【国際人権先例・CCPR】2004/No.1250 スリランカ

Sundara Arachchige Lalith Rajapakse (represented by counsel, the Asian Human Rights Commission and the World Organisation against Torture) v Sri Lanka

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

28/01/2003

14/07/2006

05/09/2006

No. 1250/2004

 全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/b9dcaf39d2e3c2a0c12571ef0045dbde?Opendocument

手続上の論点

国内的救済措置を尽くしていないこと(OP5条第2(b)

実体上の論点

拷問の禁止(7条)、恣意的逮捕(9234項)、効果的救済(第23項)、身体の安全(91項)

通報者の主張

 通報者は、19歳だった20028月、強盗罪で逮捕されたが、その際複数の警官から暴行を受けた。更に通報者は、拘留中も自白を引き出す目的で拷問され、意識不明になって病院へ搬送された。通報者は基本的人権の侵害を主張して最高裁判所に訴えを提起して受理されたが、審理は再三にわたり延期されたばかりか、通報者やその家族に対して訴えを取り下げるよう様々な圧力が加えられた。極度の精神的ストレスを受けた通報者は、働くこともできない状態に追い込まれたが、政府は通報者に対して十分な保護を与えなかった。通報者は、国内の裁判手続きが一向に進展しないことから、国内的救済措置を尽くしたとして委員会に通報した。

 通報者が主張する手続き上の違反は以下のとおり。

① 自白を得る目的でなされた暴行は、第7条が禁止する拷問に該当する。

② 逮捕は適正な手続きを欠いており、第9条に違反する。

③ 警察官からの脅迫に対し、政府が、通報者を保護するための適切な措置を採らなかった点は第91項に違反する。

④ 拷問被害の申立に対して適切かつ迅速な調査が行われなかった点は、第23項が保障す    る「効果的救済措置」を受ける権利の侵害に当たる。

⑤ 拷問行為から3ヶ月以上も捜査が着手されず、容疑者は拘留されるどころか現在も職務を続けている。そもそも、拷問に関するスリランカ国内の捜査の有効性は疑問視されており、本件ケースについても当局には全く熱意が見られない。本件通報の申立後も手続きは中断したままで、遅延の理由も説明されない。

⑥ 通報者は最高裁に基本的人権違反を申立てているが、期日が何度も延期された上、現在中断している。このような合理的理由なく遅延している手続を以って「効果的救済措置」とみなすことはできない。

当事国の主張

① 捜査は20027月に開始され、被疑者が既に起訴されている。また、最高裁の手続きは中断しているが、通報者は遅延について何ら苦情を申し立てず、手続きの開始を求めてもいない。従って本件は国内手続きが継続中であり、通報者は国内的救済措置を尽くしていない。

② 裁判所には多数の事件が係属しており、本件だけを優先させることはできない。

③ 通報者には「効果的救済措置」が与えられ、捜査も進行している一方で、通報者による保護の申立は警察が受理していることから、本件の取扱いに違反はない。

委員会の見解

1) 許容性について

 政府は、手続遅延の理由を全く説明しないし、また、捜査や司法の決定を妨げる要因について具体的な主張をしているわけでもない。このような合理的理由のない遅延は、選択的議定書の第5条第2(b)が規定する「不当な遅延」に当たる。従って本件は受理可能性が認められる。 

2) 本案について

① 自由権規約は、個人が国家に、訴追を要求する権利までは保障していないとしても、政府は、人権侵害の申立について調査し、当該行為に有責な人物を訴追し処罰する義務を負っていると解すべきである。本件について言えば、裁判所の職務が加重であることは手続き遅延の理由とならないし、更に、裁判所が今後の見通しを通報者に示していない点も問題である。従って、スリランカ政府は通報者が被った拷問に対して「効果的救済措置」を与えているとは言えず、このような対応は、第7条並びに第2条第3項に違反する。

② 手続きの適性に関するスリランカ政府の主張は、国内的救済措置が採られたという点に終始しており、手続が適正であったことの主張・立証を尽くしていない。従って、第9条第1項、2項、3項についても違反が認められる。

③ 「身体の自由及び安全」を保障する第9条第1項は、勾留中だけでなく、勾留外の自由・安全をも保障していると解すべきところ、スリランカ政府は、申立人が主張する嫌がらせや脅迫等について調査もせず、また、「申立人を保護した」と述べるのみで、具体的にどのように保護したのか主張・立証していない。従って、第91項違反に該当すると認定する。

  以上により、本件は、通報者の逮捕に関連して、第7条、9条第1項・2項・3項単独で、かつ第23項との関連で違反を認定し、更に身体の安全に関して91項の違反を認定する。スリランカ政府は、本決定を踏まえ、裁判を早急に結審させること、通報者を嫌がらせや脅迫等から保護すること、通報者に効果的な補償を与えること、事件の再発防止に努めること、以上の義務を負う。