(2008年4月HRNニュース第4号より抜粋)
語りはじめた被害者たち
クメール・ルージュ特別法廷 『 国際刑事司法における歴史的な日』
写真:語り始めた被害者たち(画像提供Center for Social Development,CSD)
たとえば、学校の教師だっただけで、収容され、拷問を受け、そして殺される。理由もなく「敵のスパイ」のレッテルを貼られ、処刑される。その家族というだけで、女性も子どもも殺される。それが集団的、組織的に実行される。都市の住民は農村に強制移住させられ、集団農場で強制労働し、飢餓・栄養失調に陥った多くの人が命を落とす。栄養失調を「仮病」とされたり、配給以外の食物を口にして、処刑される。クメール・ルージュ軍が戦闘員でもない村の人々を無差別に殺戮する――。
170 万人ともいわれる人びとの命が犠牲になったカンボジア、クメール・ルージュ政権下(1975-1979) での重大な人権侵害について、当時の責任者を処罰するため、2006 年7月、カンボジア特別法廷(ECCC)が始動しました。
カンボジアでは親族や知人にクメール・ルージュの犠牲者がいない人はいない、と言われ、今もカンボジア社会には当時の深い傷跡が残っています。そこからの回復、国民和解を実現し、再び平和で安定した社会を取り戻すには、責任者を明らかにし、「犯罪者は処罰される」という原則をはっきりさせることが大事です。しかし、HRNは、真の正義(ジャスティス)を実現するために、処罰だけでなく、法廷への被害者参加が重要だと考えています。
圧倒的な恐怖の下で声をあげることも難しかった被害の当事者たちが、ECCC のプロセスに参加できること、動き出した刑事裁判手続にみずから参加し、被害の経験と思いを反映させること。そうして、当事者ひいては地域社会が、深い傷を自らの力で克服し、国民和解を実現していく一助になればと考えます。
2006 年9月、ヒューマンライツ・ナウはECCC に被害者参加を求める意見書を発表し、多くの働きかけを行いました。
この結果、2006 年11 月にドラフトが発表され、2007 年6 月に採択されたECCC の規則に、HRNが提言していた形の被害者参加の仕組み
が盛り込まれました。
そして、2008 年2月、この規則に基づき、初めてECCC の手続きに被害者側弁護士が参加しました。ECCC は、被害者参加の実現を「国際刑事司法における歴史的な日」であると高く評価し、国連ニュースでもそれが報じられました。