【NY事務所】ニュースレター2019年11月号

Monthly E-Newsletter
November, 2019

黄昏時のBryant Parkのホリデー・マーケット

 

感謝祭を迎え、寒さとともに街がホリデー・シーズン色に染まっていくNYですが、いかがお過ごしですか? 日頃からサポートして頂いてるヒューマンライツ・ナウのサポーターの皆さまに、これを機に改めてヒューマンライツ・ナウNYよりお礼を申し上げます。いつもありがとうございます。

今回は、ここ数ヶ月間で進展の多いEWIPA (人口密集地域における爆発性兵器)問題に関する活動報告と今後の予定、国家や当局に非威圧的な尋問方法を教示するガイドライン作成への新しい動き、人権理事会の選挙結果、などに関するニュースをお届けします。


EWIPA (人口密集地域における発性兵器) に
関する政治宣言への動き
〜ウィーン〜NY〜ジュネーブ〜ダブリン〜
人口が密集する都市部で爆撃などが展開された場合、一般市民への打撃は計り知れません。大勢の人が同時に命を落とし、水道管や病院や学校などの公共施設は破壊され、街全体が瓦礫の山と化します。イギリス拠点のAction on Armed Violenceが2011年から2015年にかけて死亡数を記録し続けた結果、2015年の爆発性兵器による死亡は42,795人でした。2011年より45%も増えていました。そして、人口密集地域で爆発性兵器によって命を落とす人々の91%が一般市民だというデータも出されています。人口が密集していない地域では爆発性兵器による死亡者の33%が一般市民であるのと比べても、事態の深刻さが伝わってきます。国連の安保理会議の公開討論などでも、EWIPA 問題への関心と理解を求めて、赤十字国際委員会なども市民の苦しみを繰り返し訴えてきました。

そんな中、2019年10月1日〜2日にオーストリア政府によって開かれた「ウィーン会議」は、より多くの国がEWIPA問題に立ち向かい、政治宣言に向けて議論を交わすことを目的とされたもので、国際的なモメンタムとなりました。INEW (爆発性兵器に関する国際ネットワーク)のメンバーとして、ヒューマンライツ・ナウも出席しました。(報告は下のボタンクリックでご覧になれます。)

そして10月下旬には、国連総会中のNY国連本部で、INEWメンバーとしてヒューマンライツ・ナウNYもキャンペーン活動に参加しました。主な活動内容は、軍縮問題を扱う総会の第一委員会に列席している各国政府の国連代表者ら一人一人に、以下を呼びかけることでした。

●口頭発言の際は、EWIPAが市民にもたらす苦しみについて触れること
●EWIPA を避けるよう呼びかけている国連事務総長と赤十字国際委員会の提言を支持すること
●アイルランド政府が第一委員会へ提出するEWIPAに関する声明へ賛同すること
●口頭発言の際には、EWIPA 政治宣言への支持を表明すること
●11月18日開催予定のジュネーブでのEWIPA に関するコンサルテーションに参加すること

アイルランド政府のEWIPA に関する声明は、最終的には71カ国が賛同しました。去年の50カ国を大幅に上回る結果でした。

続いては、11月18日のジュネーブ。現地入りしたINEWメンバーによると、アイルランド政府開催のコンサルテーションには60〜70カ国が参加し、36の国や団体(INEWも含む)が声明を提出しました。また、フランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、その他NATO加盟国であるヨーロッパの国々は、政治宣言に反対の姿勢を示しました。新しい国際規範を作るのではなく、既存する国際人道法へのコンプライアンス強化の必要性を主張しました。
現在は、アイルランドが政治宣言の草稿に取りかかっています。草稿段階で貢献したい国からのインプットは、12月6日まで受け付けるそうです。

その他にも、2020年の2月と4月には再びジュネーブでコンサルテーションが、5月中旬にはダブリンで政治宣言を是認する会議が予定されています。ヒューマンライツ・ナウNYでは今後もINEWの活動に積極的に参加しながら、EWIPA 問題に取り組んでいきます。

※ウィーン会議の報告は「読む」ボタンより


 

非威圧的な尋問方法などに関する
国際ガイドライン: 現在の状況と今後の方向
International guideline on non-coercive interviewing & associated safeguards: Current status & the way forward
11月11日に国連本部にて、表題のパネルがデンマーク政府国連代表部ならびに以下の団体や機関と共催で開かれました。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、拷問に対する条約イニシアティブ(Convention Against Torture Initiative)、拷問防止アソシエーション(Association for the Prevention of Torture)、オスロ大学ノルウェー人権センター(Norwegian Centre for Human Rights, University of Oslo)、アメリカ大学ワシントン法律大学人権・人道法センター(American University, Washington College of Law, Human Rights & Humanitarian Law)。
パネリストには、拷問に関する国連特別報告者だったフアン・メンデス教授 (Prof. Juan E. Méndez)、国連警察課のアドバイザー兼ディレクターのルイス・カリーロ氏(Mr. Luis Carrilho)、グアンタナモ軍事委員会 (Guantanamo Bay Military Commissions) の人権顧問のアルカ・プラダン氏 (Ms. Alka Pradhan)、オスロ警察管轄区ベテラン調査官のハンセン氏 (Ms. Ingebjorg Hansen)の4名が招かれ、司会は国連人権担当事務次長補のアンドリュー・ギルモア氏 (Mr. Andrew Gilmour) が務めました。

まだ拷問に関する特別報告者だった数年前、メンデス教授は国連総会に最後のテーマ別レポートを提出した際に、非威圧的な尋問などを保障する普遍的な条約や規定の発展を呼びかけました。「尋問または取り調べは、特に容疑者に対して行われる場合、脅迫や強制や不当な扱いを伴うリスクと本質的に結びついており、そんな状況下で引き出された自白や情報に頼っても、解決に繋がらないどころか時間と労力の無駄になる」という事実に基づいて発せられた呼びかけです。

新しく作り出されるガイドラインには、道徳的で証拠重視の非威圧的尋問のモデル手法を、経験を基に示すことが求められます。罪を押し付けたり非難する、肉体・心理的操作をする、自白に追いやる、といった手法とはかけ離れたものです。裁判で有罪となるまでは無罪と見なし、真実の追求に努めることを原則とするものです。尋問される側の人の肉体・精神的保護の重要性を説きながら、国家や当局や法執行者など尋問する側が実施すべき安全かつ効果的な尋問手法を紹介します。2018年に発足したガイドラインのイニシアティブには、法執行、警察、国家安全保障、心理学、法律、人権など多岐に渡る分野のエキスパートたちが、多様なジェンダーや地域を代表して参加しています。

アメリカで起こった9.11テロ事件の計画の首謀メンバーとして2002年からグアンタナモに収容されている人たちの弁護も担当するプラダン氏は、収容所への送還から現在までの様々なプロセスにおける人権・法的保護がいかに欠如しているかをパネルで指摘しました。多くの収容者は法的書類なしに送還されてきたり、拷問による自白を強要されたり、証拠なしに嫌疑をかけられ、尋問の記録も残されず、弁護士を依頼する権利も与えられず、裁判の見通しもないままの状態です。あるイエメン人は、「アルカイダを知ってるか?」と訊かれ、「イエメンのアルカイダ(テロリスト・グループのアルカイダとは無関係)の出身だ」と答えただけで収容されているそうです。また、あるパキスタン人は、爆団製造の容疑を一方的にかけられて収容されています。アフガニスタンやイラクにおける状況は特に酷いとのことです。収容者の身元や収容までの経緯に関する情報がほとんどなく、誰が釈放されるべきか判断することも困難な状態であるのが、現在のグアンタナモ収容所の実態です。

ある意識調査の結果によると、アメリカ国民の半数以上が「拷問は効く」と信じているそうです。それがやがて、「必要なら拷問も仕方ない」といった意識の定着に繋がらないようにする必要があります。「拷問は国際人権・人道法に反する非道行為であり、国家や当局や時の権力者は法に従う義務がある」ことを改めて教示するガイドライン。市民と権力の衝突が世界中で頻発する現在、その即急の普及が強く求められていると言っても良いかもしれません。


人権理事会(HRC) の理事選挙の結果

 

先月号で取り上げた「ジュネーブの人権理事会の理事選挙」に関しては、10月17日の選挙の結果、以下の国々が投票によって選ばれました。
アルメニア、ブラジル、ドイツ、日本、リビア、マーシャル諸島、モウリタニア、ナミビア、オランダ、ポーランド、韓国、スーダン、インドネシア、ベネズエラ

これら当選国の中には思いつくだけでも、アマゾンの森林破壊の加担者率いる国、人権活動家への嫌がらせや暴力が蔓延る国、飢餓など人道危機に直面中の国、権力の乱用が日常化している国が入っています。一方では、人権理事会の理事を務めることで、人権侵害国が更生する機会に繋がることが望まれています。もう一方では、人権侵害国に理事を務める権利を許してはならない、という制裁的な見方もあります。

いずれにしても、理事に立候補した国の動機や誓約内容が国民にも共有される必要性と、選挙のプロセスや当選後のモニタリングの重要性は、今回の選挙に限らず指摘されてきた点です。自分の国の立候補や当選を知らない国民が多いということは(国の人権機関に携わる人たちでさえも)、言い換えれば、国民の関心が遠ざけられた「不透明なプロセス」とも言えます。モニタリングを継続する市民社会の存在は必要不可欠であるという声が、世界各地から上がっています。


〜Happy Giving Tuesday !〜
寄付のお願い

サンクス・ギビング(木曜)、ブラック・フライデー(金曜)、サイバー・マンデー(月曜)と続けば、なんと言ってもギビング・チューズデー(火曜)です。ホリデー精神が高まっている方々、感謝祭セール割引でセーブできた分を、チャリティ活動への寄付に回してみませんか? その他にも、社会をより良くしたいという方、興味はあるけどきっかけがないという方、ホリデー・シーズンくらいは世の中に貢献してみようという方。。。今年のGiving Tuesday (12/2) の寄付は、ぜひヒューマンライツ・ナウにお願いします! 皆さまからの寄付が活動を大きく支えます。たくさんの応援をお待ちしております!

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世界人権宣言

~第11条~

2. 何人も、実行の時に国内法または国際法により犯罪を構成しなかった作為または不作為のために有罪とされることはない。また、犯罪が行われた時に適用される刑罰より重い刑罰は課せられない。


今月もご拝読ありがとうございました。
これからもヒューマンライツ・ナウNYをよろしくお願いします。
hrnnyinfo@gmail.com