- 五輪建設現場の労働環境
東京オリンピック・パラリンピックについては開催の延期についての調整が進んでいます。ヒューマンライツ・ナウは2019年夏、オリンピック関連施設建設現場の労働者の権利の実態について現場調査を行い、炎天下における作業が著しく過酷であること、労働者の人権上の配慮に欠ける深刻な懸念があること、それが死亡のリスクに直結するものであることを確認し、急遽9月 2日付で、【調査報告書】「猛暑のオリンピック建設現場」 にまとめ、公表しました。https://hrn.or.jp/activity/16265/
- 組織委員会への通報
報告書では、組織委員会、東京都 、JSC に対し、事態の改善に向けて行動をとることを求めましたが、いずれの機関からも改善に向けた動きが確認されなかったことから、ヒューマンライツ・ナウは10月18日、持続可能性に配慮した調達コードへの違反があるとして、組織委員会に対し、調達コードに係る通報受付窓口への通報を行いました。
https://tokyo2020.org/ja/games/sustainability/sus-code
ただし、発注者が組織委員会か、東京都か 、JSCかにより通報窓口が分かれており、新国立競技場での労働者の権利侵害に対し、JSCが労働組合の通報を認めなかった事例があり、救済窓口として実効性が疑問であったことから、組織委員会が発注した以下の建設現場についてのみ、組織委員会の通報窓口に通報しました。
有明アーバンスポーツパーク(受注者 大和リース外) 大和リース外通報書 PDF
有明体操競技場(受注者 清水建設) 清水建設 通報書 PDF
(組織委員会の受付番号はそれぞれ10,11)。
- 通報の結果
これに対し、有明アーバンスポーツパークは通報が受け付けられましたが、有明体操競技場については、「調達コード策定以前の契約のため、本通報受付窓口 では対象とならないと判断」したとされています。
しかし、調達コード策定以前に契約したからと言って、調達コードに服しない、通報の対象外というのは極めて問題であり、調達コード策定にあたり、組織委員会は受注者に調達コードを順守させるよう働きかけ、合意を締結すべきではなかったでしょうか?ヒューマンライツ・ナウはこの決定を不服としています。
一方、有明アーバンスポーツパークに関しては、通報が受け付けられましたが、10月の通報に対し、工事完成前に対応がなされず、ヒアリングの打診が年明けとなるなど、迅速な対応という点で大きな課題を残しています。
- ヒアリングについて
本件通報の受理に伴い、ヒューマンライツ・ナウは3月24日に組織委員会のヒアリングを受けました。この機会に、有明アーバンスポーツパークでの労働環境や、当事者が通報しにくい労働慣行を説明するとともに、他の建設現場の労働者の声も伝えました。BWIや労働組合の実施したヒアリングの結果についても共有し、建設現場全体の問題性も視野に置いた報告書の作成を要請しました。同時に、今回はヒューマンライツ・ナウが第三者として行った通報を受け付けた事実を評価する一方、通報書式が難解で、匿名の受付に対応しないとみられる書式であるため、一般の労働者がアクセス可能とは言えないこと、労働組合の受付にも対応しなかった例があること(JSC)、統一した窓口がないこと、迅速に解決できるスキームになっていないことについて、問題提起、今後に向けた改善を求めました。
調査委員会では受注者へのヒアリングを実施して、調査報告書をまとめる予定としています。
ヒューマンライツ・ナウでは、今後も五輪建設の労働環境に関する調査と通報制度の改善を注視し、公正な判断がなされること、労働者の権利が改善される契機となることを求めていきます。
※東京オリンピック・パラリンピックは、オリンピック憲章に基づき、持続可能なオリンピックを標榜しており、これに即して調達コードが定められていますが、https://gtimg.tokyo2020.org/image/upload/production/bl54yjizbsym6v5zuu6i.pdf
ヒューマンライツ・ナウが調査した結果、五輪建設現場では、「サプライヤー等は、安全衛生に関する法令等に基づき、安全衛生委員会等の設置やメンタル ヘルスケアを含め、調達物品等の製造・流通等に従事する労働者等にとって身体的・精神的に 安全で健全な労働環境・条件を整えなければならない。また、サプライヤー等は、労働者にと って仕事と生活の調和のとれた労働環境の整備に配慮すべきである。」とのコード等に違反した実態があると考えています。