2008年6月5日 ヒューマンライツ・ナウ
ビルマの軍事政権(SPDC)は5月10日と24日の両日、憲法国民投票を強行し、同月26日、この国民投票によって、軍事政権の提案した憲法が投票率98%、賛成92.48%で承認されたと発表した。ヒューマンライツ・ナウは、新憲法が人権保障および民主化を前進させるどころか軍事政権の抑圧体制を延命させる内容であることを警告し、拘束されている全ての民主化勢力の即時釈放と、民主化勢力との対話を行わない限り、真の民主化プロセスに値いしない、と述べてきた。
今回のプロセスは、ビルマ市民のほとんどに、新憲法の内容を知る機会を与えないまま、新憲法に反対する勢力の表現の自由・活動の自由を一切奪ったまま、サイクロンの被災という異常事態のもとに敢行された。
内容も知らされないまま、賛成票を投ずるよう政権から命じられて投票するに至った、との報告がいくつもある。このようなプロセスの強行に、ヒューマンライツ・ナウは強く抗議するものである。
さらに、ビルマの軍事政権(SPDC)は、5月27日、同国の民主化運動指導者であるアウンサンスーチー氏に対する軟禁の延長を本人に通告した。
軍政筋によると延長期間は6か月間であるが、1年間に及ぶとの情報もある。
ヒューマンライツ・ナウは、今回の軍事政権の決定に対して強く抗議する。
現在まで続くアウンサンスーチー氏に対する軟禁は、ディペインの虐殺後の2003年5月に始まる。すなわち、今回の決定により女史に対する軟禁は6年目に突入した(1989年からの通算では12年に及ぶ)。そしてこのことは、国際法のみならず、ビルマの国内法にも違反する。ビルマ国家保護法(Burma State Protection Law)10条(b)は、国家の安全と人民の平和に対する脅威となる者は、訴追や裁判なしに5年間まで軟禁が可能であると定める。これ自体極めて不当な法律であるが、同法によっても、軟禁期間の上限は5年であり、その期限は既に2008年5月に到来している。
よって、それ以上の軟禁延長はビルマの国内法によっても認められないはずであり、今回の軍事政権の決定は、自らが制定した自国の国内法にも違反している。
この決定からはまた、軍事政権の進めるロードマップが、真の民主化・人権と相いれないことを改めて世界に示すこととなった。
今回の軍事政権の決定に対しては、国際社会からも非難が集中している。
国連の潘基文事務総長は27日、軍政によるスーチー氏の自宅軟禁延長を「遺憾」とする声明を発表し、アメリカ、イギリス、インドネシア、オーストラリア、フランスなどの各国の首脳、閣僚からも懸念や失望が相次いで表明されている。これに対し、日本政府はサイクロン被害に関しては活発な動きを展開する一方、スーチー氏の軟禁継続については、沈黙したまま、何らの態度表明も行われていない。このような日本政府の姿勢は、軍事政権による違法な軟禁と民主化の否定を黙認しているものと受け取られかねない。
ヒューマンライツ・ナウは日本政府に対し、アウンサンスーチー氏の一刻も早い釈放を求める明示的なメッセージを発すること、また釈放の実現のために主導的な役割を果たすこと、あらゆる外交手段を用いて、軍事政権に対し、すべての民主化勢力の釈放および民主化勢力・少数民族との対話に基づく民主化の実現をせまっていくよう求める。