【国際人権先例・CAT】2005/No.273 カナダ

Mr. T.A. v Canada

通報日

非許容決定日

文書発行日

通報番号

13/07/2005

15/05/2006

22/05/2006

No.273/2005

 全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/b7f928721c4d1f7dc125718600537501?Opendocument

手続上の論点 

国内的救済手段を尽くしていないこと(第22条第5(b))、規約規定との非両立(第22条第2項)

実体上の論点

拷問等を受ける危険のある国への送還の禁止(第3条)、

通報者の主張

通報者は、1998年にミャンマーのHlaing大学在学中、学生デモに巻き込まれて拘留された。その際、通報者は「再度反政府デモに参加した場合は無期限に拘留される」という書類に署名させられた。釈放後、通報者は何度も尋問を受け、当局に行動を監視されていることに気づいた。2001年、通報者は特に民主主義団体に加入していたわけではなかったが、人権侵害を告発する文書を配った。2001年、通報者は友人に誘われてサッカーの団体に参加し、メンバーを何名か勧誘したが、当時、そうした団体や組合の結成はミャンマーでは認められていなかった。2002年、通報者は学生ビザでカナダに到着した。20032月、通報者は、反政府的な文書を配ったことで政府が彼を探しており、父親が彼のことで尋問を受けたこと、友人の一人が逮捕されたことを母親から聞き、カナダ政府に難民申請したが却下された。そこで通報者は、父親からの手紙や逮捕状のコピー等の新たな証拠を付してPre-removal risk assessment(PRRA)を申請したが却下されたことから、決定の再審理を求めてカナダ連邦裁判所に提訴した。一方で、通報者は関係機関から再度PRRAを申請するように言われ手続きを取ったが、これも認められず、送還予定日が決められた。しかし、送還予定日の3日前、連邦裁判所は、PRRAの担当官が通報者に発布された逮捕状を適切に考慮せず、その真性に関する明確な判断をしていないことを根拠に、退去命令の執行停止を認めた。

 違法なサッカー団体を組織した罪で7名の学生が7年から15年の実刑となったとのアメリカ国務省のレポートからも明らかなように、ミャンマーでは重大な人権侵害が行われている。更に通報者は、カナダでミャンマーの民主化運動に積極的に関わっており、カナダ政府が通報者のパスポートを申請したことで当局が通報者に対する警戒を強めている。従って、通報者がミャンマーに送還されれば、恣意的な逮捕や拷問等を受ける危険があり、規約第3条に違反する。

当事国の主張

 本件通報は、以下の2点から許容性の要件を満たしていない。

1) 国内的救済手段を尽くしていない

 現在通報者はPRRAの決定について係争中で、敗訴すれば最高裁まで争うことができる。更に最高裁で敗訴しても、新しい証拠があれば再度PRRAを申請できる。なお、委員会の先例とは異なり(Falcon Rios v. Canada, M.M. v Canada)、カナダ政府は、PRRAを有効な国内手続と評価している。更に、通報者は人道的かつ恩情的考慮に基づく永住許可申請を行うことも可能である。同手続やPRRAの決定は確かに裁量的ではあるが、裁量的手続きであっても効果的な救済措置足りうることは、欧州人権裁判所でも認められている。(T.I. v. UK)更に、実際上はこれらの手続きも、訓練された担当官によって、カナダ権利・自由憲章やカナダが負う国際的義務に従って運用されている。

2) 本件通報は条約の規定と両立しない

 通報者は直ちに送還されるリスクがないから規約第3条の趣旨と両立せず(第22条第2項、規則第107(c))、また明らかに訴えの根拠を欠いている(規則第107(b))。

 なお、通報者の再審理の申立が(本通報後に)受理されたことから、通報者の送還手続きは停止され、通報者は当面ミャンマーに送還される恐れはない。

委員会の決定

 通報者は2PRRAを申請したが、その度に送還手続きが停止されている。また、PRRA担当官が逮捕状を適切に考慮せず、その真性に関する明確な判断をしていないことを根拠に、連邦裁判所が退去命令の執行停止を認めたが、この事実は、事案によっては連邦裁判所による審理は実質面にも及ぶとのカナダ政府の主張を裏付けるものである。更に、カナダの規則によれば、PRRAの審理中であれば申請者は送還の危険を負わないことになっている。一方、通報者はPRRAの有用性および有効性について十分な反論をしていない。

 従って、本件事案においては、通報者には有用かつ有効な国内手続きが保障されているが、通報者はこれを未だ尽くしておらず、また、通報者には直ちに送還される危険もない。よって、人道的かつ恩情的考慮に基づく申請手続きの有効性及び有用性を判断するまでもなく、本件通報は非許容とする。