【国際人権先例・CEDAW】2004/No3 オランダ

Ms. Dung Thi Thuy Nguyen v. The Netherlands

通報日

非許容決定日

文書発行日

通報番号

8/12/2003

14/8/2006

 

No.3/2004

 全文

http://www.un.org/womenwatch/daw/cedaw/protocol/dec-views/htm

手続上の論点 

国内的救済措置を尽くしていないことにおける例外(OP41項)、選択議定書が効力を生ずる前の出来事(OP4条第2項(e))

実体上の論点

雇用における差別撤廃(給料又は社会的給付を伴う出産休暇の導入)(112(b)

通報者の主張

 通報者は、派遣社員として給与を得てパートタイム勤務すると同時に、夫が経営する企業でともに働く妻(co-working spouse)として業務に従事しており、19991月より出産休暇を取得した。通報者は、給与所得者として加入していた「傷病手当法(ZW法)」により、出産休暇を取得した16週間分の給与所得を保障する手当を受取った。通報者は、「(自営業者)就労不能保険法(WAZ法)」にも加入していたため、同法による出産休暇手当の申請を提出した。しかし、この申請は、同時に申請された出産休暇手当についてはZW法の給付額を上回る場合の差額のみを支給するというWAZ59(4)の反蓄積条項(“anti-accumulation clause”)により却下された。

 通報者は、この決定に対する不服申立および地裁における見直し請求を提出したがいずれも却下され、中央控訴法廷(行政手続に関する最高判断機関)への控訴では、20034月、地裁判決が支持された。20025月、通報者は2回目の産休を取得し、新たに出産休暇手当を申請した。今回は、WAZ法の給付額がZW法による給付額を上回っていたため、20026月、通報者にその差額を支給する決定が出された。通報者は、この決定に対しても不服を申立てたが、第1回目の産休に関する中央控訴法廷の判決後、これを取り下げた。

 通報者は、条約第112(b)が出産休暇についての全額補償を受ける権利を定めているにもかかわらず、給与所得とその他の所得を同時に得ている女性は、部分的な補償しか受けられず、妊娠出産により所得にマイナスの影響を受けている。これは、妊娠出産による直接差別であり、条約に反すると主張している。委員会に対しては、条約112(b)を実施するための適当な措置をとり、自営業者の妻が出産休暇について全額補償を受けられるようにすること、通報者の2度の産休に対する補償を全額支払うことを締約国に勧告するよう求めている。

当事国の主張

1) 本事案にかかわる主要な決定は、オランダが議定書を批准した2002822日以前の19992月および20026月に出されている。

2) 条約第112(b)“pay”は、給与所得を意味し、経営者としての所得は含まないと考える。

3) WAZ法において、反蓄積原則が適用されているのは出産休暇手当だけではなく、性別による差別とはいえない。

委員会の決定

1)      通報者の1回目の産休について国内手続が尽くされたことについて、締約国は異議を唱えていない。2回目の産休に関する控訴法廷への控訴は取り下げられたが、1回目と同様の判断がなされるものと推測される。また、侵害が生じた時期について、1回目の産休はオランダによるOP批准以前に終了しているが、2回目はその期間がOP批准後にまたがっており、2回目の産休にかかわる申出は受理可能である。

2)      条約第112項は、女性雇用労働者に対する妊娠出産を理由とした差別を防止するものであるが、通報者は、WAZ59(4)の適用が、条約第112項に基づく差別に相当する理由を示していない。

3)      条約第112(b)は、給料”全額”あるいは”所得の喪失に対する全額補償”という表現は用いておらず、締約国に出産休暇補償制度の制定について、一定の裁量を認めている。よって、WAZ59(4)は、条約第112(b)に定められた通報者の権利を侵害するものではない。

 

     委員会決定に対する個人意見(ガブル委員、ショップ=シリング委員、シン委員)

条約第112(b)は、締約国に対して、自営業者たる女性についても所得補償を伴う出産休暇を提供することを義務づけていると解釈することができる。WAZ59(4)による制約はあるものの、現在のオランダの制度は条約第112(b)に合致しており、性による直接差別を形成するものではないが、同時に、被雇用者たる女性は、その給与の全額に等しい出産休暇手当を一定期間給付されるのに対し、被雇用者かつ自営業者として働く女性の労働時間について”同等”原則が適用されているとはいえないことに懸念を有する。また、1996年平等待遇法は、フルタイムおよびパートタイム雇用者の平等な待遇を求めている。オランダでは、パートタイム給与取得者として働く一方で、配偶者の事業にも従事するという状況は、主に女性に見られるものであるという通報者からの情報を考慮すれば、WAZ59(4)は、性に基づく間接差別に当たる可能性がある。ただし、今回の検討においては、これを立証するための情報提供を委員会が求めず、締約国からも情報提供がなかったことから、締約国に対する以下の勧告を作成した。

(a)       雇用労働と自営業の両方に従事する女性の割合についてデータを収集し、これが女性に特有な就労形態といえるかどうかを検討すること

(b)       当該女性労働者の全体の労働時間を考慮しておらず、女性に対する間接差別を形成する可能性のあるWAZ59(4)の非蓄積条項について再検討すること

(c)        上記の結果に従いWAZ法を改正すること、あるいは、

(d)       自営業者のための新たな保険制度を策定する際には、条約との十分な調和を考慮すること