【声明】カンボジア 労働者らのデモに対する当局の弾圧・人権侵害に抗議する

カンボジア 労働者らのデモに対する当局の弾圧・人権侵害に抗議する
1.東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は2014年1月3日に発生した、カンボジア政府によるデモ隊への武力の行使に強く抗議する。
2014年1月2日から3日にかけてプノンペン市内のVeng Sreng 通り周辺の工業団地で賃金引上げを求める労働者と、フンセン政権に反対する野党が抗議活動を行った。このデモに対して、治安部隊は武力で市民を攻撃し、少なくとも4人が死亡し、39人にものぼる負傷者を出した 。
 治安部隊は、致死性のある武器(AK47ライフル)により実弾でデモを行っていた市民を直接射撃し、さらに手榴弾や催涙ガス、鉄パイプやナイフを使い、デモ参加者に対して過剰な暴行を加えたとされる 。その中には、警棒で顔面が腫れるほどの激しい暴力を加えられた参加者もおり、警察は逮捕した後の市民の手首を後ろで縛ったまま地面に放置したという 。
弾圧後、プノンペン地方政府は、あらゆる形の集会・デモを全面的に禁止すると発表。禁止の期限については具体的に示されていない 。
カンボジアの労働者たちは、賃金の引き上げを求めて、昨年から争議を続けていた。去年12月中旬頃から労働者がバベット経済特区において、賃金の引き上げを求めるストライキを起こしており、カンボジア労働省はこの要求に対して最低賃金を月額80ドルから100ドルに引き上げると決定した省令を出した(資料1)。しかし、労働者は最低賃金を月額160に引き上げるよう求めてきたものであり、政府の極めて不十分な決定に対し、労働者たちは抗議を続けていた。
カンボジアでは50万人を超える労働者が衣料製品の製作に従事しており、衣料品を含む縫製品が輸出全体の約80%を占める。カンボジア国内の工場で作られた衣料品はGapやNike、H&Mなどの国際的なブランド・メーカー向けに輸出されているが 、下請けであるカンボジア労働者の賃金は極めて低いままである。 
 
このデモ鎮圧に際し、警察は、デモに参加していた23名の活動家と労働者を逮捕した。カンボジア政府と警察は逮捕後、この23名の行方を公表しなかっただけでなく、適切な治療を受けさせず、家族との連絡も一切認めようとしなかった 。逮捕された中には人権活動家のChan Puthisak、労働者の代表であるVorn Peou、そして農民代表のTheng Savoeunが含まれている 。
逮捕された23名はカンボジア刑法 の第218条と第414条(加重暴行と加重傷害 )に基づいて訴追され 、公開の裁判手続を経ないまま身体を拘束された 。 
また、1月4日には、警察当局がデモ活動のためにつくられた自由広場へも武力で侵入し、1000人におよぶデモ隊の強制排除を行ったとされる 。
2.カンボジア政府・治安当局の行動は、デモ参加者の表現の自由および集会の自由を著しく侵害するものである。また非武装のデモ隊に対する致死性の高い武器による攻撃は国際法上到底許されない。HRNはこれを強く非難し、このような人権侵害を今すぐに中止すること、責任の所在を明らかにすることを求める。
表現や集会の自由への弾圧は、カンボジアも締約国となっている「市民的及び政治的権利に関する国際規約」第19条に基づく国際法上の義務に違反する。また、逮捕された市民に対する取扱いは、自由権規約第14条に違反している。
3.HRNは、カンボジア政府と警察当局による重大な人権侵害を強く非難し、以下のことを求める。
(1)国際人権法・人道法を遵守し、武力による市民への攻撃を直ちにやめること
(2)集会の自由の全面禁止を速やかに撤回すること
(3)最低賃金及び安全な労働環境等の労働条件の整備に関して、労働組合・市民と平和的な交渉を速やかに行うこと
(4)4人のデモ参加者の殺害について、責任者を特定し、捜査し、訴追すること
4.カンボジアの縫製産業は、Gap、Nike や H&Mなど、世界的な衣料ブランドに対して縫製品を提供しているが、その労働者の賃金は著しく低く、搾取的労働が続いている。搾取的労働によって生産された衣料品の提供を受けることは、人権侵害の上にたって利益を享受することにほかならない。
カンボジアの縫製産業に受注している企業は、ビジネスと人権に関する国連指導原則 に基づき、人権侵害を起こさないために相当な注意義務を果たすべきである。これ以上搾取的労働を継続させないよう、適切な行動をとることを求める。