2025年12月3日(水)、認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ 女性の権利プロジェクト・ユースチームは、オンラインウェビナー「ユース世代とデジタル性暴力 〜誰もが被害者にも加害者にもなりうる社会で〜」を開催しました。
SNSの普及や技術の進展によって、性暴力のかたちが大きく変化している現代において、若者の被害が急増しています。本ウェビナーでは、デジタル性暴力の最前線で支援活動に取り組む永守すみれさん(ひいらぎネット代表)を招き、被害の実態や課題、若年層を守るために社会がどう変わっていく必要があるのかについて学ぶとともに、ユース世代が自身の視点から課題を考える機会となりました。
■講演パート
永守さんはまず、デジタル性暴力が急速に深刻化している現状について解説されました。盗撮や画像・動画の無断拡散、いわゆる「晒し行為」、生成AIによる性的ディープフェイクなど、性暴力がオンライン上のさまざまな場面で生じていることを示されました。特に中高生を中心に若年層の被害が多く、スマートフォンの普及やSNSの匿名性が、加害の心理的ハードルを下げる要因となっていることが指摘されました。
被害の多くはTikTokやInstagramなど、若者にとって身近なSNSで発生しており、加害者がファンを装って信頼関係を築き、性的な行為や画像提供へ誘導する「グルーミング」も横行しています。また、大人が子どものふりをして接触することもあり、当事者が違和感に気づきにくい状況が生まれていることが紹介されました。深刻な拡散であれば比較的早期に発覚しますが、一見軽微に思える行為ほど見落とされ、取り返しのつかない状況に陥ることが少なくないと述べられました。
さらに、一度流出した画像や動画が「デジタルタトゥー」として長く残り、就職や人間関係に不利益を与えるなど、被害者の人生に深刻な影響を与えることが強調されました。決して「若気の至り」と片づけるべきではなく、被害者の尊厳を深く傷つける性暴力として正しい理解が必要であるとのメッセージが共有されました。
永守さんは、現行法には対応できる部分もある一方で、海外プラットフォームが関与する場合には実効性が乏しいなど、救済に限界があることを指摘されました。また、加害者支援や再発防止教育の重要性も挙げられ、「被害者も加害者も作らない社会」を目指す必要があると語られました。
講演の最後には、学校・家庭・地域・メディアが連携し、「性暴力を許さない」姿勢を社会全体で共有することが、子どもたちを守るための第一歩になるとまとめられました。
■Q&Aセッションパート
続くQ&Aでは、ユースチームメンバーからの質問に応じるかたちで、実際の課題について議論が深まりました。
若年層に多い加害行為として「晒し行為」が取り上げられ、永守さんは、それが実行のハードルの低さを背景に拡大している現状を指摘しました。軽い気持ちの行為であっても、被害者の尊厳を深く傷つける性暴力であるとの認識を、社会全体で広める必要性が示されました。
また、ひいらぎネットに寄せられる通報への対応として、内容に応じた警察や相談窓口への通報、被害者への連絡、削除支援、プラットフォーム側への働きかけなどが行われていることが紹介されました。法制度の範囲では救いきれない「グレーゾーン」こそ、丁寧な支援が欠かせないとの見解が共有されました。
法律に関する課題としては、拡散行為について刑事・民事で規制があるものの、実際には摘発が難しく、特に性的ディープフェイクは現行法下では削除対象とならない場合があり、法整備が急務であることが述べられました。さらに、被害者側に経済的負担が重くのしかかる現状も議論されました。
予防策としては、保護者が子どもがどのアプリを利用しているかを最低限把握することが、現実的かつ効果的な第一歩とされました。大人自身がインターネットやSNSの知識を学び続け、子どもが相談しやすい環境をつくることが、被害の早期発見に直結するという重要な視点が強調されました。
■安全な参加環境づくりについて
本イベントは、登壇したユース世代の安全とプライバシーを守るため、録画の一般公開を行わない形式で実施いたしました。安心して率直な意見交換ができる場を確保することも、若者の声を尊重し、理解を深めるための大切な取り組みであると考えています。
■おわりに
本イベントを通じて、デジタル空間における性暴力が、個人の努力だけでは防ぎきれない社会課題であることが示されました。若者の尊厳を守り、将来の可能性を損なわないためには、法制度、教育、支援の連携を強化し、継続的な取り組みを進めていくことが求められます。
永守さんとユースチームによる対話は、大人がスクラムを組んで性暴力を許さない社会をつくるための、力強い一歩となりました。
【登壇者プロフィール】
永守すみれ氏|ひいらぎネット代表
インターネット上の有害画像・動画の削除支援や、性被害型ディープフェイクの監視・情報発信に取り組む「ひいらぎネット」代表。SNSに広がる盗撮画像や偽造映像など、一般ユーザーが巻き込まれやすいトラブルから人々を守るため、日々のパトロールと削除要請を行っている。また、子どもや保護者、教育関係者に向けた啓発活動やリテラシー教育にも力を入れ、誰もが安心してインターネットを利用できる環境づくりを推進している。急速に情報が拡散する時代において、地域に根ざした支援活動を通じて、安全なデジタル社会の実現をめざしている。
【HRN女性の権利プロジェクト・ユースチームについて】
ヒューマンライツ・ナウの女性の権利プロジェクトのもとで活動するユースチーム。U30世代が中心となり、刑法性犯罪規定改正の「その後」を社会に定着させ、文化としての「性的同意」を広めるための活動を行っています。イベントやSNS発信を通じて、若い世代から社会に変化を広げることを目指しています。



