【イベント報告】5月26日Asian Activist-α2012、27日ワークショップ:南アジアにおける児童労働と子どもの人身売買
2012年5月26日、青山学院大学にてAsian Activist-α2012が開催されました。昨年は震災の影響で開催が出来なかったAsian Activist-αですが、今年は開催する事が出来ました。
2009年のナンディーニ・ラオ氏(インド・女性NGO Jagoriコーディネーター)、2010年のティンティンアウン氏(ビルマ女性連盟理事)に続き、今年度はインドで子どもや女性の人身売買をはじめとする人権問題に取り組んできたハシナ・カールビー氏に、ヒューマンライツ・ナウからAsian Activist-αアワードを贈りました。
第一部 基調講演:ハシナ・カールビー氏
子どもたちの人権は普遍的に尊重されなければなりません。それが問題に取り組み続ける理由です。私が活動を始めたメガラヤ州は多くの国と国境を接し、人身売買の中継地になっています。私はインドには子どもに関する法律は多くありますが、その執行と取り締まりが不十分です。このような問題に対し、高校生の時から社会起業家として活動を始めたのです。そして、仲間たちとImpulse NGO Networkを立ち上げて現在に至っています。
Impulse NGO Networkで作り上げた「メガラヤモデル」は、5つのPから構成されています。Prevention,
Protection, Policing, Press, Prosecution(予防、保護、取締り、マスコミ、告訴)、これら5つのPが相互に関わると共に、州政府、警察、国際機関、メディア、NGOなど様々なステークホルダーを巻き込んで問題の解決に当たる、というモデルです。このモデルは国際的に、Good Practiceとして認知されており、他の多くの地域でも応用が可能です。
今年の3月に、NGO Impulseは後継者に譲り、私自身はImpulse
Social Networkを立ち上げ、経済発展から人権侵害を防ぐことに取り組み始めました。人身売買を防ぎ、いかに持続可能な成長をもたらすかをテーマに、技能訓練に力を入れて活動しています。社会起業家として、どのような活動分野でも社会は変えられるという確信を持っています。
第二部 トークセッション
第二部のトークセッションでは、ハシナ・カールビー氏、HRN事務局長:伊藤和子氏に加え、ACE国際協力事業担当:成田由香子氏、HRN子どもの権利プロジェクト:田部知江子氏に登壇頂き、児童労働・人身売買の問題について討論が行われました。
「なぜ子どもの権利の問題に取り組むようになったのか?そして現在どんな活動をしているのか」という伊藤氏から成田氏、田部氏への問いかけから第二部は始まりました。
成田氏は、自身の学生時代のインドでの経験から、現在に至っていると述べ、ACEの海外における児童労働をなくすためのプロジェクトや、国内での意識啓発等の子どもの権利に関する活動について詳細に紹介をされました。
田部氏は、自身のこれまでの活動を紹介するとともに、HRNが2010年にハシナ・カールビー氏と共同で行ったメガラヤ州における児童の炭坑労働調査で判明した過酷な児童労働の実態について報告をしました。
質疑応答では、メガラヤ州における炭坑労働の実態について、人身売買議定書等の国際条約選択議定書をどう活用することができるのか、さらに、社会貢献活動と私生活とのバランスの取り方、社会起業を始めるにあたってのアドバイスを得たい等、様々な質問が会場から投げかけられました。登壇者全員がこれまでの経験と知識をもとに児童労働をなくすための活動から社会起業家としての生き方に至るまで語りつくし、白熱した議論により終了時間を約15分延長してAsian
Activist-α2012は閉幕しました。
■2012年5月27日
ワークショップ:南アジアにおける児童労働と子どもの人身売買
2012年5月27日青山学院大学にて、ハシナ・カールビー氏を迎えてワークショップ「南アジアにおける児童労働と子どもの人身売買」が行われました。HRN副理事長である後藤弘子氏がコーディネーターを務め、コメンテーターとして、HRNより現地調査に行った久保田明人氏に加え、UNICEF東京事務所代表の平林国彦氏をお招きいたしました。
まず久保田氏より2010年にHRNとImpulse NGO Network共同で行ったメガラヤ州ジャインティア丘陵の炭坑における児童労働・人身売買の共同事実調査ミッションと、そこから見えた問題についてお話しいただきました。
ハシナ・カールビー氏は、Impulse NGO
Networkの報告書をもとに、炭坑における児童労働の実態と、状況を変えるために彼女たちがどのような献身的な活動を展開してきたのか、詳細なプレゼンテーションを行いました。中でも、児童1000人に対するアンケート調査の結果や、France24など多くのメディアに取り上げられた際の映像などが注目を集めました。
カールビー氏は最後に、インド政府が法の施行および実効性の確保につき対策を講じなければならないこと、政策・法律が変わるには時間がかかるが、現実を変えるために一歩ずつ着実に行動をしていること、子どもたちが勇気をもって証言してくれたのであるから、私たちは、そのアフターケアをしていかなければならないこと、たとえば、家族のもとに戻れるよう、学校にいけるよう、手助けをしていかなければならない、等と訴えました。
久保田氏、カールビー氏のプレゼンテーションをふまえ、UNICEF東京事務所代表の平林国彦氏からUNICEFの児童労働に対する取り組み、教育支援についてなどのお話を頂きました。
第二部 パネルディスカッション・質疑応答
第二部パネルディスカッションの冒頭で、HRN事務局長の伊藤和子氏より2009年のハシナ・カールビー氏との出会いから、Impulse NGO NetworkとHRNによる現地調査を行うに至った経緯、海外のNGOとしてHRNが参加したことによりインドのメディアから注目が集まり大変意義が感じられたこと、しかし未だに炭坑における過酷な児童労働の状況が改善されていない状況などが報告されました。
質疑応答では、前日行われたAsian Activist-α2012同様多くの質問が寄せられました。児童の炭坑労働に対するインド政府や州政府の対応について、ユニセフの取り組みについて、Impulse NGO Networkの活動について、炭坑で育った子どもたちが成長したのちどのような生活を送っているか、故郷に帰る子どもたちもいるのか、等の質問が相次ぎました。また、カールビー氏が活動を理由に様々な妨害や命の危険や脅迫に晒されながらも、果敢に活動を続けている状況を話すと、会場は感動に包まれました。
UNICEFやNGO等がImpulse NGO Networkのような地元のNGOと協力して事態を変えるために何をなしうるのか、また日本の市民が子どもたちの状況を変えるために何ができるのか、等活発な議論が展開され、終幕を迎えました。
最後に、会場に駆けつけてくださった2010年の現地調査にフォトジャーナリストとして参加された豊田直巳氏からもコメントを頂き、締めくくりとしてカールビー氏から、今日ここで話されたことを周りの人にも伝えることでその影響は大きくなる、問題への関わり方は多種多様であるから、とにかく活動にどのようなかたちでも参加してみることが大切、そうしたひとりひとりの行動こそが問題解決のための力を大きくしていくことになる、とのメッセージが送られました。