【イベント報告】3月26日(日)中学生・高校生 春休み人権セミナー 人権×多様性×リアルな現実をどう生きるか?

【イベント報告】3月26日(日)中学生・高校生 春休み人権セミナー
人権×多様性×リアルな現実をどう生きるか?

 
 ヒューマンライツ・ナウは2017年3月26日(日)、玉川聖学院にて「中学生・高校生向け 春休み人権セミナー 人権×多様性×リアルな現実をどう生きるか?」を開催しました。当日は小雨が降る寒さのなか、60名以上の参加者が集まりました。会場では、親子で参加したり、友達同士で来場している姿も見られました。

 最初にヒューマンライツ・ナウ(HRN)事務局長の伊藤和子氏より、「人権」は世界人権宣言や憲法など紙の上では保障されているものの、実際には私たち社会の構成員が行使しないと守ることができないため、世界や日本の出来事に常に関心をもって、人権侵害や不平等に対して声をあげていく勇気が必要だと説明しました。

 次に2015年9月に成立した安保法案反対の学生デモを繰り広げた奥田愛基氏から、国内の人権状況について話がありました。当時を振り返り、若者がデモをすることは国際的には珍しいことではないが、日本では珍しいことだったとのとでした。奥田氏は、キング牧師が合衆国憲法に謳われている正義と自由が黒人に与えられていないことをあげて、アフリカ系アメリカ人の公民権運動の指導者として闘ったことに触れ、「権利があるだけでは意味がない、行使されなければいけない」と訴えました。

 さらに、 日本ではジェンダーギャップ指数が先進国の中でも低いことや、国会議員のうち女性は約1割だけという現状に触れました。高校生や大学生などの若い世代間では男女の能力の差はあまり感じられないものの、ひとたび社会に出ると女性は、「女性」というだけで接待などの役を不平等に振られることも多く、周りも「しょうがない」とそれに迎合してしまう現状を説明し、上の世代が作ってきた社会を「間違っている」と声を出していく大切さを訴えました。更に、ハンナ・アーレントが述べた、上からの命令を忠実に従う者が思考を停止し、ホロコーストのような巨悪に加担してしまった例をあげて、自分の人権が侵害されないことは大事だが、知らないうちに加害者になっていることがあると警告を鳴らしました。日本では「空気を読む」という言葉が流行りましたが、その空気を誰が作り出しているのか、それがどこから来たのか、それを読まなければいけないのかを目を覚まして注意する必要があると訴えました。

 次に日本国際ボランティアセンターの加藤真希氏がアフガニスタンで行ってきた支援について話しました。まず、貧困や紛争のなかで、40万人以上もの将来の可能性を秘めた子供たちが通学を断念させられているという数字を示しました。そして、校舎が破壊されたため、屋外の雨の中で傘をさしたり、雪の中で試験を受けているような驚くべき写真を示し、ある地域では300人の教師の内1名しか女性がいないというような状況、昨年は一万人以上もの市民が紛争に巻き込まれて命を落としたり傷ついたりしている人権侵害の状況を説明しました。そんな中で支援を行うNGOが担う役割は大きいものの、アフガニスタンのように、イスラム教の規律が特に厳しく、女性は常にベールを被って外出しなければいけない文化背景が違う場所で、日本と同じような支援を行うことの難しさを語りました。

 アフガニスタンのある村にいる兄弟に将来の夢を聞いたところ、「兵士になりたい」と答えたそうです。長引く紛争で敵対勢力に父親を殺され、その仇を討ちたいという理由でした。兄弟で復讐を誓ったそうです。加藤氏は10歳足らずの少年が、子どもらしい夢を持てずに復讐心だけで生きていかなければいけない現状に言葉を失ったと言います。紛争がもたらすものは殺しあうことだけではなく、次の世代までも傷を残していくことを訴えました。アフガニスタンの状況を見て、子どもたちが子どもらしい未来を描けることが人権の保障された社会ではないか、と訴えました。
 
 また、加藤氏は「彼らはアフガニスタンにいるから仕方がない、紛争地域にいるから仕方ない」という考え方に陥ってはいけない、日本で一万人もの市民が亡くなれば重大なニュースになるのに、アフガニスタンだから仕方ないという理由にはならないと話しました。加藤氏は人権の実現のためには、まずは夢を持てるような環境を作ること、一人一人が平等の権利を意識することが前提だと語りました。

 最後に伊藤和子氏が日本や世界でどのような人権侵害が行われており、日本を本拠とするヒューマンライツ・ナウ(HRN)が国境を越えてどのような活動をしているかを紹介しました。伊藤氏がHRNを作るきっかけになったのも、アフガニスタンやイラク戦争によって、何の罪もない人々が殺されていく状況を見聞したことが理由でした。伊藤氏は「日本における命の値段と紛争地における命の値段が全く違うことに憤りを感じた」と言います。日本にいても国境を越えて、世界で一番苦しい人権侵害にあっている人々に何かできないかということからHRNは始まりました。HRNは世界的に確立された人権スタンダードに基づいて活動を行っています。

 HRNは人権調査、アドボカシー(政策提言)、エンパワーメント(教育支援)を活動の柱にしています。独裁政権下のミャンマーではかつて「人権」という言葉を発しただけで逮捕されてしまうような状況だったため、国境近くの国外で人権のトレーニングを行いました。HRNが特に重視している「戦争被害をなくす」という活動では、日本国際ボランティアセンターと共にNGO非戦ネットという団体を立ち上げて、日本が加害者にならないような活動をしています。その原点になっているのが、2001年のアフガニスタン戦争中に伊藤氏がアフガニスタンの難民キャンプを訪れた時の体験だと言います。当時のアメリカのプロパガンダは、9.11の首謀者と目される人物が潜伏していて、女性を差別したり、テロリストを生むような悪い政府を転覆して、自由をもたらす必要があるということでした。そして、自分たちは最新鋭の武器を使用して、民間人は殺さないと宣伝していました。ところが、伊藤氏が実際に難民キャンプで見聞きしたのは多くの村が爆撃によって消滅したという事実でした。伊藤氏は命を奪われるという最大の人権侵害を目の当たりにして、真実が報道されないという状況に恐ろしさを感じた体験を語りました。そして、不正義な構造を長引かせる要因は加害者が圧倒的な力を持っていて、被害者が弱い立場に追いやられて声を上げられない状況があり、そしてその他の多くの人々の無関心にあると指摘しました。

 人権団体の活動の一つに「事実を明らかにする」という活動があります。多くの人が事実調査に出かけて、報道するようになって、人々が関心を持ち続ければ、たとえ超大国であっても人権侵害ができない社会を作ることが可能だからです。HRNの活動の一つが、この人々の無関心を変えていくことであり、アジアを中心とした海外、そして国内で人権調査や啓蒙活動を行っていることとその重要性を説明しました。

 後半は、昨年ヒューマンライツ・ナウが主催した第2回全国中高生「世界子どもの日」映像スピーチコンテストで、地元で起こった熊本地震について知ってもらいたいと訴えた中学生の古江瑳月さんが、スカイプで熊本から参加してくださいました。また、児童労働の問題を身近な問題として捉えることの大切さを呼びかけた高校生の山村のぞみさんも登壇しました。

 山村さんは、スピーチコンテストに出場するまでは人権について考える機会がなかったものの、スピーチコンテストがきっかけで、人権という考えが余りない国のカカオ農園で働いている子供達が考えている「人権」と日本にいる高校生が考えている「人権」の意識に差があることを初めて感じたと言います。そして「日本にいる私たちが考えている幸せが必ずしも現地の子供達の幸せではない」と話しました。中学生の古江さんは、中学生だからこそ現地のボランティアチームに受け入れられたり、将来の職業を意識できたり、周りの人達に様々なことを教えてもらえたと話しました。奥田氏、加藤氏、伊藤氏からも、若い世代の参加者に向けて「既成概念を打ち破ってほしい」「若い時の失敗が大人になって『良い経験だった』と振り返れる」など励ましの言葉が贈られました。

 最後は参加者が3つのグループに分かれて、登壇者を交えて人権問題について議論しました。会は大変な盛況で、参加した中高生からは「今回のセミナーをきっかけに、これまで自分が無関心であったことに気づかされた」、「恵まれた日本で自分ができる活動をしていきたい」など多くの前向きな意見をいただきました。

 ご参加、ご協力いただいたすべての皆様に心より御礼申し上げます。

 古江さん、山村さんのスピーチはこちらからご覧いただけます。