【イベント報告】12/11開催 世界人権デー企画「世界を覆う難民問題と日本の対応」を開催しました。

ヒューマンライツ・ナウは、青山学院大学人権研究会と共催で、12月11日、世界人権デー企画として、世界が大規模な難民問題に直面するなか、日本は如何にしてこの問題に関わっていくべきかを考えるイベント「世界を覆う難民問題と日本の対応」を開催しました。

当日は満席となり、高校生から、一般市民・学生、メディアの方など幅広い層の方が多く参加されました。

また、本イベントでは、画家の奈良峰博さんが、このイベントのために難民の親子の絵を描いて下さいました。奈良さんは、アフガン侵攻以来、人種・宗教関係なく母子の愛は共通するものという思いで「砂漠の民」の絵を描き続けているそうです。

 

奈良さんの絵画はこちらからご覧いただけます。難民(奈良さんは「砂漠の民」と表現されます)の方々の姿を描いたとても素敵な絵ですので、ウェブサイトをご覧頂ければと思います。また、イベント後、ご厚意でヒューマンライツ・ナウに絵を寄贈して下さいました。

奈良さん始め、ゲストスピーカーの方々、急なお願いにも関わらず通訳を担当してくださったピースボートのメリーさん、金曜の夜にも関わらずイベントに参加し、難民について考え、それぞれの思いを語ってくださった参加者のみなさま、様々な方に支えられて活動しているというのを改めて感じるイベントとなりました。ご協力いただいた皆様ありがとうございました。

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以下、イベントに参加したインターンの方の報告を紹介いたします。

第1部:ゲスト・スピーカーによるトーク―難民問題を多角度から見る―

企画の前半では難民問題に様々な角度から関わる方々にゲストとしてトークをしていただきました。弁護士の渡邉彰悟氏は、日本における難民の認定状況について、手続きにおける法律的な問題にはじまり、実際の事例の紹介や欧州連合とのデータの比較を行い、如何に難民の認定が難しい状況にあるのかを客観的に説明しました。続くシリア認定難民のJamar氏は、自らがシリアで直面した現実と、日本での認定の様子についてはじめて公の場で率直に語りました。シリアの中に住んでいても、自身の自宅が爆撃を受けるまではなかなか実感がわかなかったことなど、如何に「あたりまえの日常」が突然壊されたのかについて述べ、また日本の認定プロセスは長かったものの、やはり認定後は安定した暮らしとなったこと、そしてそれに対する感謝の想いを語りました。最後に欧州の視点からは、駐日欧州連合代表Wiktor Staniecki氏のトークが続きました。

 

第2部:ディスカッション・質疑応答―難民問題を外から見た日本とその展望―

後半のディスカッション・イベントでは、国際人権法の視点から難民問題に携わるHRNの阿部浩己理事長がモデレーターを務め、当日の企画参加者の皆様からの多様な意見も取り上げながら、ゲストがそれぞれの意見・想いを語りました。

・日本で難民認定を受けて

シリア認定難民の氏に対しては、なぜほかの国ではなく日本に来ることを選んだのか、そして日本で難民として生きる難しさは何かを問う声が聞かれました。日本を選んだ理由に関して、Jamar氏は、紛争でなくとも日本の文化には定評があり、旅行としてでも行きたい国であったこと、そして実際に知り合いがいたことも大きいということを述べました。日本での暮らしについては、妹さんが「日本の中学生」として流暢に日本語も操れることを紹介し、はじめは外国人に対して日本人は不親切だと聞いたこともあったが、実際はそうではなく、難民認定をされて本当に良かったと思うと語りました。日本人一般に伝えたいメッセージは、ムスリムがテロリストと同視されることがあるがそれは間違った見方だということと、難民として強く思うのは「日本を外国としてではなく、日本の人々とともに貢献したい国と感じている」ということでした。さらに、シリアでは途中でやめざるを得なかった大学教育を日本で受けるために日本語の勉強を頑張りたいこと、また日本で得た経験を自国に帰った際には活かしていきたいことなど、今後の展望を語りました。

・日本と難民認定の制度問題

上記のJamar氏の例について、ごく少ない認定例であるが、なぜ認定されたと思われるかという疑問が渡邉氏に対してぶつけられました。渡邉氏は認定に関して、プライバシー上詳細を語ることはできないものの、「これほどの事情があってようやく認定されるのだ」ということを実感したという点を指摘しました。また法律的な難民認定を促進するにあたり、如何なる解釈を行えば「迫害」の個別性が認められるのかについて、正攻法はないものの、日本が自由権規約の個人通報制度等に加われば状況は改善されるかもしれないと述べました。さらに、難民認定されなかった場合、申請に回数制限はないものの、基本は退去強制であり、強制送還されることもある旨指摘がありました。

・日本は難民を受け入れる覚悟をもっているか―政府と社会の問題―

日本の受け入れの問題として、安全保障の観点を難民問題と切り離すわけにはいかない、そしてその意味で難民問題はもろ刃の剣であるのではと示唆する声もありました。これに対し、渡邉氏は、あくまで長期的な視点に立ち、たとえば難民認定をされて日本で暮らした人が無事祖国に帰国できたとき、日本が如何なる国として見られるかというところまで踏まえたうえで、まずは政府が受け入れの方向に向けて動くべきことを主張しました。政府における問題とは別に、日本はよく社会的に難民受け入れの基盤が育っていないなどと言われるものの、実際に不法滞在などに陥っている外国人の周りで彼ら・彼女らを支える日本人は「懐の深さ」をもっているということも取り上げ、このような日本人の温かさを示す機会が政府によって開かれないことには何も始まらないと述べました。

さらに、日本と難民認定の歴史に関して、ベトナムからのボート・ピープルなどインドシナ難民を受け入れた経験があるにもかかわらず、その記憶が風化しており「日本は難民を受け入れない国だ」という一元的な見方が定着していることに警鐘を鳴らす声も聞かれました。これに対し、現役の高校生という立場から、自分自身が関心をもって取り組まない限り、教育の場で学ぶ機会が少ないことを指摘する参加者もいました。

以上のように、海外の受入国や難民の立場から見て日本の現状はどのように見えるのか、また安全保障の観点から見て如何なる問題があるのかといった大きな質問から、社会全体として如何なる姿勢を持っているのか・いくべきなのか、また一人ひとりの市民には何ができるのかという今後を問う質問まで、若い世代まで含んだ活発な議論が行われました。

最後に阿部氏は、難民問題について当事者意識をもって考える大切さに触れ、日本が「如何に‘engage’していくか(携わっていくか)」を真剣に考えていかねばならないと主張しました。さらにHRNの伊藤和子事務局長は、「日本が難民問題について閉鎖的、欧州は積極的に受け入れている」という単純な図式を取り払い、日本だけでなく、受け入れている国も、また受け入れられている側もそれぞれに多様で、各々に悩んでおり、「私たちは同じ船に乗っていて、みんなひとりひとりの意思で考えていかねばならない」と指摘し、会は閉会となりました。

HRNは日本の認定NPO法人として、これからも難民問題を当事者意識をもって直視し、政府や国内外の社会の様子を見据えて活動を続けてまいります。(高橋知子)

 

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