ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は4月2日(金) 19時より、ウェビナー「スポーツと機会の平等~タイトル9の理念をどう反映させるのか~」を開催致しました。
当イベントでは、ソウル五輪女子柔道銅メダリストで、筑波大学教授兼日本オリンピック委員会(JOC)理事の山口香氏をゲストスピーカーとしてお迎えし、教育機関とスポーツにおける男女の機会均等を定めた、アメリカ合衆国における連邦法の修正法であるタイトル9の理念をどのように日本に反映させるかについて検討しました。
まず冒頭に、HRNの雪田樹理理事が開会の挨拶を致しました。
次に、ゲストスピーカーの山口氏より、スポーツの機会と平等についての解説がありました。山口氏によれば、女性スポーツの歴史は差別と偏見への戦いだそうです。現在でも、男女の機会均等という理念が、スポーツの場において正しく理解されているかには疑念が残り、また、スポーツ界で意思決定の場にいる女性の数は少ないといいます。スポーツを普及させる意味でも、女性が意思決定に携わることが必要と仰いました。そして、スポーツのフェアプレーの精神とノーサイドの精神が、社会における他者理解、人々が共に進化していく社会に繋がる、と強調されました。
続いて、HRNの後藤弘子副理事長(以下後藤副理事長)より、当団体とウォルター・リートナー国際人権クリニックが共同で作成した報告書「日本の教育機関における男女平等の推進」と日本の学校におけるスポーツの機会、入試、そして教育機関におけるセクシュアル・ハラスメント(セクハラ)等の性暴力の分野に関する、タイトル9に基づいた勧告内容の説明がありました。
スポーツに関しては各教育機関に男女の機会均等の義務化、入学試験においては性別に基づいて学生の教育機会を奪うことを禁止する必要があると強調されました。また、各教育機関に対し性差別に対処するための専門機関の設置、実態調査、その調査結果公開の義務化などといった、被害者に対して適切に対応できる仕組みが必要だと訴えました。
続いてHRNの三浦まり理事(以下三浦理事)より、大学キャンパス等の教育機関における性暴力と男女平等についての報告がありました。現在、いくつかの大学ではキャンパス内でのハラスメント防止規定などが設けられている一方で、性暴力には十分な対策が講じられておらず、結果として特に女性が教育機会にアクセスしにくくなっているとご指摘されました。三浦理事は、大学キャンパスにおいても性犯罪への対策が少しずつ進む中で、タイトル9を参考に性別・性的志向・性自認を理由に学生の教育機会が奪われない環境を保障する責務を大学に負わせる法律が必要だと訴えました。
イベントの後半には、山口香氏と後藤副理事長、三浦理事によるパネルディスカッションが行われました。
スポーツ組織において女性役員の数を増やすため何が必要か、という点について山口氏は、組織において女性が経験値を上げながら段階的に役員になる流れと、実際に女性役員の数を一定数増やす取り組みとの両立が必要である、と仰いました。
スポーツの場面に「女性を混ぜてあげる」という考えについて山口氏は、どのようにすれば男女にスポーツの機会を平等に与えられるのかを問い直す観点が必要だと仰いました。例として、競技種目を男女に二分せず、男女共通のメダルをつくるといったことを挙げられました。三浦理事は、スポーツや政治の場面では男性前提にルールが作られているとし、新しいリーダーのモデルを考える必要性を訴えました。
閉会の挨拶で伊藤和子事務局長はタイトル9の重要性について改めて触れ、近年中に日本でその理念を実現することを目指し、社会全体として議論を押し進めていきたいと締め括りました。
参加者の皆様からは、
「タイトル9への理解が深まった」
「先進的な考え方に多く触れられて刺激になった」
「スポーツと社会とのかかわりや、ジェンダー平等にむけた課題についての理解が深まった」
「タイトル9は、今の日本の教育・スポーツ現場に必要な施策だと思いました」
など、多くの力強い感想をいただきました。
ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。
(文=松下真菜)