【声明】カンボジア:人権活動家Chan Soveth氏に対する不当な訴追に抗議する。

1995年以降カンボジアで一貫して市民のために平和的な人権活動を展開してきた人権NGOADHOCThe Cambodian Human Rights and Development Association)の上級調査員である人権活動家Chan Soveth氏が、政治的意図に基づく訴追の対象となっています。

HRNは、人権活動に対する国家による意図的な攻撃として、深刻な懸念を表明し、本日ステートメントを公表いたします。


2012年8月22日 カンボジア 人権活動家ステートメント.doc

英語版

Statement on Mr. Soveth 2012.8.22.pdf


カンボジア 

人権活動家Chan
Soveth
氏に対する不当な訴追に抗議する。

       

東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、1995年以降カンボジアで一貫して市民のために平和的な人権活動を展開してきた人権NGOADHOCThe
Cambodian Human Rights and Development Association
)の上級調査員である人権活動家Chan
Sovet
h氏に対する、政治的意図に基づく訴追に対し、深刻な懸念を表明する。

2012516日、クラティエ州ブロマ村では、強制立ち退きに反対する人々を弾圧・逮捕するために動員された軍・警察の銃撃を受けて、何の罪もない14歳の少女が殺害された。

カンボジア政府・州政府は少女の殺害の責任を一切取らないまま、住民たちがカンボジアからの分離独立を求める無政府的活動を展開していたと一方的に決めつけ、そうした活動を主導したとして、民間団体Democratic Associationの代表Mam Sanando氏を逮捕した。プノンペン地方裁判所は、Soveth氏に対し、この分離独立運動を援助したとして、刑法544条の重大犯罪のほう助の疑いで824日に召喚することを決定した。
  HRN
は、上記クラティエ州の少女殺害を含むカンボジアにおける土地をめぐる人権侵害について調査するために、クラティエ州を訪れた。Soveth氏はこれに同行し、被害者遺族からの聴き取りのほか、ともに州裁判所、州知事政府を訪問して、土地問題の解決について州の行政・司法当局と建設的な対話を行っていた。その意味で、今回の訴追には驚きを隠すことができない。

カンボジア人権NGOの共同声明によれば、今回の召喚は、フン・セン首相の全国放送でのテレビ演説から2週間以内に発行されたという。演説に際し、フン・セン首相は、NGO活動家がクラティエ州の住民を助けたことを認めた、と言及し、「彼は裁判所に召喚されたのか?まだなのか?」と問いかけた。記録によれば、Soveth氏に対する事件の立件は、首相演説から48時間以内に開始されたという。[1]このような経緯から、今回の訴追について、HRNは、政府主導による政治的な意図に基づく人権活動家への脅迫であると強く疑われる。

カンボジアでは、経済的コンセッション等の名のもとに、土地開発が進んでいるが、その過程で開発対象となった土地を居住、耕作していた人々が強制的に立ち退きを迫られ、住む場所や生活の拠点を奪われている。そうした土地開発に伴う立ち退きによる住民の犠牲は年々深刻化し、これに伴って人々は立ち退きに対する不満を募らせ、住民による抵抗運動・抗議活動が広がっている。カンボジア法上、長年にわたって占有を続けてきた人々には所有権が認められるべきであり、また占有そのものも民法上保護されなければならない。住民との協議を経ない土地コンセッションは本来無効であり、適正手続に基づかない強制立ち退きは違法である。カンボジア政府は住民の正当な抗議を受けて、土地政策を見直すことこそが求められている。ところが、カンボジア政府・行政は住民の訴えに真摯に耳を傾けることなく、強権的な手段で対応することが少なくなく、不当な逮捕、拘禁や、超法規的な殺害まで行われてきた。そして、2012年前半、こうした状況は一層深刻化した。

クラティエ州においても、住民たちが土地法に違反したコンセッションを得てゴム園を営もうとするCasotim社との間で土地紛争に巻き込まれ、抗議行動を行っていた。

市民が土地に対する権利を守ろうとする活動を十分な根拠もなく「分離独立運動」と決めつけ、住民の人権保障のための支援活動を展開した人権活動家に対し、違法行為をほう助したとして刑事訴追することは人権擁護活動そのものに対する重大な挑戦である。

Soveth氏は、824日にプノンペン地方裁判所に召喚される。

HRNは、司法が独立して公正に事件に向き合い、刑事訴訟法、国際人権法上のすべての手続保障を保障すること、無罪推定原則に従って判断することを求める。

また、行政府に対し、本件について、司法にいかなる介入もしないよう求める。

 

 



[1] http://www.licadho-cambodia.org/pressrelease.php?perm=289