HRN及びフォーラム・アジアによる共同声明
2011年5月23日
移住労働者の権利擁護に焦点を当てたマレーシア人の人権活動家に対する法的措置の撤回を求める
フォーラム・アジア及びヒューマンライツ・ナウは、マレーシアの人権弁護士、活動家そしてブロガーであるチャールズ・ヘクター・フェルナンデスのケースについて、深刻な懸念を表明する。私たちは、旭工精株式会社の実質子会社である旭工精マレーシアが、31人のビルマ人移住労働者の人権と労働権侵害についての懸念をブログで取り上げたヘクター氏に対して名誉棄損の訴訟を提起したことを知らされた。
2011年2月8日及び9日に、ヘクター氏は、31人のビルマ人労働者の告発について自身のブログ(http://charleshector.blogspot.com/)でいくつかの記事を書いた。これらの労働者は、人材派遣会社であるメトロ・エクセル・リソース株式会社から派遣され、マレーシアの旭工精株式会社で働かされていた。労働者らは、不当に賃金が差し引かれ、仕事を休んだ際に罰金が科されたと主張していた。彼らが補償と公平な取り扱いを求めた際には、解雇しビルマに送還するという脅しを受けた。労働者らは派遣会社から賃金を受け取っていた。しかし、マレーシアの副首相であるタン・スリ・マーユディン・ヤシンは2010年に、「雇用者が外国人労働者について責任を負うべきだ。派遣会社は労働者を連れてくることに対する責任を負うだけである。派遣後は、雇用者が全責任を負うべきだ。」と述べている。
労働者の不満についてブログに記載する前に、ヘクター氏は、事案の詳細と真偽のほどを確かめるために、旭工精株式会社にメールを送っている。ヘクター氏はメールの中で明確に以下のことを要求している。「もし訂正したい点がありましたら、すぐにご連絡下さい。迅速な対応をして頂けると幸いです。もしお返事が頂けない場合、労働者の主張は正しいものとして取り扱います」。会社側は何の反応も示さなかったので、ヘクター氏は先に進めることにし、ブログにビルマ人移住労働者の不満について書き、31人の労働者の全員の保護と、特に送還が迫っていた労働者の保護を訴えた。
2011年2月14日、ヘクター氏は、旭工精株式会社の代理人であるT.S Teoh & Partners法律事務所から一通の手紙を受け取った。その手紙の中で、旭工精株式会社に対する虚偽の事実を公表したことが名誉棄損に当たると主張されていた。さらに旭工精株式会社は、ヘクター氏に対して、1000万マレーシアリンギット(3,309,600 USドル)を7日以内に支払うこと、ブログをすぐに削除すること、謝罪を24時間以内にブログに、また3日以内にすべての英語の全国紙に発表することを要求した。
1週間後の2011年2月21日、ヘクター氏は、裁判所から、会社に関係するすべての記事をブログから即時に削除し、ブログやその他のメディアで裁判を起こされた事実やビルマ人移住労働者の困窮についての発言を禁止する命令を受けた。
2011年4月1日、裁判所は、3回の聴聞手続きの後、裁判が終わるまで、ブログとツイッターにおいて、31人のビルマ人移住労働者の件についての意見を述べることを禁じた以前の命令を確定した。次の聴聞手続きは5月25日に、裁判は2011年6月28日と29日に期日が定められている。
私たちは、事実を明らかにし労働者の主張について調査せず、チャールズ・ヘクター氏に対して名誉棄損訴訟を提起した旭工精株式会社の対応に重大な懸念を有する。
2011年3月12日、マレーシア弁護士会は全会一致でヘクター氏を支持する決議を採択した。その決議の中で弁護士会は以下のことを強調している。「公共の利益を守るために、人権侵害を認識したあらゆる人には、傍観せず、そのような侵害を終わらせ被害者の正義を実現するために必要な措置をとる義務がある。この原則はまた、2010年の権利侵害告発者保護法、1999年のマレーシア人権委員会法、そして刑事訴訟法を含むマレーシアの多くの国内法で承認され、具体化されている」
私たちは、チャールズ・ヘクター氏が人権活動家として、マレーシアの法律に詳しくない労働者の代わりに行動し、SUHAKAM(マレーシア人権委員会)に対して不服申し立てをする手助けをしたに過ぎないと考えている。SUHAKAMは、労働省に対して、この事件について勧告を提出した。
チャールズ・ヘクター氏は、名誉棄損の容疑をかけられ裁判を提起されたことによって、31人のビルマ人移住労働者の権利を擁護するという人権活動家としての行動が妨げられている。ヘクター氏に対する訴訟は、他の人権活動家、人権組織、そしてそのような権利の侵害を告発する「内部告発者」らに対して間違ったメッセージを送ることによって、マレーシアにおける表現の自由を脅かすものであり、こうした人たちが、マレーシアにある企業が行っている権利侵害を表に出すことを避けるようになる可能性がある。
さらに、人権活動家に関する宣言6条は、以下のことを承認している。「すべての人々は、個人として、また他の人と一緒に、あらゆる人権や基本的権利に関する見解、情報、及び知識を他人に対して自由に公表し、伝え、広める権利がある。」マレーシア政府には、この条文に対応して、表現の自由を正当に行使し、人権侵害を公にした結果として報復を受けているチャールズ・ヘクター氏のような人権活動家を保護するためあらゆる手段をとる義務がある。
私たちは、旭工精株式会社と旭工精マレーシアに対して以下のことを強く求める。
1.チャールズ・ヘクター氏に対する訴訟を即時無条件に取り下げること。
2.チャールズ・ヘクター氏の主張の真偽の調査をすぐに開始すること。
3.当該会社によって雇用されている移住労働者に対する人権侵害を阻止するために迅速に行動すること。旭工精は雇用されているすべての労働者が法的に保障されたあらゆる権利と利益を平等に享受できるようすることを確保する責任がある。
私たちは、マレーシア政府と日本政府に対して以下のことを求める。
1.人権活動家に関する国連宣言に従って、チャールズ・ヘクター氏が人権を擁護し、促進する行動を自由に取れるようにすることを確保すること。
2.雇用関係を口実に労働者の権利を保護する責任を逃れようとする雇用者の行動に対して対策をとること。
フォーラム・アジア 人権活動家局 セシリー・ガー
email:hrd@forum-asia.org 電話番号: +66-26532940 内線: 420
ヒューマンライツ・ナウ 事務局長 伊藤和子
email: office@hrn.or.jp