【声明】ビルマ・タイ国境・人権調査を終えて-ビルマの現状の事態のための日本社会がなすべきこと-(2008/3/3)

 人権団体ヒューマンライツ・ナウは、2008年2 月8日より14日まで、昨年9月に民主化運動が武力弾圧されたビルマの人権状況を調査するため、タイ・ビルマ国境メイソットに滞在し、事実調査をおこなった。

1 人権侵害の状況
 私たちは、9月の抗議デモに参加した僧侶、市民計十数名から事情聴取をおこなった。彼らはいずれも昨年9月の民主化デモへの参加を理由に軍事政権の治安当局から逮捕される危険にさらされ、国内からタイに避難せざるをえなかった人々である。これらの人々の証言は、9月の武力弾圧に際し、著しい人権侵害が発生したことを告発するものであった。詳細は、別途報告書にて発表するが、平和的な抗議行動に対し、軍・治安部隊が容赦なく発砲、市民を意図的に殺傷した事実が明らかになった。弾圧を行ったのは、軍、警察、機動隊のほか、民兵として、「連邦連帯開発協会」(Union Solidarity and Development association、略してUSDA)及びSwan Arr Shinがある。後二者は、直接的な暴力行為を僧侶・市民に対しておこなったほか、とりわけUSDAは、デモに参加して混乱をつくりだし、情報をさぐるスパイとして、またデモに参加した者をさがしまわる密告者として弾圧に不可欠の役割を果たした。
  軍政はデモ参加者約4000人を拘束、そのうち3000人以上は釈放されているが、約700名が未だに収容され続けているという。その以前からビルマには、1100名を超える政治犯が身体拘束をされていたものであるが、現在、政治的な活動に参加した、という理由で拘束されている人々は1800名を超すことになる。
ビルマで最も過酷な政治犯収容所といわれているインセイン収容所には、96名の僧侶と10名程の尼僧も収容され、僧侶は僧衣をはぎとられ、暴行を受け、家族との面会もまったく許されていないという。これら僧侶・市民らは、平和的な行動に参加したという理由のみで、拘束さけ続け、300人以上が訴追されているという。
武力弾圧後の国際社会の非難にも関わらず、人権抑圧の事態は改善されていない。

2  難民の状況について
 ところで、上記のように政治的迫害を受けて、タイ国境に避難した僧侶・市民たちは、難民としての保護が与えられていない。
 タイには国単位での難民認定手続が存在せず、タイ当局は、県単位での難民認定手続を2006年12月以降停止している。こうしたなか、これら迫害をうけた人々は民間団体の善意により一時的に匿われているものの、今後の生活の展望のない状況にある。とりわけ、ビルマにおいて、寄進行為以外に生活の糧を得る行為を禁止されてきた僧侶は、信仰を捨てて労働に従事するか、飢えるかの瀬戸際にたたされている。
 私たちは、タイ当局が一日も早く彼らに難民としての保護をあたえるよう期待するとともに、これら難民に対する国際社会(民間も含め)の支援が重要であると考える。とりわけ、日本政府は、難民の第三国定住をすみやかに導入し、軍事政権に政治的に迫害されて故国を追われた人々や、迫害・戦禍を逃れてきた少数民族出身者を、積極的に難民として日本に受け入れ、保護していくべきである。
 また、こうした人々が日本にたどりついて難民認定申請をした場合も、広く難民として保護すべきである。

3   ビルマの国民投票・総選挙について
  軍事政権はこの2月、2008年5月に憲法国民投票をおこない、2010年に総選挙をおこなう、というロードマップを唐突に発表した。
  しかし、調査団は、民主化勢力・少数民族グループとの対話およびその後の推移を通じ、このプロセスに重大な問題があることを認識した。
  第一に、1990年に選出された国会議員の意向を無視して、憲法起草、総選挙をおこなう、ということになれば、プロセスそのものの正統性に重大な問題がある。
  第二に、憲法草案は、その内容上も重大な問題が存在する。まず、外国人と結婚した者は被選挙権がない、として、民主化指導者アウンサンスーチー氏は総選挙のプロセスから完全に排除されている。440名を定員とする議会において、110人は軍の推薦を受けた者が占めることとされ、民政への意向とは評価できない。さらに、基本的人権については、現行法の範囲内でのみ認められる、とされ、多くの政治犯を投獄する根拠となっている弾圧立法による人権侵害は、憲法制定後も永続する危険性が高い。
  第三に、国民投票、選挙の過程で、投票の自由、選挙活動の自由が保障されるとは到底いえず、公正な国民投票・公正な選挙を実現することは現状では極めて困難な状況にある。最近公表された国民投票法は、国民投票を妨害する言動・活動は懲役刑の対象とされており、軍事政権の提案する憲法の正統性を問うあらゆる活動が抑圧の対象となる危険が高い。また、多くの民主化活動家が投獄され、そしてその根拠となる弾圧立法が廃止されないまま、自由の保障のない総選挙が行われても、公正な結果をもたらすとは到底いえず、アウンサンスーチー氏が選挙プロセスから排除されていることも重大である。
 以上のとおり、現状のまま軍事政権の提案する憲法国民投票、総選挙がすすめられれば、真の民主化を実現しえない重大な危惧がある。憲法起草・確定の過程は、軟禁中のアウンサンスーチー氏をはじめとする拘束されているすべての民主化勢力を釈放したうえで、民主化勢力との少数民族との対話のもとに行われなければならない。
 国連の人権理事会第5回特別会期は、2007年10月、民主化勢力の釈放と、すべての勢力との民主化にむけた対話などを求める決議を採択した。軍事政権の一方的な憲法制定プロセスは、同決議が示した国際社会の一致した意志に反するものである。
 国際社会は軍事政権による一方的なプロセスの強行を傍観せずに、いまこそ一致した声をあげることが求められている。
 日本政府に対しては、アジアの一員として、とりわけアジア選出の人権理事国として、現在軍事政権の方針に明確な反対の意志を表明し、民主化の実現のために積極的な役割を果たすことを求める。