【国際人権先例・CCPR】2002/No.1089 フィリピン

Rouse   v  The Philippines

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

10/06/2002

25/07/2005

05/08/2005

No.1089 /2002

 全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/1322c87f0d7ba769c12570660050cdde?Opendocument

手続上の論点 

 

実体上の論点

裁判の独立・公正(141項)、推定無罪の原則(142項)、 裁判の不当な遅延(143(c)) 適正な弁護人を得る権利(143(d))、防御の機会の均等(143(e))、再審理の権利(5項)、適正手続きの保障(91項)、残虐な刑罰の禁止(7条)

通報者の主張

1995年、通報者(米国人)は、未成年者と性行為を持ったとして、『子どもを虐待、搾取、差別から守る特別法違反(共和国法(Republic Act)761035条b項)』の容疑で逮捕された。その際、通報者は逮捕を無効とするための賄賂を警察に要求されたが断った。通報者は、被疑事実は警官が仕組んだもので事実でないこと、証拠が不十分であることを訴えたが、反対尋問や弁論の機会が十分与えられないまま、一審裁判所のpre-trial orderで有罪とされた。通報者は控訴、再審請求を繰り返したが、禁固刑の判決は覆らなかった。2001年に収監された通報者は腎臓病を発病したが、十分な治療も受けられず、2003年に診断書を提出してようやく釈放され、国外退去となった。通報者の主張する規約違反を以下のとおりである。

1.       公正な裁判を受けられなかった点は141, 2, 3c, 3d, 3e, 5 項に違反する。

2.       逮捕が恣意的であった点は91項に違反する。

3.拷問、非人間的、品位を傷つける扱いを刑務所で受け点は7条に違反する。

当事国の主張

フィリピン政府は受理可能性について争わなかったが、以下の所見を示した。

 通報者の逮捕・起訴は被害者の供述を証拠としたもので警官が仕組んだものではなく、裁判所の判断は適切である。最高裁への上訴と再審請求が棄却されたのは、通報者が法律違反の論点を示さなかったためである。また通報者は、法廷で警官に反対尋問の機会を与えられており、裁判手続きは公正であった。

委員会の見解

1.許容性について

本件は、国内的救済を尽くしており、他の国際的手続きは進行していないので、受理可能。

ただし143(d)項については、裁判に通報者は弁護人とともに出席したので受理不可能。

2.本案について

1141項について

被害者の事件後の供述も撤回供述(affidavit of desistance)も、いずれも第三者に伝えられた法廷外での被害者の発言であるのに、犯罪の事実を認めた供述は証拠とし、撤回した供述は証拠としなかった裁判所の判断は恣意的である。よって違反が認められる。

2143c項について

最高裁の再審棄却まで、再審請求から41ヶ月、逮捕から6年半かかったことは、裁判の不当な遅延にあたるので違反が認められる。

3) 143e項について

通報者は法廷で警官には尋問できたが、検察側の最重要証人であり、唯一の目撃者たりうる被害者に尋問できなかった。よって違反が認められる。

491項について

本件逮捕は令状なしの逮捕であり、違反が認められる。(締結国の反論もない。)

57条について

 『被拘禁者保護原則』規則22the Standard Minimum Rules for the Treatment of Prisoners, Rule22)が定める医療サービスが与えられなかったことは、残虐で非人道的な取り扱いにあたる。

 

以上が本案審査の上、違反と認められた条項である。違反とされなかったのは以下の2条項。

(142) 141項違反が認められた上で、審査は必要ない。

(145)上訴裁判所で再審議reviewされたので、違反にあたらない。