ヒューマンライツ・ナウはODA大綱に関する以下の声明に賛同しております。
O D A大綱4原則における「非軍事主義」理念の堅持を求める市民声明
〜四原則緩和は、日本の平和理念を崩壊させる〜
今般のODA大綱見直しに際し、「積極的平和主義」を掲げ、現行大綱にある援助実施上の4原則(①環境と開発の両立、②軍事的用途及び国際紛争助長への使用の回避、③軍事支出や大量破壊兵器・ミサイルの開発・製造の動向への注意、④民主化の促進、市場志向型経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況)も見直される予定と聞いています。
ODA大綱4原則は、非軍事的手段を通じた国際社会の平和共存という日本の理念をその運用を通して具現化するものであるだけでなく、国際的援助コミュニティが広く共有し、維持してきた原則や国連憲章の平和と人権尊重の価値とも共通するものを含んでいます。また、ODA大綱4原則は「非軍事主義」的理念を表現しつつ、具体的な援助実施に際してのコンディショナリティ的な性格を持つという特徴を持つものであり、これによって政府がODAを慎重に運用することで日本の平和理念を国際社会に浸透させてきたものです。私たちは、ODAという「非軍事的手段」を通して地球規模の諸問題の解決に貢献し、弱者の安全が脅かされることのない「人間の安全保障」を確実にするためにも、現行の4原則を堅持し、貧困削減というODA本来の役割をしっかりと果たしていくべきであると考えます。
しかし残念なことに、数年前から4 原則に込められた理念を形骸化させる動きが現れてきています。2006 年、当時官房長官だった安倍首相による「官房長談話」をきっかけに、海賊対策・テロ対策を名目としたODA による「武器援助」がインドネシア向け無償資金協力事業として始まりました。その後、アルジェリアやジブチ向けにODA による「武器援助」が行われました。しかし、まだそうした援助の案件数も少ないのは、ODA大綱4 原則があるからです。もし、今回のODA 大綱見直しによって、この4 原則、特に「軍事的用途への回避」や「軍事支出や武器開発・製造などの動向への注意」が緩和されることになれば、「武器援助」や軍事的用途との境界があいまいなODA が増加することは必至であり、これまで日本の政府や市民社会が国内外で積み上げてきた平和理念を広める努力を水泡に帰させる恐れがあります。国際平和実現に向けて多様な主体との「連携」は重要ですが、逆に「連携」によって平和理念を崩すことのないようにするためにも明確な原則が不可欠です。これらの理由から、私たちはODA を軍事的活動への活用を可能にする大綱4 原則の緩和に反対し、現行の原則の堅持を求めます。なお、この私たちの主張は、以下の分析と考察によります。ODA大綱の原則を検討するのであれば、印象や希望的観測の下で議論するのではなく、事実に基づく検証を踏まえ、根拠を示しながら、透明性のある形で行って頂きますようお願い申し上げます。
【4原則の緩和がもたらす懸念】
1.平和主義理念という「国民」の財産を失う
平和主義理念は、広く日本の「国民」の財産であり、国際的にも「パワー」の源泉であることを、私たち市民は国際的な人道支援活動を通じて強く実感しています。これまで、ODAによる「武器援助」は武器輸出三原則もあり、国会の審議にかけられ、国民の信託を得る努力がなされていました。しかし、2006年の官房長談話以降、「武器援助」も閣議了承だけに留まることとなり、武器の海外輸出と日本の平和理念の堅持という問題に対する国民のチェック機能が果たせなくなっています。ODA大綱4原則を緩和し、武器援助や軍事活動と連携するODAが増えれば、日本の平和理念に対するチェック・アンド・バランスが崩れ、貴重な「財産」の喪失をもたらします。
2.武器市場の拡大と紛争助長に貢献する
ODAによる「武器援助」の拡大は、武器輸出を助長し、武器市場拡大に棹差すものになります。軍事における革命(RMA)に伴って、民生用に開発された技術の軍事利用が進み、日本企業の高度技術への関心が高まっています。多くの日本の企業は、平和理念を重視し、自社の技術の軍事転用を「リスク」と捉えて自重しています。もし、平和イメージを持つODAによる「武器援助」が一般化すれば、そうした企業の平和意識も薄らぎ、技術の軍事転用の拡大、国際的武器市場の拡大に日本も貢献することになります。一方、拡大する武器市場と武器拡散に対し、それを適正に管理・規制する国際的メカニズムの整備は追いついていません。日本が武器輸出を進めることは、紛争助長に日本が手を貸すことになりかねません。
3.一方的な公権力強化による人権侵害の蓋然性を高める
ODAによる「武器援助」や治安対策支援は、相手国の公権力の強化をもたらしますが、法整備などガバナンスの弱い国では個人に対する暴力的抑圧や人権侵害を助長する恐れがあります。また、紛争当事国や「テロとの戦い」に基づく軍事作戦を遂行している国、軍事政権に対して武器援助がされた場合、日本が支援した武器が紛争や人権侵害に活用されることとなり、平和・人権・貧困からの脱却に貢献しようというODAの理念に逆行することになります。また、支援対象国のガバナンスが弱い場合、民政から軍政への移行や内戦の勃発などの危険性があり、日本が意図しないにも関わらず、武器援助が紛争・人権侵害に使われる可能性があります。例えば、2013年度、日本はアルジェリア向けODAでテロ対策名目で顔認証装置を供与しました。しかしながら、国際的な人権団体が警鐘を鳴らしているように、アルジェリアのガバナンス状況からすると、援助を使って拘禁した者に対し治安当局による「人権侵害」を招く危険性は高いと言わなければなりません。政府による治安対策支援は、ODA大綱の原則にもとづいて、むしろ治安当局へのモニタリングや研修の提供などに特化すべきです。
4.O D Aの事業評価やP D C Aサイクルが形骸化する
軍と一体的に運用されるような援助は、モニタリングが難しく、成果ベースで評価することが難しくなり、援助資金の不透明化を招きやすくなります。2006年、日本がインドネシアに無償資金協力で贈った「武器」(巡視船艇)は、海上保安庁に提供したものですが、実際の運用に際しては高い強制力をもたせるために海軍と一体的に行動しています。そのように使用されている機材を、文民であるJICAは適正にモニタリングすることができるのでしょうか。また、第三者評価に至っては、軍事情報の提供なども含めて、有用な評価を行うことは現実的に不可能です。軍事活動と一体化するODAの増加は、事業評価やPDCAサイクルを形骸化させることになります。
5.問題の根本的原因への取り組みが疎かにになる
「対テロ対策」などにおいて、対処療法的な取り組みを優先的に進めれば、貧困削減など紛争の構造的要因、根本的原因に対する対応が後回しにされる恐れがあります。日本は2013年度ODAでソマリア沖海賊対策としてジブチに「武器」と認定される巡視船艇を無償資金協力事業で贈与しました。この案件が「開発協力適正会議」で検討された際、多くの委員からODA大綱4原則に言及しながら、貧困など根本的な問題を蔑ろにすることのないようにとの意見が出されました。本来、援助は中長期的な観点から受取国の開発計画を支えるものであり、予測性が極めて重要です。50億ドルを投じたイラク復興の事例を持ち出すまでもなく、限られたODA資源を短期的な対応策や政治や外交目的のための支援を優先させて、適正な配分を歪めるべきではありません。
6.国際協調主義を後退させる
原則の緩和は援助国側、すなわち日本政府の政治的裁量の下に援助をおくことになり、恣意的な運用の可能性を高めます。また、ODAを外交との密接な関連の下で供与した場合、秘密保護法などとの関係から、その情報公開や説明責任が十分に果たされない恐れがあります。さらに、援助国の意図が強く影響したODAが増えれば、OECD・DACから注意勧告を受けている「狭い国益中心主義」に傾かせることになります。国家安全保障の目的の下で判断・運用されるODAは、国際協調主義を後退させることになりかねません。
7.援助と軍事との境界が曖昧になり人道的支援が困難になる
援助やODAは、相手国への干渉という要素を本質的に孕んでいます。これが許されているのは、それが人道的目的での民生に対するものであるからです。軍事活動と一体化した援助あるいは「武器援助」は、運用の仕方によっては、相手国の主権を軍事的に脅かすものにもなりかねません。例えば、もし米国との軍事行動の一体化によって第三国へ武器援助を”強要”すれば、それは主権国家への軍事介入ではないでしょうか。ベトナムへの巡視船艇供与を検討していた日本政府は、同国に海上保安庁を海軍から切り離すように交渉しています。現行大綱の下で「武器」を送るためには、対象が軍であってはならないからです。つまり、ODAは相手国に干渉する「ソフトなツール」であり、軍事
と密接に関連するようになれば、政治的に厳しい状況下で人道支援が必要となっても、申し出を拒否されたり、活動に支障を来す恐れがあります。
2014 年4 月21 日
【呼びかけ団体】
ODA 改革ネットワーク
特定非営利活動法人
アジア女性資料センター
特定非営利活動法人
関西NGO 協議会
特定非営利活動法人
名古屋NGO センター
特定非営利活動法人
日本国際ボランティアセンター
特定非営利活動法人
ヒューマンライツ・ナウ
【問い合わせ先】
ODA 改革ネットワーク/高橋・内野
Tel:
070-6437-2388
E-mail:
oda.advocacy@gmail.com