(2007年10月発行HRNニュース第3号記事より)
重大な岐路に立つカンボジア特別法廷
●内部規則採択―急ピッチで進む捜査
ECCCでは、今年の6月に「内部規則」が採択されて訴追手続が固まったのを受け、急ピッチで捜査が進み、検察官は5人の被疑者について、いわゆる「予審」のための請求を行いました(カンボジア国内法がベースであるため、フランスの影響を受けた刑事手続となっています。「裁判官送致」とでも言うべき検察官の請求で、「予審」つまり捜査判事による捜査の段階に移ります。その結果次第で起訴するか否か決まります)。現在5人中2人が勾留されています。一人は、S21収容所の元所長であった通称「ドゥック」(64歳)、もう一人は、クメール・ルージュの「ナンバー2」だったヌオン・チア(82歳)です。
●全体的な資金不足
他方、「内部規則」には「被害者参加」の手続も明記され、被害者ユニットの設置なども決まったのですが、その予算は確保されていません。それに留まらず、従来から、全体的な資金不足が指摘されてきました。
これまでECCC予算は3年間で5630万ドル、そのうち①4300万ドルが国連側負担(日本負担分はこのうち2160万ドル)、②1330万ドルがカンボジア側負担と合意されています。ECCCは国際スタッフとカンボジアスタッフで構成される「混合法廷」ですが、①が国際スタッフ、②がカンボジアスタッフの人件費等になります。ただし、実際には②は、国連カンボジア暫定統治機構のために29カ国が拠出した国連トラストファンドが500万ドル、EU(EC)が100万ユーロを拠出するなどとされ、カンボジア政府自身は150万ドル拠出を決めただけです。ECCCは、近々、追加の資金集めキャンペーンを始める予定でした。
●UNDPによる監査―資格をみたさない採用例、異常な高給が判明
ところが、②の一部である国連トラストファンドとEU(EC)ファンドを管理するUNDP(国連開発計画)が、カンボジアスタッフの採用過程や給与の監査をしたところ、多くの重大な問題が判明しました(必要な資格・経験を到底満たさない採用例、異常な高給など)。このUNDPの2007年6月4日付監査報告書は、公開要求が高まる中、ようやくECCCウェブサイトに10月1日公開されました。UNDP報告書は、改善措置の実行がなければ、ECCCからの撤退も考慮すべきとしています。また、改善措置として、採用されたカンボジアスタッフの全面的な見直しも勧告しています。
状況はまさに予断を許さないもので、重大人権侵害を裁くプロセスでの「被害者参加」に着目してきたHRNとしても、ECCC全体の帰趨に関わるこの問題を注視しています。国連の一層の関与の下に、腐敗を克服する方向で前に進めるのでしょうか。流動的な状況の中で、HRNは、情報収集とともに、必要に応じて、現地に赴き、関係機関に意見交換や提言を行うことを今後も検討していきます。
写真:クメール・ルージュの「拷問施設」であったS21収容所。現在は、トゥール・スレン博物館として資料が展示されている。子どもを含む多くの人々(1万5000人とも2万人とも言われている)が収容され、根拠なく拷問され、その後処刑場へ移送されて殺された。写真は、クメール・ルージュが残した被害者たちの写真。