【報告書】バングラデシュにおけるロヒンギャ難民キャンプに関する調査報告書を発表しました。

2018年8月30日

国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、2018年8月30日、バングラデシュにおけるロヒンギャ難民キャンプに関する調査報告書を公表いたしましたので、ご報告いたします。

「バングラデシュにおけるロヒンギャ難民キャンプに関する調査報告書」

報告書全文はこちらからダウンロード頂けます。

以下、報告書の概要です。

 

ミャンマーにおける少数民族ロヒンギャに対する暴力や弾圧が後を絶たず、大規模な難民危機を引き起こしています。

イスラム系の少数民族であるロヒンギャの人々はミャンマーにおいて市民権を否定されており、長く差別の対象になっていました。2017年8月25日、ロヒンギャの武装組織がミャンマー政府の治安部隊の前哨基地に対して攻撃を行ったことがきっかけとなり、ミャンマーの治安部隊によってロヒンギャの人々全体をターゲットにした暴力的な弾圧が開始されました。以降、ミャンマー国内におけるロヒンギャに対する暴力行為は後を絶たず、70万人近いロヒンギャ難民が隣国バングラデシュに避難しています。

ロヒンギャに対する人権侵害は広範囲に及び、大量虐殺、強制失踪、恣意的な拘束、居住村落の焼失、財産の略奪とその他の破壊、ロヒンギャが所有していた村や土地の整地、殴打と拷問、強姦やその他の性的暴力、宗教的、民族的な差別行為、人道的なアクセスと食糧やその他の生計手段の剥奪などが報告されています。

ミャンマー政府は、これらの糾弾を否定しており、ミャンマーに関する国連独立事実調査団ひいては国連特別報告者イ・ヤンヒの関連地への入域を拒否した上、ロヒンギャ虐殺の報道に関わったジャーナリストを恣意的に逮捕しています。

ロヒンギャ難民の帰還については、バングラデシュとミャンマー間の議論がされているものの、難民本人の意思による安全な帰国や帰国先の安全を十分に保障していない可能性が指摘されています。

国連事務総長、国連事務総長補佐、そして国連人権高等弁務官は、こうしたロヒンギャへの人権侵害に対し、民族浄化にあたるとし、非難を表明しています。

 

ヒューマンライツ・ナウによる調査結果

ヒューマンライツ・ナウ調査チームは、2018年1月、サブラン・エントリーポイントとバングラデシュのコックス・バザール県周辺にあるクトゥパロン及びバルクハリ・ロヒンギャ難民キャンプにおいて、170人以上ものロヒンギャ難民、国内外の医療専門家、NGOスタッフ、バングラデシュ軍に所属する軍人、そしてバングラデシュ・ミャンマー国境沿いに居住するバングラデシュ国民を対象にインタビューを行いました。

 

ミャンマー内における人権侵害

派遣団は、インタビューを通してミャンマーにおけるロヒンギャ難民への殺人、空襲、拷問、恣意的な逮捕、強姦、略奪、そして家屋並びに村全体の焼き討ちなど広範にわたる人権侵害を確認しました。

ヒューマンライツ・ナウは、こうした大規模な人権侵害は、人道に反する罪に等しいと考えられると懸念します。また、証言された残虐行為や追放は、ロヒンギャという民族グループを破壊する意図を示しており、ジェノサイドを構成すると考えられます。

また、ミャンマー政府は継続してロヒンギャの家族の引き離しており、また、ロヒンギャの十分な生活水準及び身体的・精神的健康を享受する権利を否定してきたことから、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の違反を含むといえます。

 

難民キャンプにおける状況

また、訪問を通して、ロヒンギャ難民がバングラデシュの難民キャンプにおいても、引き続き人権侵害に直面していることを確認しました。キャンプ内の健康衛生状態や災害への脆弱性は深刻であり、難民は必要なサービスを享受できず、栄養不足も深刻です。また、生活必需品の不足により、闇市などの問題が発生しています。難民キャンプでは、子どもは十分な教育を受けることができていません。

本国送還に関しても、ロヒンギャ難民は悲観的です。インタビューでも彼らの安全と尊厳が保障されていない状態下ではミャンマーへの帰還には到底同意できないと明らかにしました。一方で、多くのロヒンギャがその意思に反してミャンマーへと送り返される可能性があることが判明しています。

ヒューマンライツ・ナウは、こうした難民キャンプにおける状況は、国際人権法、特に、経済的、社会的及び文化的権利である身体的・精神的健康及び十分な生活水準を享受する権利、そして、子どもの権利への侵害を構成する可能性があると指摘します。また、ミャンマー政府によるロヒンギャ難民の本国帰還計画が、難民法の定める自発的で安全な帰還を保障する国家の義務に反する可能性があると懸念しています。

 

ロヒンギャに対する人権侵害を終わらせるためには?

ヒューマンライツ・ナウは、ロヒンギャに対する人権侵害への対応のため、下記の提言を行います。

ミャンマー軍及び文官当局に対しての提言:

  • 軍事作戦と人権侵害の中止、 ロヒンギャ虐殺の報道を行ったジャーナリストの釈放
  • 犯罪の独立した捜査とを行い、犯罪行為に対する適切な司法手続きに則った責任追及、
  • 国際機関への関係地域へのアクセスの許可、難民のミャンマーへの自発的な帰還と人道的支援の享受を保障すること。
  • 盗難或いは破壊された財産の原状回復または全額補償
  • 2017年3月に国連人権理事会により設立された事実調査派遣団に対する入国許可と人権侵害の調査の許可
  • 政府諮問委員会の提言(2017年8月発表)の実施
  • ロヒンギャへの市民権付与・1982年国籍法の見直し

 

国連安全保障理事会に対しての提言

  • 国際刑事裁判所へのミャンマーの状況の付託
  • ミャンマー政府への包括的な武器通商停止要請
  • 政府高官を対象とした金融制裁の実施
  • ミャンマー政府に対するロヒンギャの居住地の破壊の即時停止要求、犯罪現場としての保存
  • ミャンマー政府に対する土地略奪の即時停止、難民・人権法の定める基準に則ったロヒンギャ難民の帰還への承諾要求

 

国際社会に対しての提言

  • 追放されたロヒンギャへの金銭的かつその他の資源による福利厚生
  • 追放されたロヒンギャのための持続可能な本国送還計画の実施、市民権及び難民キャンプ外での適切な生活水準担保のため、ミャンマー、バングラデシュ政府に働き掛けること