【国際人権先例・CAT】2005/No.279 スウェーデン

C.T. and K.M. v Sweden

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

07/09/2005

17/11/2006

22/01/2007

No.279/2005

 全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/6b38890f6c8e328ec125725e0058599e?Opendocument

手続上の論点 

 

実体上の論点

拷問等を受ける危険のある国への送還の禁止(3条)

通報者の主張

・通報者らはルワンダ国籍を有するフツ族である。

・通報者C.T.は、200210月にスゥェーデンに到着する以前キガリに在住し、2002年の初めに兄と共にPDR-Ubuyanjya党に参加した。通報者C.T.とその兄は、20024月に行われた同党の集会に参加したが、その直後に同等のリーダー2名が逮捕され、5月に通報者C.T.とその兄も逮捕された。通報者C.T.は、他の女性6名と共に拘束され尋問を受けた。その際、通報者C.T.は繰り返しレイプされ、その結果、通報者K.M.を妊娠した。

・通報者C.T.は、ある兵士の助けを受けて逃走し、20021017日にスウェーデンに到着し、保護を求めた。そして、2003年、スウェーデンで通報者K.M.を出産した。

20043月、通報者の申請は、供述の信用性に乏しいことと、ルワンダの状況が改善していることを理由に却下された。そこで通報者らは上級機関に控訴したがそれも却下された。20059月、通報者らは、医師の診断書等をつけて再申請したが、それも却下されたことから、国内的救済手段を尽くしたとして、委員会に通報した。

・通報者らによれば、もしルワンダへ送還されればPDR-Ubuyanja党の件や逃走経路等について拷問を受けたり、再びレイプされるばかりでなく、最悪の場合には殺害される危険もある。更に、1994年のジェノサイドの際、通報者C.T.がキガリ病院での虐殺に関与していたとの疑いで、Gacacaで裁かれる恐れもある(この点は、最初の申請が却下された後ルワンダの知人に連絡を取った際に聞かされた話しであり、そのため、再申請の際に始めて言及することになった)。

・なお、UNHCRは、2003年の選挙以降も同党のメンバーが国内で危険にされていると警告しており、ルワンダ情勢が改善しているとのスウェーデン政府の認識は誤りである。

当事国の主張

・ 通報者C.T.は在留許可を与える程の深刻な精神病ではなく、また、もうすぐ3歳になる通報者K.M.も、在留を許可する程スウェーデン社会との結びつきはない。

・ 通報者C.T.は、党の具体的な活動や党の方針等について曖昧な答えしかしていない。また、党への参加時期の供述が変遷しているばかりか、集会に参加した時期との関連で矛盾する内容になっている。

・ 通報者C.T.とその兄が逮捕されたというレポートはなく、また、逮捕されたと言われている人々も、極少数の中心人物が実刑になった以外は早期に解放されたと報道されている。また。通報者らが提出したLIPRPDHOR(ルワンダの人権団体)の元代表の手紙では、20017月以降C.T.の家族は誰も生きていないと書かれているが、これは明らかに通報者C.T.とその兄が逮捕された時期と矛盾する。(この点については、タイプ上のミスとして、通報者らは再度新しい手紙を提出した)。

・ Gacacaに関しては、人権上の問題点は指摘されているものの、E.U.を含む国際社会が支援を表明している法廷である。また、通報者C.T.Gacacaのことを言い出したのは20059月の再申請になってからであり、訴追の危険について具体的な証拠も提出されていない。

・ 2003年の選挙以来ルワンダの状況は改善されている。従って、2002年当時不適切な取扱いがあったからといって、今ルワンダに戻った場合に、通報者らが拷問を受ける現実的かつ個人的なリスクがあることにはならない。しかも、通報者C.T.が同党のメンバーであったとしても、僅か1回集会に参加した程度の関与であるから、この点からしても当局から拷問を受ける危険性はない。

委員会の見解

・ Gacacaについては、訴追の可能性のみで拷問を受ける合理的な恐れがあるとは言えない。

・ スウェーデン政府は、通報者C.T.PDR-Ubuyanja党に関する供述を問題視する一方で、同人が繰り返しレイプされ、その結果通報者K.Mが産まれたという事実については争っていない。従って、医学上の証拠と、スウェーデン政府が争っていないという事実をもとに検討するに、委員会としては、通報者C.T.は繰り返しレイプされたのは事実であり、その事実を以って過去に拷問の被害にあったものと考える。

・ なお、通報者C.T.の供述の信用性については、「拷問の被害者が完全に正確な供述をすることの方が稀であり、仮に供述に一貫しない点があったとしても、供述全体としての正確性に疑問を投げかけるものではない」というのが委員会としての従来の見解であり、まして本件については、通報者C.T.が拘留中に何度もレイプされた事実は真実と認められる。

・ LIPRODHORの元代表から再提出された手紙が本物である点についてはスウェーデン政府も争っておらず、これによれば、通報者C.T.が兄と一緒に逮捕されたと書かれている。

・ ルワンダの現状については、通報者らによって提供された情報によれば、依然として民族間に緊張関係があり、その結果通報者C.T.がルワンダに戻れば拷問を受ける危険性がある。

 以上の理由により、ルワンダに戻された場合拷問を受ける危険性があるとの通報者らの主張を信じる十分な理由が認められることから、通報者らのルワンダへの送還は第3条に違反する。