【イベント報告】2019年5月17日「グローバル・サプライチェーンと人権課題」

 

2019年5月17日、「グローバル・サプライチェーンと人権課題 ~ファッション・スポーツウェア産業の課題と未来~」と題してイベントを開催いたしました。

ヒューマンライツ・ナウは2018年、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、英国のNGOビジネスと人権資料センターと協働で大手アパレル&スポーツウェア企業に「アンケート」を実施し、人権に対する取り組みを確認しました。アンケート結果では、グローバルブランドと国内企業の格差が改めて明らかになりました。本イベントでは、改めて、アンケート結果を広く知っていただくとともに、世界水準でエシカルを推進する企業、そして最近活動を開始した日本企業の事例を通して、ファッション・スポーツウェア産業の課題と未来を考えました。

 

アパレルアンケートから見る企業の人権的課題 伊藤和子事務局長
まず、HRN事務局長の伊藤和子がアパレルアンケートの概要を報告しました。売上ランキング上位の62社を対象にアンケートを実施しましたが、回答率が3割と低く、日本のビジネスの現場では人権に対する意識が低いことが明らかになりました。少数のリーディングカンパニーでは国際基準に準拠した人権に関する取り組みが実施されていて、少しずつそれが広まってきている状況です。アパレルビジネスの現場で人権侵害が起きているということをより多くの人に知ってもらい、それは問題であると声を挙げてもらうことで、日本全体の意識を上げてビジネスの現場も変えていけると話ました。企業は、人権問題が起きた時それを解決する仕組みを整えるデューディリジェンスに着手し、監査を怠らない体制を作り、サプライヤーの人権への取り組みも把握し、サプライヤーリストを公表することが重要です。また、日本では技能実習生の問題が深刻で、奴隷扱いと言われる外国人労働者の人権も擁護していかなければなりません。政府やステークホルダーは、国連の陣形指導原則を実施し、人権が守られる環境を作り出していかなければならないと提言しました。

 

ビジネスにおける人権意識を高める 高橋宗瑠氏
次に、大阪女学院大学大学院教授の高橋宗瑠氏は、ビジネスは人権を考えながら利益を生み出していく必要があると訴えました。日本の場合は、同業他社がやっていなければ自分たちもやらなくてよいという考え方が強く、みんなが低いところでもがいているという状況があります。しかし、欧米では、ビジネスの現場でも人権を重視するということは余分なことではなく、事業を行う上で必要なことという意識が浸透しています。日本でもそれが浸透していく重要性を話されました。

 

アパレル企業でもフェアトレードを 辻井隆行氏
第二部では、企業の取り組みが紹介され、ゲストのパタゴニア日本支社長の辻井隆行氏とイオンの木村紀子氏より自社の取り組みについて発表いただきました。
パタゴニアは、「自然の中で遊ぶ人たちの服」をテーマに商品を作っていますが、洋服づくり自体が環境に悪影響を及ぼすことにも意識を向け、二酸化炭素の排出を最小限に抑える取り組みをしています。コットンについて学び、100%有機栽培のコットンだけを使用しているといいます。また、ILOなど国際的な人権の基準に沿って職場行動規範を策定し、サプライヤーの工場は、抜き打ち監査の実施を了承しないと契約しないなど労働環境についても取組みを行っています。アパレル現場でもフェアトレードを実施し、現在取引の71%がフェアトレードです。問題が起きた時には、情報開示を徹底し、同時に環境問題にも取り組んでいて、石炭火力発電所からの撤退も重要な施策のひとつです。しかし大事なことは、火力発電所とかかわる人たちを非難することではなく、どうしたらみんなが食べていける社会を作っていけるかをその人たちと一緒に考えていくことです。環境に優しい食品生産も大切であり、そのような生産をしている農業従事者の支援もしています。

 

企業側が社会に求められていることを敏感に察知しなければならない 木村紀子氏
次に、イオン株式会社品質管理部イオンサプライヤーCoCマネージャーの木村紀子氏がイオンの取り組みについてお話しされました。そもそも「イオン」はラテン語で「永遠」という意味であり、持続可能な事業を展開するよう心がけているとのことです。社会的責任については2003年から始まり、イオンサプライヤー取引行動規範を2003年に制定しました。児童労働、強制労働、差別等について、サプライヤーに守ってほしいことをまとめているそうです。また、現代大きな問題となっている監査についても、不正な監査が行われないように十分に注意を払っているとのことです。2004年には国連グローバル・コンパクトへの賛同表明をし、SA8000認証も取得して、18時までにはほぼ全員退社できるような環境を作り出すことに成功しています。2011年にはサステイナビリティ基本方針制定、2014年には持続可能な調達原則制定、人権基本方針制定、またグローバル枠組み協定締結を行い、社会に求められていることを敏感に察知して方針を変えていくようにもしています。

 

CSR調達とモニタリングの導入を 和田征樹氏
最後に、THE GLOBAL ALLIANCE FOR SUSTAINABLE SUPPLY CHAIN理事の和田征樹氏から、国内企業の動向と課題についてお話をいただきました。国内企業のサステイナビリティ活動の潮流としては、サステイナビリティ制定プロセスが最初にきます。まずCSR調達を導入するなど、方針を設定します。国内企業は、まずそこでつまづいてしまい、モニタリングのアプリを導入する、調達先に研修を行うなどを提案されました。

 

日本の労働問題=外国人技能実習生に対する人権侵害 指宿昭一氏
外国人技能実習生について外国人技能実習生問題弁護士連絡会共同代表の指宿昭一氏からご発言をいただきました。日本では、時給300円で外国人が雇われていたり、殴る蹴るなどの暴力なども珍しいことではありません。失踪や死亡事故・事件も起きています。声を挙げることは難しく、弁護士にたどり着く被害者はごく一部です。海外で日本の人権問題といえば、外国人技能実習生問題が真っ先に話題に上がるなど、国際的な問題としても日本は対応を迫られています。

 

来年に東京オリンピック・パラリンピックを控える私たちは世界から注目されています。オリンピック・パラリンピックで使用されるスポーツウェアが誰かの犠牲の上に成り立っているのであれば、金メダルにどれほどの意味があるのでしょうか。過去の過ちから学び、アパレル業界だけでなく、社会全体をよくしていこうと強い意志を持つ企業を応援しながら、共にパートナーとして活動していきたいと改めて思いました。