イベントアーカイブ
2025/11/6ロシアの人権団体「メモリアル」弁護士が語る―抑圧体制下の人権擁護者たち―
ロシアによるウクライナに対する全面侵攻開始から約4年が経過し、ロシア政府による反戦意見や政権に反対する意見の抑圧が苛烈さを極める中でも、国内外で人権擁護の活動を展開する人々が存在します。そのような活動を行う団体の1つである「メモリアル」は、1987年にソヴィエト政権による大粛清や政治弾圧の研究を目的として設立された非政府組織であるが、ロシア司法省によって「外国エージェント」に指定され、裁判所から清算・閉鎖を命じられました。
メモリアルには、ロシア各地のほか、ヨーロッパ諸国に関連組織の支部があり、支部ごとに活動の焦点は異なるものの、人権擁護、政治弾圧の犠牲者への追悼など、共通の関心事項を持っています。2022年10月には団体としてノーベル平和賞を受賞したことでも知られています。
2025年11月6日、ヒューマンライツナウは、メモリアル所属のジャルガル・ブダエフ弁護士及びマリア・ネモワ弁護士の2名を講師とした公開のオンライン学習会を開催しましたので、そこでの報告内容の概要を紹介します。
*************
(1)2012年ボロトナヤ広場事件以降の抑圧激化
従来も、人権活動家が活動を理由に被害者となった犯罪(例えば2007年のオレグ・オルロフ氏拉致事件、2009年のナタリヤ・エステミロワ氏殺害事件)は度々発生していたが、2012年5月6日に行われたモスクワ・ボロトナヤ広場での抗議集会が政府による抑圧激化のターニングポイントといえる。同日、数万人がプーチン大統領就任に際して街頭での抗議活動を行ったところ、警官隊による暴力的弾圧が行われ、650人以上が拘束、34人が刑事被告人として立件された。
この出来事を契機に、2012年、大規模デモの規制を強化する立法が行われ(注1)、高額の罰金刑や、繰り返し違反すれば最長5年の拘禁刑を科され得ることとなった。
また、同年、いわゆる「外国代理人」法が制定され、「外国からの支援または影響を受けつつ、法律で定められた活動を行う者」という曖昧な要件の下、行政に「外国代理人」と認定されたNGOなどは、財源・財務・人員などについて詳細な報告義務を課されることとなった。
また、ウェブサイトやソーシャルメディアでの発信を含め、公の場での発言・発信の際に自らが「外国代理人」であることを明言・明記しなければならなくなった。義務を履行しなかった場合には、高額の罰金や拘禁刑が科され得るほか、組織の解散措置が講じられることもある。また外国代理人には、行政機関での勤務や国からの助成金の受給、不動産・車両の売却による収入の受け取り等が禁止される。「メモリアル」はこの認定を受けた末、出版物に外国代理人であることの記載がない等として解散を命じられた。
2015年には、ロシアの安全保障に脅威を与える可能性のあるNGOを「好ましくない組織」に指定し、ロシアでの活動を刑事罰の制裁付で禁止できる立法がなされ(注2)、アムネスティ・インターナショナルなどが指定された。
(2)2022ウクライナ侵攻開始後の更なる抑圧激化
周知のとおり、2022年のウクライナ侵攻開始も、抑圧激化の大きな転換点となった。①ロシア軍の信用失墜行為及び②軍に関する偽情報の拡散行為が、厳しく処罰されることとなった。戦争、軍、または大統領に対する批判を含むあらゆる公の発言が行政罰や刑事罰の対象とされ、同法施行から最初の2年半で、1万件以上が信用失墜に関する違反記録が作成された。また2025年3月時点で①で171件、②で615件の刑事事件が立件されている。①に比して②の方が法定刑の上限は重いが、ある神父が説教中で「ロシアの兵士たちは地獄に行く」と述べたことが②の偽情報拡散罪として立件されるなど、その区別は曖昧である。メモリアルの共同代表であるオレグ・オルロフ氏は、雑誌記事でプーチン政権を「ファシズム的」と表現したかどで①(信用失墜罪)に問われて拘禁2年6月の判決を受けた。弁護士のドミトリー・タラントフ氏は、Facebook上に反戦的な投稿を行ったかどで②(偽情報拡散罪)に問われて拘禁7年の判決を受けた。
またロシア政府はウクライナ侵攻開始後、曖昧な定義をいいことに反テロリスト法・反過激主義法を濫用し、政権批判者への弾圧を強めた(注3)。裁判所の判断を経ることなく、個人・団体をテロリスト・過激主義者リストに登録でき、銀行口座の凍結などが可能となる。2025年現在18,000人以上が登録されている。同法に基づく処罰(テロ正当化、過激主義の正当化)には、終身刑を含む厳罰が規定されている。ロシア政府は同法を用いて、ウクライナの国章や国旗の掲載、ウクライナの歌やスローガンを公開したことを理由に、ウクライナ軍捕虜を終身刑に処すなどしている。また「LGBT市民運動」をひとからげに過激主義に指定し、虹のシンボルの使用を禁止するなどしている。著名な反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏(2024年獄死)が収監されるきっかけとなったのは、過激派組織創設の罪で拘禁19年の有罪判決を受けたことであった。
(3)抑圧体制下でも人権活動を継続
このような苛烈な抑圧下でも、弁護士を含む様々な人々が人権活動を継続している。活動内容は、刑事事件の弁護人としての活動、国際機関(国連の規約人権委員会や恣意的拘禁作業部会、並びに欧州事件裁判所など)への申立てと陳情、人権侵害事案の記録(ウクライナにおける戦争犯罪の記録も含む)、政治囚に対する支援(手紙の送付、面会、差し入れ、家族への財政的援助)、インターネット上や海外での啓発活動など多岐に及んでいる。
しかしながら、彼ら自身が、ロシア政府による行政処分や刑事訴追、財産凍結などによる弾圧のリスクを抱えている。国外に活動拠点を移しても、情報機関による監視や国内に残してきた家族や同僚への圧力にも怯えなければならない。母国に戻れず海外で活動を展開することは、すべからく大きな精神的負担を伴うし、中には家族・親族との意見対立が大きな負担となってのしかかる例もある。
加えて、効果的に活動を行う上での物的障害にも大きいものがある。国外に拠点を移したことで、ロシア政府機関のウェブサイトへのアクセス自体が制限されることがある。また反対に、ロシアではこうした人権団体のウェブサイトはブロックの対象になっており、ロシア市民への訴求自体自由ではない。さらに、テロや過激主義といった機微に触れる案件については、ロシアの個人から寄附を集めることは事実上不可能になってしまっている(寄付者が処罰されかねないため)。皮肉なことに、ロシアに対する経済制裁の影響もあって、国外からの資金調達も容易ではないし、ロシアの人権団体の職員が安全な国での避難生活や会議参加等を希望してもロシア国籍を理由にビザ取得が容易でない状況がある。
(4)ご支援を
このような容易ならざる状況にいるロシアの人権活動家たちの取組をぜひ支援して欲しい。まずは、ロシアでの抑圧に関する情報を、ソーシャルメディアや報道機関、地域のコミュニティなどを通じて共有して欲しい。
また、ロシアの政治犯に手紙を送ることは、政治犯を元気づけ、また刑務所当局からの虐待を抑止するために有効な支援である。東京でも定期的にワークショップが開催されているし、インターネット上でも手紙を送る手配が可能である。メモリアルへの日本円での寄附も受け付けている。
【政治犯に手紙を送る】
〇東京の「ロシアの政治犯に手紙を送る夕べ」
テレグラム: @lettersfromtokyo
インスタグラム: @pismaiztokyo
〇インターネット上のサービス
・PrisonMail(日本のクレジットカード利用可) https://prisonmail.online/

・ヴェストチカ(無料) https://vestochka.io/en
【メモリアルに寄付する】
〇donorbox(日本語) https://donorbox.org/support-hrdc-memorial
************
報告の概要は以上です。イベントにはメディア関係者等含む約100名にご参加いただき、充実した質疑応答が行われ、イベント後のアンケートでも好評をいただきました。
メモリアルは、ロシアの政治囚を支援する活動等を行うほか、今年3月には「プーチン後の100日」という提言書を発表し、プーチン体制崩壊後、いかにして公正な戦後処理を行い、ロシアを民主国家として再生させるかも構想しています。
そのような話も含めて、第2弾・第3弾の企画も行っていきたいと考えています。
(注1)ロシア上院がデモ罰金500倍の法案可決、抗議封じ込め狙う | ロイター
(注2)ロシア検察庁 北対協を「好ましくない組織」に指定(2025年4月8日掲載)|日テレNEWS NNN
(注3)ロシア連邦:反テロ法による政権批判への弾圧激化 : アムネスティ日本 AMNESTY





