【活動報告】ピースローアカデミー講師派遣報告

ミャンマー(ビルマ)軍事政権下では、多くの少数民族が迫害され、貧困に苦しんでいます。

ピースローアカデミー(PLA)は、このような少数民族の学生たちが、平和や法律について学ぶために設立された学校です。

ヒューマンライツ・ナウはこれまで多くの講師、スタッフをPLAへ派遣してきました。

その際のレポートを掲載させていただき、ご報告に代えさせていただきます。

 


PLA講師派遣報告 久保田祐佳弁護士.doc


PLA講師派遣報告 宮内博史弁護士.doc


PLA講師派遣報告 安孫子理良弁護士 小田川綾音弁護士.pdf


 


【PLA報告】

 

宮内博史弁護士やHRN事務局長の伊藤和子弁護士と、ミャンマー(ビルマ)から逃れてきた若者たちが通う、タイ国境付近にありますPLAで、ニーズ調査を中心としつつ、講義も担当させていただきました、弁護士の久保田祐佳です。
 
宮内博史弁護士が詳細な報告をしてくれる予定ですので、私からは簡単なご報告をさせていただきます。
 
ミャンマー(ビルマ)は皆様ご承知の通り、現在、軍事政権下にあります。そのミャンマー(ビルマ)からタイへ逃れてきた若者たちが通う学校が「ピース・ロー・アカデミー」(PLA)です。
将来、ミャンマー(ビルマ)の民主化を実現できるような人材を育成すること、そしてミャンマー(ビルマ)の民族間対立を融和できるような人材を育成すること、が目的の学校です。ですので、この学校にはミャンマー(ビルマ)のいろいろな民族の若者がいます。ここでは、本国では対立している民族同士の若者も、とても仲がいいです。
 
当のミャンマー(ビルマ)では、今年、20年ぶりに総選挙が行われることになっています。
(HRWの情報によれば11月7日とのことです。)
それを踏まえ、私は民主的選挙のための諸原則と選挙に関する日本の判例をいくつか紹介しました。
 
どこまで自分の行った講義が学生の皆さんの役に立っているのか不安でしたので、授業後、何人かの学生に、「授業は楽しかったですか?役に立ちましたか?」と聞いてみると、「もちろんです。なかなかうまく理解できないこともあるけれど、私たちは、勉強できること自体がうれしいですし、楽しいんです。」という回答が返ってきました。
こうした学ぶことに対する真剣な姿勢には、率直にとても心を打たれました。
その反面、いくらでも学ぶための材料がそろっている日本にいる私は、彼らと同じくらいに真摯な姿勢で日々、法律家としての技術を磨き、一人でも多くの人たちの役に立てる法曹になるための努力をできているだろうか?と、反省しました。
 
ミャンマー(ビルマ)が真の民主的国家になるのには、残念ながら、まだまだ時間がかかると思います。
けれど、こうした活動を地道に積み重ねていくことで、いつかきっと、突然、理不尽に身体を拘束されたり、危険な労働に強制的に従事させられたり、情報統制がなされたりというミャンマー(ビルマ)の状況を打破できるのではないかと、若輩者ながら、信じています。
 
最後に、まだ弁護士になりたての私に、今回のような貴重な機会を与えてくださったHRN事務局長の伊藤和子弁護士には、感謝しても感謝しきれません。
今回の経験を機に、私なりにミャンマー(ビルマ)のために貢献できる道を探ってゆきたいと思います。
 
ぜひ、この報告を読まれた皆様にも、このPLAプロジェクトを初め、さまざまな国際人権活動を行っている、ヒューマンライツ・ナウにも関心を持っていただければ、と思います。
 
それでは簡単ですが、以上で報告を終えさせていただきます。
 
久保田 祐佳

 


 

HRN会員弁護士の宮内博史です。
7月頭に、少し早い夏休みをいただき、HRN事務局長の伊藤弁護士及びHRN会員の久保田祐佳弁護士とともに、Peace Law Academy【PLA】に行ってまいりました。
本日は、当地での活動報告をしたいと思います。
 
端的に説明しますと、PLAは、ミャンマー(ビルマ)において様々な迫害や苦境に遭い、教育を受ける機会をはく奪されてきた学生たちのために設立された学校です。
ミャンマー(ビルマ)では,1988年以来,軍事政権(SLORC。のちのSPDC。)が国を支配しています。
90年にはアウンサンスーチー率いる国民民主連盟(NLD)が選挙で圧勝しましたが,軍政は政権移行を拒絶しました。
その後も,表現の自由は認められず,民衆や僧侶が立ち上がったデモも度々,武力により弾圧されてきました(2007年のデモでは,日本人ジャーナリストの長井健司さんが射殺されました)。
 
そのようなミャンマー(ビルマ)では7つの州にそれぞれ少数民族が住んでいます。中国やインドと国境を接しているミャンマー(ビルマ)ならではの文化の多様性があるのです。
軍政は,このような少数民族に対して,ミャンマー(ビルマ)の一体性を害するとの理由で,敵視してきました。多くの少数民族は貧困に苦しみ,当然のことながら教育も受けられていません。
 
私が行ったPLAは,このような少数民族の学生(多くはタイの難民キャンプへ逃れてきた難民です)が,民族の壁を越えて,ともに平和や法律について学ぶ学校です。
学校には,様々な民族から選抜された25名の学生(男子11名,女子13名 18歳~24歳)がいます。
民族同士の争いもある中,PLAは,ミャンマー(ビルマ)弁護士協会(軍政からは違法団体認定されています)が,平和なミャンマー(ビルマ)を建設するためには,民族の枠を超えたナショナルリーダーが必要だとの認識のもと作られました。
 
PLAは2年コースです(学生たちは現在2年目です。来年1月に卒業予定)。
学校では,英語の授業のほか,ミャンマー(ビルマ)国内法や国際法(国際人権法,国際人道法、国際刑事法も含む)の授業があります。
大学や法科大学院と違い,国からの援助もなければ,公式な学歴になるわけでもありません。学校は,HRNなどの寄付金でまかなわれているのが現状です。
 
HRNはこれまで、毎年、複数名の弁護士をPLAへ派遣してきました。
今回は、伊藤弁護士のご厚意により、私も参加させていただけることになりました。
 
私たちは,以下のスケジュールで今回活動しました。
6月30日 成田からタイへ(現地時間の15時半到着)。そこから車で8時間かけてメイソトへ。
7月1日 はじめてPLAを訪れる。最初の講義を伊藤弁護士が行う。国際刑事裁判所について皆で議論する(軍政を国際刑事裁判所へ提訴できるか否か)
7月2日 午前中に私が授業を行う(「刑事手続における国際基準」”International Standards of Criminal Proceeding”)。午後は,皆で様々な国際機関の関係や活動について講義する。
7月3日 午前中に久保田弁護士が選挙に関連した授業を行う(今年は20年ぶりの総選挙が実施されます)。午後は,ミャンマー(ビルマ)における女性に対する様々な人権侵害(性的搾取,強制妊娠/堕胎や人身売買等)の国際人権法上の問題点について学生と話し合う
7月4日 朝,メイソトを出発しバンコクへ向かう。
7月5日 帰国
 
私の講義では主に,刑事手続における国際人権基準について学生たちと話し合いました。自由権規約(及び規約人権委員会の一般的見解(日弁連のHPから印刷したものを配布))と世界人権宣言を実際に学生たちに読んでもらい,ケースを用いて様々な問題点について検討してもらいました。ミャンマー(ビルマ)では,理由なき恣意的な逮捕,拷問による取調べ,弁護人依頼権の拒絶が日常茶飯事に行われています。学生たちに,個々の条文を見てもらい,なぜ,それぞれの条文が大事なのかについて考えてもらいました。その上で,世界人権宣言及び自由権規約に規定されている,「拘束は原則であってはいけない」と「何人も無罪の推定を受ける」という2つの大原則の重要性を説明しました。
 
学生たちと過ごした3日間はあっという間に過ぎました。
ここでは書ききれませんが,学生たちからは素朴な,そして本質的な質問がたくさんきました。
そして,何よりも,学生たちの学ぶ事に対する意欲には凄まじいものがありました。
少しでも多くを学びたい,そして自分たちの国の人たちのために使いたい,その気持ちがひしひしと伝わってきました。
 
ある男子学生は私に言いました。
「先生,僕たちは,無知で無学です。僕の両親は字も書けませんし読めません。だから,先生から見れば僕たちは馬鹿のように見えるかもしれません。でも,このように学べることがとにかく本当に嬉しいのです。学べば学ぶほど,まだ知らないことがたくさんあることに気付きます。ここで教えてもらったことを少しでも国の人たちのために使いたい。」。
 
ミャンマー(ビルマ)の学生たちは,信じられないくらい,純粋で,素晴らしい人たちでした。
誰も,人より優秀に見られたいとか,名誉を得たいとかという理由で勉強していませんでした。
 
そのような学生たちに教えたことよりも,はるかに多くのことを私自身が教えられました。
法の支配,司法の独立,表現の自由・・・
所与のものとして考えていましたが,それらがいかに大切なものなのか彼らが教えてくれました。
そして,何よりも,学ぶことができ,このように弁護士として活動できる自分がどれだけ幸せなのかということも。
 
私はPLAでの3日間全てを男子学生寮で過ごしました。
学校が終わった後は散歩をしたり,セパタクローをしたりして遊びました。
夜は夜中の3時まで一緒になってW杯を見て盛り上がりました(サッカー好きは日本人と変わりません)。夜は学生たちが夜食のラーメンまで作ってくれました。
 
学生たちとは学校内外で色々話しました。ミャンマー(ビルマ)のこと,家族のこと,民族のこと,そして将来のこと・・・。
PLAでの3日間は,私に原点を思い出させる、貴重な財産となりました。
最後に学生たちとメールアドレスも交換しました(ミャンマー(ビルマ)ではインターネットの利用は制限されていますが,タイにあるPLAではネットは使用できます。)
今でも、メールやFace bookで交流を続けています。
 
別れ際には,「卒業式にはまた会いに来て欲しい。」とまで言ってもらいました。
それが叶うか分かりませんが,今後も,ミャンマー(ビルマ)の学生たちをサポートしていきたいと思っています。
 
このような機会を与えてくださったHRNの関係者に感謝の気持ちでいっぱいです。
今後、一人でも多くの方々にPLAでの活動に携わっていただけたら幸いです。

長くなりましたが,これにて報告を終えます。

 


*Peace Law Academy 講師派遣報告*

 

ヒューマンライツ・ナウはミャンマー(ビルマ)・プロジェクトの一環として、ミャンマー(ビルマ)・タイ国境のメイソットで、みらいの法律家を育てる「ピース・ロー・アカデミー」を支援しています。軍政下のミャンマー(ビルマ)に生きながら、自由と人権を求める未来のリーダーとなる若者たちや難民キャンプの若者たち24名が2年間、人権・民主主義などを学ぶ、次世代のミャンマー(ビルマ)のリーダー・法律家を育てていく学校です。毎月講師、スタッフを派遣し、今年3度目となる今回は、HRN会員の安孫子理良弁護士、小田川綾音弁護士が派遣され9月10日から13日まで講義を行いました。

 

小田川 綾音 弁護士

Odagawa.png小田川弁護士は生徒と丁寧にコミュニケーションをとりながら、政治に参与する自由を保障した自由権規約25条と選挙権の基本原則(普通選挙、平等選挙、自由選挙、秘密選挙、直接選挙)を中心に授業を行いました。グループ・ディスカッションでは、2008年のミャンマー(ビルマ)新憲法上の選挙権を制限する規定①宗教団体のメンバー②犯罪者③破産宣告者④関係法律のもとで「精神異常」(unsound mind)とされた者⑤選挙法で選挙を禁止された者に対する選挙権の制限が自由権規約25条に沿うか否かにつき、学生が10のグループに分かれ、それぞれ沿う、沿わない理由を検討し、発表をしました。また、日本の公職選挙法のもとでの選挙運動に関する制限規定をいくつか挙げて説明しました。特に、戸別訪問を禁止している法律の合憲性が問題となった事件で、下級審と上級審とで違憲・合憲の判断が分かれたこと、各判断の論理を紹介し、学生とディスカッションをしました。ミャンマー(ビルマ)では本年11月に総選挙を控えており、学生たちにとって選挙は身近な話題のようでしたが、学生の中で選挙を実際に参加したことのある者はいなかったため、授業の内容であった選挙の原則と実際に行なわれる選挙とを結びつけるには想像力が必要であったように思われます。

 

安孫子 理良 弁護士

Abiko.png安孫子弁護士は流暢な英語で表現の自由を制限する法理を中心に授業を行いました。表現の自由の支える重要な二つの価値である自己統治、自己実現という概念を説明し、表現の自由が憲法で保障された人権の中でも、特に人権の制限が厳格に考えられていることを紹介し、実際のケース・スタディ「国旗を焼却することを禁止・処罰する法律」、「コーランを焼却することを禁止・処罰した法律」を通して、これらの行為を規制することが違憲か合憲かを10のグループに分かれて議論を行いました。授業で学習した表現の自由を制限する法理である「現在かつ明白な危険」の法理、「より制限的でない他に取り得る手段の基準(LRAの基準)」を参考にしながらグループ・ディスカッションを行いました。全体として意見交換を行った後に、星条旗を焼却することを禁止した法律を違憲としたアメリカの判例を紹介しました。アメリカでは非常に広く表現の自由を保障していることを事例を通して紹介し表現の自由の重要性を伝えました。しかし、ミャンマー(ビルマ)が多民族国家であるため、国家批判、民族・宗教批判は国家の統合や治安に対する危険性が強いとの大きな危機感を学生が持っているからか、国家批判や民族・宗教批判といった表現について内容自体がよくないとの理由で禁止・処罰してよいという考え方が学生たちに根付いており、表現を内容によって規制することの危機意識は薄いようでした。

 

*日程*
9月10日(金)安孫子弁護士:
表現の自由の重要性と表現の内容に基づく表現の自由を制限する法理
9月11日(土)小田川弁護士:
自由権規約25条の選挙権の基本原則と選挙権・被選挙権の制限
9月12日(日)安孫子弁護士:
表現内容に基づく表現の規制についてのケース・スタディ
9月13日(月)小田川弁護士:
自由権規約4条の緊急事態と全日程を範囲に含む小テスト

「ピース・ロー・アカデミー」ではミャンマー(ビルマ)のいくつかの少数民族から選抜された学生たちが豊かな自然の中でのびのびと学習していました。ミャンマー(ビルマ)の難民キャンプやミャンマーでは出会うことのできない海外からの講師との交流を楽しみ、新しい考えや知識を吸収しようとする意欲が強く感じられました。授業以外の時間には近くのお店へお菓子を買いに行ったり、韓国ドラマを見たり、インターネットを使って過ごしていました。しかし、休暇があっても安全上の理由から旅行をする自由がないことや家族との連絡を取ることができないこと、「ピース・ロー・アカデミー」卒業後の先の計画が不透明であるなど心に不安を抱えながらの生活のようでした。特に今回の滞在中はミャンマー(ビルマ)総選挙が迫る時期であったため、テレビではミャンマー(ビルマ)の民主系のニュース番組(DVB, Democratic Voice of Burma)を真剣にみる姿もありました。