2008年12月から2009年1月にかけてのガザ紛争における国際人権・人道法違反について、昨年9月、国連独立調査団が調査報告書(「ゴールドストーン報告書」)を発表し、紛争両当事者に国際人権・人道法違反に関する真摯な調査を求め、これが実現しない場合、国連安保理は事態の国際刑事裁判所(ICC)への付託を検討すべきだと提案してから一年が経過した。しかし、この問題の責任の所在は未だに明らかにされないままである。
今年4月の国連人権理事会決議に基づき、紛争の両当事者の国内的調査手続を監視・評価することを任務とする、独立専門家委員会(Committee of Independent Experts)が設立され、今年9月21日同委員会はその結果について報告書を公表、9月27日人権理事会に正式に提出された。
同報告書によれば、ガザ紛争に関する「ゴールドストーン報告書」において国際人権・人道法違反と指摘された事案を含む国際法違反について両当事者が国際水準に従った調査を実施していないことは明らかである。イスラエル側は、同委員会への協力を一貫して拒み続けており、これまでになされた刑事訴追は4件のみ、有罪判決はクレジットカード不正使用の1件に過ぎない。
そして、ガザ侵攻作戦の計画、命令、監督などのハイレベルな作戦決定に関わる責任者の調査が行われておらず、調査機関には独立性がなく、調査方法が公平性・透明性を欠き国際基準を満たしていない。他方、パレスチナ側に関しては、問題とされるいかなる事案についても刑事訴追がなされていない。
一方、9月23日、人権理事会が、ガザ自由船団に乗船していた民間人への攻撃に関して設立した国際事実調査団(International Fact-Finding Mission)も、その報告書を公表した。調査団は、自由船団におけるイスラエルの軍事行動について、「行為の残虐さは、容認できるレベルを超えており、安全保障その他の理由で正当化することはできない」とし、故意の殺人、拷問・非人道的な取り扱い、身体若しくは健康に対する重大な苦痛・傷害を加える行為がなされた明らかな証拠があり、ジュネーブ第4条約の重大な違反があると結論付けた。同時に、ガザ地区の封鎖が違法であることを指摘した。
これだけの深刻な人権侵害に関する責任追及の欠如を国際社会が漫然と放置し、正義を遅らせることは許されない。不処罰を容認すれば、再び同様の人権侵害が繰り返されかねない。
昨年11月と今年2月、国連総会は、ガザ紛争に関して国際基準に基づく調査を求める決議を採択したにも関わらず、ガザは未だに人道上危機的な状況にある。また、長期化する封鎖によって、その状況は刻々と深刻さを増している。
国連人権理事会は、人権に関する主要機関として、この事態を打開するイニシアティブを発揮すべきである。今こそ、国際的な正義を実現する手段を取るべき段階に来ている。
ヒューマンライツ・ナウは、国連人権理事会に対し、
1. ガザ紛争に関してイスラエル、パレスチナ側双方が、国際基準に基づく自主的な調 査を実施することを怠ったことを確認すること
2. 国連事務総長に対し、独立専門家委員会報告書および国際事実調査団報告書を国 連安保理に提出すること、ゴールドストーン報告書の実施状況に関する包括的な 報告書を国連安保理に提出するよう求めること
3. 国連安保理に対し、国連憲章7章に基づき、ガザ紛争および自由船団への攻撃に関す る国際人権・人道法違反について、ICCへの付託を含む、法的な手段を持って説明責 任を確保するよう要請すること
4. イスラエルに対し、ガザの封鎖の解除を再度強く求めること
を含む、人権回復のための決議を採択するよう求める。