恐れて手を引きました。購読者からのキャンセルも続出しました。我々にはもう新聞を閉鎖するしかありませんでした。」

デボラ氏は、冒頭で熊岡氏も言及したカンボジア・デイリーの最後の記事について熱を込めて発言します。「私たちが廃刊したのと同じ日に、救国党党首のケム・ソカが逮捕されました。我々は遠慮なく、最後の新聞でこれを一面に載せました。タイトルは『慎み深さから、徹底した独裁へ(Descent into Outright Dictatorship)』。」

さらに、「残りニワトリを震えさせるために、数羽の鶏を殺す」というカンボジアのことわざを挙げて、逮捕、口座の凍結、情報規制といった、当局の容赦ない弾圧の実体を明らかにし、自身も根拠のない名誉棄損の疑い訴追されていることを明かしました。

 

 

 

ヒューマンライツ・ナウの伊藤は、NGOの登録制を挙げ、市民運動の原動力たるNGOの活動に政府の監視の網がかけられていることに懸念を示しました。さらに、伊藤は平和的なデモに対して残虐な暴力を振るう治安部隊の映像を放映します。中には、流血している武器を持たない市民の姿もあり、まさに人権を無視する当局を象徴するものでありました。

 

このような市民社会への弾圧は、社会の発展にとっても大きな打撃を与えます。高木基金の白井氏は、環境NGOの正当な活動の弾圧によって自然保護地域の環境破壊が深刻化していることを挙げ、メコン・ウォッチの木口由香氏は、市民社会の委縮によって、開発事業の負の側面が明るみに出なくなり、弱者たる住民の利益が見過ごされていると訴えました。

 

 

〈日本政府の態度への批判と提言〉

 

多くの発言者からは、現状では公正な選挙に期待ができないのであり、選挙支援を停止すべきだという声が上がりました。さらに、ODA大綱における基本的人権、自由、民主などを重視する建前と、人権侵害が頻発する現実との乖離への批判も集中しました。

土井氏も「日本の視野は短期的です。今までカンボジアの人権侵害を黙認してきたことで、中国に頼るカンボジアの体制ができたのです」と述べ、長期性を欠く日本外交を非難しました。

 

日本政府に対する批判が集中する中、元UNTAC人権担当官の佐藤安信氏は、支援の政策の問題を指摘しつつも、援助を止めるのは無責任だとして、慎重な見解を示しました。

佐藤氏は日本に対する以下の4つの提案を行います。(1)長期的視点で施策をし、中立的な専門家を長期で派遣する。(2)カンボジアのNGOと一緒に活動し、現地に入り込む。(3)日弁連とも連携し、法整備だけでなく、もっと実際の裁判実務にも関わる。(4)研究者も現地の状況をフィードバックする。

最後に佐藤氏は、迫害されて政府に転向したUNTAC時代のカンボジア人の部下を話題に挙げ、「皮肉なことですが、こうしなければ生き残れないという事情もあります。でも、政府の中の彼のような人が、時期を見て立ち上がってくれると信じています。そのためにも、彼らの希望を失わせてはなりません」と述べ、これからの支援の在り方が、カンボジアの未来を大きく左右すると訴えました。

 

 

集会は、デボラ氏をはじめ、現地に深く関わる発言者の詳細な報告が続き、厳粛な雰囲気の中で進みました。現地を知るNGOを代表して発言した米倉氏が声を詰まらせてカンボジアの状況の改善を訴える場面もあり、参加者も現実を身に浸みて感じる集会となりました。

 

文責: 佐々木智仁(ボランティア)