ヒューマンライツ・ナウは本日2018年4月9日、声明「国連の専門家および人権活動家をテロリストと名指しした不正な告発とフィリピンの国際刑事裁判所からの脱退に関する声明」を公表しました。
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国連の専門家および人権活動家をテロリストと名指しした不正な告発とフィリピンの国際刑事裁判所からの脱退に関する声明
東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は,2016年6月のロドリゴ・ドゥテルテ大統領就任以降のフィリピンの人権状況の悪化に深い懸念を表明する。
国連の専門家や人権活動家を「テロリスト」と呼んだフィリピン政府の書面提出について,HRNは抗議する。又,HRNはフィリピン大統領ロドリゴ・ドゥテルテの国際刑事裁判所(ICC)からの撤退に関して深い懸念を表明する。
1.国連の専門家と人権活動家へのテロの申し立て
2018年2月23日,フィリピン国家検察官は,2007年の人間の安全保障法第17項(共和国法9372号)に基づいて書面を提出した。フィリピン国内法の下600名以上の個人を「テロリスト及び違法組織及び/又は個人的なグループ」とするとしたものである。
リストには,以下の人権活動家も含まれている。
- ビクトリア・タウリ=コーパズ 先住民族の権利に関する国連特別報告者
- ジョアン・カーリング 持続可能な開発のための「先住民族主要グループ」共同招集者
- ホセ・モリンタス 先住民族の権利に関する国連人権高等弁務官事務所専門機構元メンバー
- ビバリー・ロンジッド 自己決定と自由のための国際先住民族運動グローバルコーディネーター
- エリーサ・ティタ・ルビ ア太平洋女性フォーラム 法と開発分野の元地域コーディネーター(臨時)[1]
多くの市民社会組織,国連人権高等弁務官であるゼイド・アラド・アル・フセイン,および人権活動家の状況に関する国連特別報告者ミシェル・フォルストを含む複数の国連機関はこの書面を非難した。[2]
こうした状況は,国連の人権メカニズムと市民社会組織に対する敵意が増長する環境下で発生した。2017年11月ドゥテルテ大統領は,国連超法規的・即決・恣意的殺害に関する特別報告者アニエス・カラマールに対して,フィリピン訪問をするならば「拒絶」するとして脅迫した。[3]2017年8月,大統領は彼の「麻薬戦争」に反対する活動家に関して,「正義を妨害する者に対しては発砲してよい」と警察官に伝えたとされている。[4]
2.ドゥテルテ大統領のICC脱退に関する通知
2018年3月14日にメディアに発表された声明に記載されている通り,ドゥテルテ大統領は以下のように宣言した。
「フィリピン共和国大統領として,フィリピンがローマ規程への批准を即ちに撤回することを宣言し,通告する」と述べた。[5]
フィリピン政府は即時に当宣言に従って,2018年3月17日にICCローマ規程からの脱退通知を国連事務総長へ正式に提出した。[6]
この通告は,2016年7月以来何千人もの死者を出しているフィリピン政府の「麻薬戦争」について,ICC検察官ファトゥ・ベンソーダが予備調査を始めると発表してから1か月後に行われた。[7]
この麻薬犯罪撲滅作戦による死者について,フィリピン政府は4000名以上だとする。[8]しかしながら,様々な国内及び国際人権団体の調査によれば,非公式には最大1万2000名が、警官や武装した何者かによって殺害されたと推定されている。[9]
ドゥテルテ大統領は当初「国のために喜んでする」[10]と調査について歓迎していたが,すぐに立場を覆して国際刑事裁判所を糾弾した。脱退はフィリピン国内外から広く非難されている。
3.フィリピンの慣行と国内及び国際規格間の不整合性
2007年の人間の安全保障法に基づいて書面が提出されたことは,リストに掲載された個人を訴追するというフィリピン政府の意図がうかがえる。[11]
同法では「テロ加担の陰謀」の罪に対して40年以上の禁固刑と規定している。
従って,今回の書面提出は,当条約は,国連任務を遂行する専門家に対する法的手続きに関する特権を認めた国連の特権及び免除に関する条約第6条と相容れないものである[12]
また,書面に挙げられた多くの人権活動家は,フィリピンでの先住民族分野での権利擁護を進めていた。先住民の権利はフィリピンにおける深刻な問題となっており,先住民の権利活動家が迫害されている現状からすれば,彼らは先住民の権利を擁護し,先住民の権利を否定する政府の方針を批判したためにリストに掲載されたと推測され,これは,自由権規約19条及び国連の人権活動家に関する宣言に相容れないものである。[13]
ICC規程からのフィリピンの脱退というドゥテルテ大統領の決定は議会上院の同意を経ずに行われたが,上院決議289号による1987年憲法第7条21項の解釈によれば,これは違憲である。[14]さらに,大統領の公式宣言はICC規定への批准を「即ちに撤回する」と述べるが,「脱退は通告受理から一年後をもって有効となる」というICC規程の127条と矛盾している。[15]
4.勧告
HRNは国際人権基準およびメカニズムに反するフィリピン政府の最近の行動に対して深い懸念を表明する。ドゥテルテ大統領が国際社会のルールを無視し続けることにより,フィリピン国内の人権・人道状況がこれ以上の悪化することを回避するために,問題に対処し,解決することが求められている。
HRNは関係当事者に向けて以下のように勧告する。
- HRNはフィリピン政府に対し,緊急に以下を行うことを求める
- フィリピン国家検察官による2018年2月23日の書面提出を取り下げること
- 先住民の人権に関する国連特別報告者ビクトリア・タウリ=コーパズ,国連超法規的・即決・恣意的殺害に関する特別報告者アニエス・カラマール,ICC検察官ファトゥ・ベンソーダを含む国連専門家や国際機関と十分な共働をすること
- 人権活動家,ジャーナリスト,司法関係者への嫌がらせ行為と超法規的殺害をただちに止め,正義,法の支配,人権を回復させること
- HRNは国際社会に対して以下のことを求める
- フィリピン政府による国連専門家と人権活動家へのこれ以上の告発,脅迫や嫌がらせを避けるためにあらゆる効果的な行動を取ること
- 国連人権理事会を含めた国際的な場でこの問題を扱うこと
[1] Republic of the Philippines Regional Trial Court National Capital Judicial Region, “Petition to Declare the CPP & NPA as Terrorists Organizations”, 23 March 2018, p. 4.
[2] UN News, “UN rights chief denounces ‘unacceptable’ charges of terrorism by Philippine’s Duterte against UN expert”, 9 March 2018. See https://news.un.org/en/story/2018/03/1004622
OHCHR, “Accusations against UN expert a retaliation by Philippines, say fellow rapporteurs”, 8 March 2018. See http://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=22783&%3BLangID=E
This issue was also denounced by the UN Permanent Forum on Indigenous Issues, the UN Environment Programme and the UN Collaborative Programme on Reducing Emissions from Deforestation and forest Degradation:
United Nations Permanent Forum on Indigenous Issues, “United Nations Permanent Forum on Indigenous Issues stands by indigenous human rights defenders in the Philippines”, 13 March 2018. See https://www.un.org/development/desa/indigenouspeoples/wp-content/uploads/sites/19/2018/03/2018.03.13-UNPFII-statement-Philippines-HRDs.pdf
UN Environment, “Statement in response to allegations of terrorism against UN Special Rapporteurs”, 15 March 2018. See https://www.unenvironment.org/news-and-stories/statement/statement-response-allegations-terrorism-against-un-special-rapporteurs
UN-REDD, “Special Statement – UN-REDD Programme”, 15 March 2018. See https://www.unredd.net/announcements-and-news/2805-special-statement-un-redd-programme.html
[3] OHCHR, “Press briefing note on Attacks/threats by States against UN human rights experts”, 21 November 2017. http://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=22421&LangID=E
[4] The Guardian, “ Human rights group slams Philippines president Duterte’s threat to kill them”, 17 August 2017. https://www.theguardian.com/world/2017/aug/17/human-rights-watch-philippines-president-duterte-threat
[5] Republic of the Philippines News Agency, “Duterte: PH to withdraw from ICC”, 14 March 2018. See: http://www.pna.gov.ph/articles/1028667
The Guardian, “Rodrigo Duterte to pull Philippines out of international criminal court”, 14 March 2018. See: https://www.theguardian.com/world/2018/mar/14/rodrigo-duterte-to-pull-philippines-out-of-international-criminal-court-icc
[6] ICC, “ICC Statement on The Philippines’ notice of withdrawal: State participation in Rome Statute system essential to international rule of law”, 20 March 2018. See: https://www.icc-cpi.int/Pages/item.aspx?name=pr1371
[7] ICC, “Statement of the Prosecutor of the International Criminal Court, Mrs Fatou Bensouda, on opening Preliminary Examinations into the situations in the Philippines and in Venezuela”, 8 February 2018. See: https://www.icc-cpi.int/Pages/item.aspx?name=180208-otp-stat
[8] Presidential Communications Operations Office (Philippines), “Real Numbers Press Briefing with PCOO Assistant Secretary Ana Marie Banaag, Philippine Drug Enforcement Agency (PDEA) Spokesperson Derrick Carreon, PNP Spokesperson Police Chief Supt. John Bulalacao, and PNP Directorate for Operations Acting Executive Officer PSSUPT. Rene Pamuspusan”, 14 February 2018. See: https://pcoo.gov.ph/press_briefing/real-numbers-press-briefing-pcoo-assistant-secretary-ana-marie-banaag-philippine-drug-enforcement-agency-pdea-spokesperson-derrick-carreon-pnp-spokesperson-police-chief-supt-john-bulalacao/
[9] The New-York Times, “Philippines Plans to Withdraw From International Criminal Court”, 14 March 2018. See: https://www.nytimes.com/2018/03/14/world/asia/rodrigo-duterte-philippines-icc.html
[10] Id.
[11] Republic Act 9372 (Philippines), 6 March 2007, Section 4.
[12] Convention on the Privileges and Immunities of the UN, 13 February 1946, section 22(b). See: http://www.un.org/fr/ethics/pdf/convention.pdf
[13] UN General Assembly, “Declaration on the Right and Responsibility of Individuals, Groups and Organs of Society to Promote and Protect Universally Recognized Human Rights and Fundamental Freedoms”, Resolution 2200 A (XXI), A/RES/21/2200, annex. See: https://documents-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N99/770/89/PDF/N9977089.pdf?OpenElement
ICCPR, 16 December 1966, Article 19. See: http://www.ohchr.org/Documents/ProfessionalInterest/ccpr.pdf
[14] Senate of the Philippines, “Resolution expressing the sense of the Senate that termination of, or withdrawal from, treaties and international agreements concurred in by the Senate shall be valid and effective only upon concurrence by the Senate”, Senate Resolution No. 289, February 2017. See: http://www.senate.gov.ph/press_release/2017/0213_drilon1.asp
[15] Rome Statute of the International Criminal Court, 17 July 1998, article 127. See: https://www.icc-cpi.int/nr/rdonlyres/ea9aeff7-5752-4f84-be94-0a655eb30e16/0/rome_statute_english.pdf