シリアにおける化学兵器使用の即時停止、真相の速やかな解明を求めるとともに、
米国等が進めようとしている軍事介入に懸念を表明する。
1 東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、内戦が続くシリアにおける化学兵器の使用に深刻な懸念を表明する。
8月21日、シリア、ダマスカス郊外で化学兵器による攻撃が行われ、多数の住民が犠牲となった。
国際NGO国境なき医師団は24日、同団体が支援しているシリアのダマスカスにある3つの病院で、合計約3600人の患者が神経ガスによる症状を示していると公表、このうち355人は死亡したとしている。患者らは現地時間で21日未明、けいれんや瞳孔の縮小、呼吸困難などの症状が一斉に確認され、神経毒性症状に用いる薬アトロピンで治療された。同団体のランセン医師は、原因については不明としながらも「3時間以内に神経毒性のある物質にさらされた可能性がある」と指摘した。
化学兵器使用は残虐で非人道的な人権侵害であり、その使用は重大な国際人道法違反に該当し、到底容認することはできない。
ヒューマンライツ・ナウは化学兵器使用を糾弾するとともに、すべての当事者に対し、化学兵器の使用を二度と繰り返さないよう求める。
2 オーケ・セルストロム氏を団長とし、20人の化学兵器などの専門家で構成される、国連のシリアでの化学兵器使用疑惑に関する調査団(国連調査団)は8月19日から現地調査を開始した。
政権側と反政府側は調査に同意したものの、調査開始後に国連車列が何者かによって銃撃を受ける事態が起きており、安全で公正な調査が妨害されている。
ヒューマンライツ・ナウはすべての当事者に対し、公正な調査が実施されるよう、一切の妨害を行わず、安全を確保するよう求める。
また、国連調査団はアレッポ等これまでに化学兵器が使用されたと疑われる地域に立ち入りが認められているが、今回のダマスカス郊外についても調査が実施されるべきである。また、パブロ・ピニェイロ氏率いる国連事実委員会の調査も適切に受けいけられるべきである。
ヒューマンライツ・ナウはすべての当事者に対し、国連の公正な調査に協力し、調査団へのいかなる妨害行為も行わないよう求める。
3 8月21日の事態を受けて、米国、英国、フランスは、シリア現政権が化学兵器を使用したと断定し、近いうちに軍事行動に踏み切る方向で準備していると報道されている。
しかしながら、国連安全保障理事会を完全に無視し、その承認を得ることなく独断で軍事行動に出ることには深刻な憂慮を表明せざるを得ない。いうまでもなく国連憲章は、安保理決議の承認を得ない武力行使を原則として違法としている。事態の深刻さを考慮しても、国際社会のコンセンサスを得ることなく、国際法違反の武力行使を行うことは容認できない。
また、国連調査団による調査の結果を待つことなく、現政権が化学兵器を使用したと断定して、軍事行動に踏み切ることはあまりにも拙速である。米国、英国、フランスは、現政権が化学兵器を使用したとの証拠を国際社会に開かれた形で示しておらず、これでは、透明性の確保された検証が国際社会全体として行うことも不可能である。国連調査団の調査プロセスを無視し、国際的なコンセンサスのないまま、軍事行動の踏み切ることは許されない。
こうした軍事行動が暴力の連鎖を生み、際限のない人権侵害と人命の犠牲につながることが懸念される。
4 ヒューマンライツ・ナウは、シリアにおける内戦開始以降、現政権による深刻な国際人権法・人道法違反が行われていることを厳しく批判し、人権侵害の即時停止を求めるとともに、安保理に対し、シリアにおける事態について国際刑事裁判所に付託することを求めてきた。
他方、反政府勢力の一部についても処刑、拷問や略奪といった重大な国際人権法・人道法違反行為を行ってきた。
今日まで、国際社会が国際的なルールに基づく事実の解明、紛争の解決についてコンセンサスを得られなかったことは極めて遺憾と言わなければならない。
ヒューマンライツ・ナウは改めて国際法に即した事態の解決と、人権・人道法違反行為の即時停止を、紛争当事者はじめすべての関係者に強く求める。
また、内戦を終結させるために、どちらかの勢力に加担する内戦への介入でなく、いずれの勢力にも武器供与・軍事援助を行わないルールの確立を求める。
このために、安全保障理事会は事態を国連憲章に基づいて国際的コンセンサスにより解決するための、緊急会合を開催すべきである。
以 上