【報告書】女性に対する差別に関する報告書を発表しました。

2018年8月3日

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、2018年7月25日、女性に対する差別に関する調査報告書を公表いたしましたので、ご報告いたします。

「Discrimination in the Punishment of Women Report」

報告書全文はこちらからダウンロード頂けます。(英語版)

以下、報告書の概要です。

 

「女性である」という理由で、世界には差別的な処罰に苦しむ女性がいます。

女性に対する不平等な扱いは、女性の基本的人権を侵害するにとどまらず、国家の経済発展を阻害しているとの認識が広まりつつあります。しかしながら、ただ単に女性であるというだけで、例えば名誉殺人(家族の名誉を傷つけたとして、婚前交渉を行った女性に対する殺人)、姦通罪、強制結婚など、差別的な処罰に苦しむ女性が世界中には依然として存在します。

 

女性に対する差別的な処罰に関する国際的基準とは?

「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(1981年)」は、女性に対する差別となる自国の全ての刑罰規定を廃止することを国家に義務付け、女性を暴力から保護するための基準を規定しています。(第2条g項)

また、国際社会は国連総会において「女性に対する暴力の撤廃に関する宣言(1993年)」を採択し、各国に対して、拷問またはその他の残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱いまたは刑罰を受けない権利を保護することを求めています。(第3条h項)

さらには、国連において女性差別に関する国連作業部会(UN Working Group on the Issue of Discrimination Against Women)などの国連機関が女性に対する差別的な処罰の撤廃を求めており、また、女性に対する暴力に関する国連特別報告者によって調査報告が実施され、国際基準の履行確保の試みがなされています。

 

世界では女性に対してどのような人権侵害が行われているのか?

日本を拠点とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、世界8ヶ国(アフガニスタン、インドネシア、イラン、イラク、マレーシア、パプアニューギニア、サウジアラビア、イエメン)における人権侵害の中でも、女性への差別的な処罰について検証しました。以下、抜粋ではありますが、簡単に内容を紹介します。

アフガニスタン

2011年~2013年のみで240件の名誉殺人が報告されており、それを処罰する法律も女性の命を軽視する法律となっている。その他、レイプ被害にあった女性に対して姦通罪で12年の刑が与えられるなど、女性に対する差別的法律も多く見られる。

インドネシア

地方では、女性に対して差別的な法律が少なくとも389本存在しているとされている。例えば、売春などの禁止された行為を犯したという疑いがあるだけで、処罰が課せられる法律や、結婚していない男女が同じ部屋にいるだけで姦通罪に問われる法律が存在しており、女性のみをより厳しく処罰する法律が多々見られる。

イラン

男性は一夫多妻制を口実に姦通罪を逃れることができる一方で、多夫制の認められていない女性は、男性よりも姦通罪で処罰される割合が高い。また、刑法において、女性の命は男性の命よりも価値が低いかのように扱われている。例えば、殺人の被害者遺族に支払わる賠償金(ディーヤ)は、被害者が女性の場合、被害者が男性の場合に比べて半額のみしか支払われない。

イラク

名誉殺人が横行しているとされるが、その事実は家族によって隠されることが多く、警察も十分な調査を実施しないといった現状がある。また、男性の名誉を守るために行われた犯罪であれば減刑することを許容する法律が存在する。例えば、殺人に対する量刑は通常、終身刑もしくは死刑であるにも関わらず、浮気・不倫を犯した妻またはその相手を殺害した男性は、最大3年間の懲役刑に課せられると規定する刑法がある。

マレーシア

性犯罪に関する法律が最も女性に対して差別的である。例えば、女性被害者は性暴力被害にあったことを証明するために4人の男性証人が必要となる。これらの条件を満たせない場合、訴えた被害者が罰金や禁錮刑に処されるものとなっており、性暴力の被害者が声を上げにくい実態が現状として続いている。

パプアニューギニア

人口の多くが魔術を信じており、魔術を使ったとして咎められる確率は、男性に比べて女性の方が6倍にもなると報告されている。2013年に魔術を処罰する法律が廃止されたが、村の裁判所よって、罰金や最大5週間の禁錮刑など、魔術に対する処罰が現在も続いている。

サウジアラビア

離婚に関して女性は男性と同等の権利が与えられておらず、法律上、離婚に必要なプロセスは男性よりも女性の方が複雑であるのに加え、女性の方から離婚を申し出ると、夫名義の財産や夫からの生活費を一切得ることはできない。また、離婚した女性は子どもの親権を失うことがほとんどである。

イエメン

法律上の定義や規定が曖昧であるために、女性は男性と歩いていたことや深夜に出歩いていたというだけで、売春の罪にあたるとして恣意的な拘留を強いられている実態がある。この他、男性の名誉を守るために、女性に対する過剰な暴力や殺人を許容するなど、女性に対する差別的法律が多く存在している。

 

女性に対する差別的な処罰による人権侵害を終わらせるためには?

ヒューマンライツ・ナウは以下の5点を勧告しています。

  • 国家当局は、あいまいな規定や定義づけによって、女性に対する差別的な処罰を可能にする法律を廃止しなければならない。

 

  • 国家当局は、公私すべてにおける女性に対する差別的な処罰に関する習慣を禁止し、禁止を広く周知・実行されるよう策を講じなければならない。

 

  • 報告書で指摘した国家当局に対し、女性に対する差別的な処罰の実情を綿密に調査し、差別的な法律を撤廃するための国家政策を直ちに打ち出すことを強く要請する。

 

  • 国連機関に対し、公私すべてにおける女性に対する差別的な処罰を終わらせるための努力を、権限の及ぶ範囲で倍加させることを強く要請する。

 

  • 女性差別に関する国連作業部会に対して、女性に対する差別的な処罰の問題を優先課題として位置づけることを勧告する。